そして、今まで触れ合った者たちとの別れの時。
「失礼します」
ノックもそこそこに、ドアを思いっきり蹴り開けた。
何だかんだ初めて足を踏み入れる場所だ。
…G&K本社の社長室…つまり、クルーガーの野郎の部屋だ。
「来たな」
「おっせーよ!どんだけ掛かったんだ俺の研修!」
「大怪我して3ヶ月ベッドの上だった奴が何を言う」
「うるせぇ!とにかく報酬寄越せ!」
そう、報酬。
俺が命を賭けて殴りこみかけた盛大な仕返しの報酬。
まだ受け取っておらず、先日代理人と404小隊に財布の中身を持っていかれた。
「せっかちな奴だ…そこのアタッシュケースに入っている」
「うっひょう↑…これは、期待しても良いのか?」
頑丈なアタッシュケース。
こういった代物には札束が付き物だ。
これは、もしや結構な額が…?
「ご開帳…!……は?」
中に入っていたのは…輪ゴムでくくられたお札が…3枚。
「えっ、何コレ」
思わず素が出てしまった俺は悪くないと思いたい。
「今回の被害と…戦術人形WA2000の修理費用、そしてお前の入院費を引いた金額だ。受け取れ」
「はあ!?ふざけんな!あんだけ期待させといてこれかよ!!」
「要らん怪我をしてくるお前が悪い。聞けば違法薬物のドーピング剤を服用し死に掛けているらしいな」
「うぐ」
「そして、我が社きっての精鋭であるWA2000を
「うぐぐぐ…!!」
「受け取れ」
すまねぇ…母さん…俺は…圧力に屈する…。
「そう気に病むな。特別な報酬も用意してある」
「さっすが社長!」
「…時たま貴様の手のひらは人形並みに回るのでは無いかと思うよ。入れ」
…入れ?
「失礼します」
社長室のドアを開けて入ってきたのは、2体の戦術人形だった。
片方は赤のベレー帽に銀髪を一房頭の後ろで垂らしている。
…おいおいおいおい腹から下がめっちゃ透けてるじゃねーか何考えてんだ。
もう片方はこちらも銀髪、しかしかなり長く腰まである。
赤い瞳が爛々と輝く、異国の軍服の様な物を纏っている。
「初めまして指揮官さん!このモーゼルカラビーナー・アハトウントノインツィヒ・クルツが貴方の為に尽力します!貴方の障害を一掃するわ!」
「あなたが指揮官ですか?9A-91と言います。私の名前ちゃんと覚えてくれますか?」
見たところ、ライフルとアサルトライフルのカテゴリーの人形の様だ。
この子達は一体…?
「お前に貸し与える戦術人形だ。能力も折り紙つきだと認識している。上からの評価も高いようだしな」
「俺に…って事は、この子達が俺に付けられる経験有りの人形か」
「そうだ。残りの3体は新造された者たちを逐次配属させる」
「至れり尽くせりって事かい」
「ジョージ・ベルロック
後ろの二人からぱちぱちと控えめに拍手された。
よせやい。
ふと…気が付いた。
WA2000、スプリングフィールド、トカレフ達と…別れなければならない事に。
出会いがあるなら別れもある。
ジョージ、指揮官になる。