傭兵という自分を終わらせる為に。
走る、走る、走る。
全周囲で鉄血と自律人形、武装した人間の乱戦が繰り広げられる中をひたすら走った。
鉄血を前に意識を逸らす事は死を意味するPMC側と、目にした人間は全て鏖殺しなくてはならない鉄血。
その中を逃走する事は意外にも簡単であった。
「来てるか相棒!」
「アンタこそへばんないでよバディ!」
たまに声を掛け合いお互いを確認する。
後ろを振り返る余裕なんて無い。
生き延びる為にひたすら前へ行くしかない。
…どれだけ走っただろうか。
グリフィンの回収ポイントが近くなってきた。
「もうすぐだ相棒!」
「っ!バディ!」
「ぐっ」
「あっ」
WA2000に押され、そのままもつれるように前に倒れた。
右足に鋭い痛み。
撃たれたのだ。
「WA2000!大丈夫か!?」
「痛…腕と足…3箇所」
計4発。
寸分違わず腕と足に撃ち込んで来ただと…?
しかも、銃声は一度だけ。
「なるほど、私達を利用して活路を拓いたと。人間にしては考えましたね」
背後から足音。
数は…1。
「ですが、貴方達も運の無い…たまたま私の近くを通りがかってしまった」
何とか寝返りをうち、上体を起こす。
…そこに佇んでいたのは、黒い髪を団子に結んだ…メイド。
「え、代理人…!?」
WA2000がそうつぶやく。
「麗しのレディ?お名前を伺っても良いかな」
「人間、貴方はこの状況を理解して言っているのですか?」
「ああ理解してるとも。返事は?」
「…鉄血工造、
「OK代理人。今度お茶でも…」
「っ」
パン、と乾いた音。
隣に居たWA2000の手が撃たれ、持っていたフラッシュバンが転がる。
「フン、つまらない時間稼ぎですね」
「…奴らよりも随分と頭いいな」
「ええ。これでも上位で働かせて頂いていますので」
状況は最悪。
本人の弁を信じるなら、鉄血のハイエンドモデルにたった二人…しかも負傷者で相対している。
無手に見えるが、先程の射撃と良い何か隠している。
油断ならない相手だ。
「聡明なレディに折り入ってお願いがあるんだが…聞いてもらえないだろうか?」
「聞くだけならば」
「見逃してくれない?」
返事はスカートの下から出てきたサブアームから返ってきた。
…代理人がたくし上げたスカートから四本のサブアームが…。
「これなんてご褒…ちげぇ鉄血何考えてんだ!?」
「ジョージ!逃げあぐっ!?」
WA2000が咄嗟に反撃しようにも、今度は肩を撃ち抜かれる。
倒れたWA2000に近寄り、首を掴んで吊し上げた。
「あ、が、か、ひゅ」
「目障りですね…まずは貴女から潰して差し上げましょう」
「やめろ!」
腰からハンドガンを抜き…ハンドガンごと手を撃ち抜かれた。
「ぐっ…う。く、そ…!」
足に力が入らない。
一発片足に貰ったせいだ。
急げ、急げ、急げ。
WA2000が殺される。
…ふと、緑の薬液が目の前に落ちていた。
迷わず手に取り、自分の胸に針を突き刺した。
「が、ぎ、ぎ、あがっ…う、おおおおお!!」
視界が赤く染まる。
しかし体は動く。
痛みもまるで何も無くなったかの様に感覚が消える。
「な」
「オラァ!」
代理人に素早く近付き、蹴り飛ばす。
…結構な威力が出て、堪らず吹き飛んだ。
「げほっ、げほっ…ジョージ、アンタ…きゃっ!?」
WA2000を担ぎ上げて、一目散に走る。
「逃しま…速い…!?」
代理人が後ろから走ってくる。
興奮剤の効果が凄まじく、彼我の距離は縮まらない。
「ジョージ!何してるの!?」
「舌噛むぞ!!黙ってろ!!」
グリフィンとの合流地域に到達すれば、残存戦力で代理人と対峙できる。
人形相手ならば、代理人一人程度押せるはず…!
「あ、れ」
ガクン、と膝から崩れ落ち、二人して転がった。
続いて全身に激しい痛みが走る。
「じ、時間…切…れ…!?」
「ば、バカ!何で私なんかにそんなの使ったのよ!?バックアップあるんだから置いていく選択肢もあったでしょ!?」
「義体の作り直しとか、いくら、かかると、思ってる…」
「喋らないで!なんとか…」
「何ともなりませんよ」
「代理人…」
WA2000の表情が絶望に染まる。
「人間の体で無茶をする。その薬、かなりの負荷をかけるというのに」
「へ、へへ…心配してくれんの?」
「ジョージ!」
「時間稼ぎはもう意味を成しません。諦めなさい」
「いいや…アンタと、茶をしばくのも、悪く無いってな」
「意味不明で…!?」
突如、代理人の足元で爆発が起こる。
「アハハ!見ーつけた!」
頭の上から、どことなく無邪気な声が聴こえた。
そこから、多数の足音。
無数の発砲音。
代理人に向けて数十の銃口が火を吹く。
「…勝てなくはない…しかし、数的不利。仕方ありません…人間、見逃してあげましょう。では…また会いましょう、人間」
…余りにも呆気ない幕切れに、脱力した人形も居たとか。
「よぉ、指揮官。生きてるか?」
「なんとか…な…それより…お前ら何でここに…」
眼帯をし、長い黒髪を三つ編みに束ね…見覚えのある緑のメッシュの入った人形…M16が側に来た。
「体張って助けられたんだ。わたしらも全力で助けないとフェアじゃないだろ?妹も世話になってるしな」
「指揮官!大丈夫ですか!?」
横になった俺に駆け寄ってくる小柄なシルエット。
「はは…M4か。俺を焦がれたか?」
「指揮官を焼くなんて私には出来ませんよ…!?指揮官、しっかり!」
「そう言う意味じゃ…ねぇんだけどな…」
あ、ヤバい…くらくらしてきた。
「指揮官!?そんな、駄目です、目を開けて!指揮官!指揮官!!」
M4…離してくれ…せっかく綺麗なのに、俺の血なんか付けちゃ勿体無い…。
そこで、俺の意識は切れた。
そろそろ最終回も近いかもしれない。
借金返済まで、死ぬんじゃねぇぞジョージ。