【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

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時は少し遡る。
発端はクルーガーからの秘匿回線での連絡だった。


最後の依頼

時は少し遡る。

ーーーーグリフィン臨時前線基地。

 

鉄血も掃討し、救出部隊がAR小隊と接触したと報告があった頃。

 

「…秘匿回線?」

 

何となく嫌な予感。

 

『久し振りだな、ジョージ臨時指揮官』

「くたばれ」

『ご挨拶だな』

 

通信の相手はグリフィンの社長ことクルーガーであった。

思わず悪態が出た俺は悪く無い。

 

『順調に進んているところ悪いが、悪い報せだ』

「社長直々に悪いニュースを言いに来るってだけで泣きそうだよ」

『申し訳ないが人払いをしてくれ』

 

人払い。

今この執務室に居る人…もとい人形は副官のWA2000だけだ。

 

「すまん」

「分かってるわよ」

 

WA2000は部屋を出る。

…スクリーンに映された髭面を睨めつける。

 

『今そちらに別のPMCが向かっている』

 

別のPMC。

普通なら増援かと思いたくなるが、俺は別の可能性、もとい過去に片棒を担いだ事があったから思い至る。

 

「…ハイエナかよ」

『その通り。この戦場が奴らの支配地域に近いせいで嗅ぎ付けられた様だ』

「あのPMCは確か旧型自律人形と人間の混成部隊だった筈。グリフィンの人形達じゃセーフティが邪魔になるな」

『ああ。そしてお前達はこの戦闘で相当消耗している…』

 

相性の悪い相手と消耗している状態でぶつかる。

誰が見ても負け戦の可能性が濃い状況だ。

 

『そして、お前を切り捨てたPMCも奴らだ』

「は…嘘だろ!?」

『事実だ。そこで私はお前に…指揮官としてではなく、独立傭兵ジョージ·ベルロックとして依頼する』

 

人払いをした理由を察する。

俺がコイツらに切り捨てられ、グリフィンに所属するに至った経緯を誰も知らないから。

 

『敵PMC主力を潰し貴様の商品価値(ちから)を証明して来い』

「は、はは…出資者サマは無理難題を仰る…」

『プランはそちらに任せる。その方が動きやすいだろう?』

「あー…ったく、クルーガーてめぇホント…」

 

思う存分叩きのめしてやり返してこい、と。

それが叶えばグリフィンは支配地域拡大、俺がその導き手として良い待遇で指揮官に就くことが出来る。

 

失敗したとしてもたった一人の独立傭兵の命が消えるだけ。

 

ここまで言われれば今回の人選も察せる。

 

「やってやろうじゃねぇか!クソッタレ!勿論報酬は弾むんだろうな…!?」

『勿論だとも。通常の報酬ともう一つお前に付ける…それは戻って来たら達しよう』

「モチベの上げ方を良く判ってらっしゃる…」

『ここまで質問は?』

「生死は?」

『問わない』

「了解…とりあえず人形達全部逃がすから受け入れの準備だけでもよろしく」

『…任せるとは言ったが、正気か?』

「勿論。攻撃出来ない人形なんて弾除けにもならねーよ」

 

損傷させたら高く付きそうだしな。

 

『…増援の準備もさせておこう』

「え?いやいや、流石に悪いって。やってやるさ」

『では、任せる。死ぬなよ』

 

通信がそこで終わる。

 

「WA2000!」

「追い出したり呼んだり忙しいわね!何よ!」

「全部隊に通達!撤退準備!」

「了解!」

「AR小隊が合流し次第ずらかれ!」

「…指揮官、アンタは?」

「俺は残る。別件でな」

「ふざけてるの?」

 

あ、やべぇ。

WA2000にする説明を全く考えていなかった。

 

「アンタ置いて逃げるなんて出来るわけないでしょう!」

「命令だ」

「嫌よ」

「WA2000!」

 

指揮官権限がまだ与えられていないせいで、人形達へ強制命令権を行使できない。

それを判っていてWA2000も食い下がる。

 

「クルーガーに言われたのね」

「ああ。でも関係無いお前らは返さなきゃならん」

「関係無いですって!?」

「そうだ!お前らは全部借り物だ…俺の都合で傷付けて良い訳じゃない」

 

ここから先は俺の傭兵人生のケリを着けるための自己満足。

そんな物に巻き込むわけには。

 

「バカ!アンタが死んだらM4は?スプリングフィールドは!?…トカレフだって最近やっと立ち直ったのよ!?それを全部台無しにするつもり!?」

 

そう、それだけが気がかりだった。

トカレフについても、俺に依存して持ち直している様に見えているだけだ。

 

「…判ってる」

「なら!」

「けどな、譲れない物もある」

 

散々良いように使い倒されて黙ってる訳にはいかないのだ。

俺だって傭兵だ…兵士なのだから。

 

「…ッ!!ホントバカ!何で人間は生き急ぐのよ!」

「そんなん決まってんだろ…時間制限あるんだから」

「ああもううるさいうるさい!なら、私だけでも連れてきなさいよ!」

「何でそうなる」

「あ、アンタとは三ヶ月の付き合いだったけど…」

 

WA2000のバディとしておおよそ三ヶ月、決して高い頻度では無かったが一緒に戦場で過ごした。

今思えば懐かしい。

 

「アンタと組んでから、私の性能も上がった気がしたし…その、私の性格知っててちゃんと絡んでくれてたし…」

 

驚いた。

普段あまり素直に心情を吐露してくれない彼女が。

 

「もう、アンタは私の、『WA2000』っていう商品の一部なの…失くすなんて絶対ごめんだわ」

「…なんだよそれ。お前こそ意味分かんねぇよ…」

「な、何よ!人がせっかく…」

「…バックアップは?」

「この作戦前にとってあるわ」

「…………しゃーねぇ、連れてってやるよ」

 

まさか、人形に根負けさせられる日が来るなんてな…。

 

「絶対、死なせないから」

 

 




WA2000が付いてくる経緯、ジョージの確執の理由。
…なんか昨日の更新からえらい伸びてて凄まじく驚いてます。
付けたタグを好き勝手弄った結果だとしたら土下座物ですね…。

次回から現在に時間が戻ります。
生きて、帰れるかな…ジョージ。

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