【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

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異動作業中、たまたまWA2000を見かける。
入院中はあまり顔を合わせられなかったので、挨拶しようと後を追う。


ツンデレライフルは素直になるか

異動を週末に控えたある日。

…廊下の角を、見覚えのある黒髪がたなびくのが見えた。

 

「WA2000?」

 

追いかけると、既にそこには誰も居なかった。

 

「…んん?」

「ゲッ」

「…あ?…ゲッ、てめ」

 

後ろからうめき声が聞こえたと思って振り返ると…反射で拳を出していた。

 

「あん時のクソ傭兵…!生きてたのか…!!」

「お前、あの時の…苦労人」

 

グリフィンの制服を着たあの憎き苦労人が、俺の拳を顔の前で受け止めていた。

…腕めっちゃぷるぷるしよる。

 

「誰が苦労人だ!俺の名前はローニンだ!!」

「そうかよ。じゃあ俺はジョージだ」

「なぜ貴様がここに」

「そりゃこっちの台詞だ…と言いたい所だがそう言えばそっちのPMC接収されたんだったな…いきなり本部勤めとはお前優秀だな?」

「じゃなきゃこのご時勢小隊長クラスは勤まらん…」

「それもそうか」

 

お互いに腕を離した…その瞬間お互いのローキックがぶつかる。

相殺されたので肘を出す。

ローニンが受け止め、空いた手で殴りかかって来ようとしたので頭突いた。

 

「ぐっ…!?」

「生憎と俺は来週から指揮官なんでな…お前より立場は上だ」

「なんだと…?!貴様傭兵では無かったのか!?」

「ぐえっ…いい拳してんじゃねぇか!」

「ぐふっ…!貴様もな…!」

「面白れぇ…!」

「表に出ろ、この前の決着着けようぜジョージ…!」

「望むところだローニン…!」

 

いつの間にか回りに人が集まってギャラリーが出来上がっていた。

賭けまで始まってる…あ、それ俺も賭けて良い?駄目?そっか…。

 

「あんた達なにしてんのよ!?」

「下がってなお嬢ちゃん!こいつは男の勝負だ!」

「悪いな相棒(バディ)ここは下がれないね!」

「う る さ い!!」

「ごっ…!?」

 

近づいてきたWA2000に鳩尾一発もらい、そのまま引きずられて行った。

 

「…あいつも大概苦労人じゃねぇか」

 

…グリフィン資料室。

先ほどの人だかりからそれ程離れては居ない…が、人は居ない。

普段からあまり使われていないからだ。

 

「いつつ…おう、久しぶりだな相棒(バディ)

「ええ…3ヶ月ぶりね」

「そんなに経つのか?見舞いに来てくれたっていいじゃないか」

「あんた寝てたじゃない」

「違いない」

 

久しぶりに会う相棒と軽口を叩く。

なんとなく懐かしい気分になる。

 

「…相棒(バディ)、指揮官就任…おめでとう」

「おう?…ああ、ありがとう。お前のお陰だよ」

「あ、当たり前よ!私は…あんたの相棒なんだから」

 

そこまで言い、俯いた。

心なしか震えている。

 

「…どうした?」

「あんたに…言いたいこといっぱいある」

「そうかのか?嬉しいねぇ」

「バカ!本っ当にバカ!!何で私助けるためにボロボロになってんのよ!!」

 

ボリューム調整ミスしてるかってくらい吠えられた。

 

「ああしなけりゃ全滅してた。仕方ない」

「仕方無くないわよ!私は替えが利くのにそんなの助けてたらキリがないわよ!!!!」

「…替えなんていねーよ、俺の相棒には」

 

WA2000は少なくとも俺にとって、この基地に居る数少ない友人であり、対等な存在だと認識している。

 

「相棒を見捨てるなんて出来ない」

「…バカ」

「知ってる。けど、女の前でカッコつけるくらいはさせろ」

「な、なによそれ。意味わかんない」

「分からなくても良いさ。それが男ってやつなんだから」

 

そこで、一旦言葉を切る。

 

「…で、何で俺の事避けてたんだ?」

「…本当は、会いたくなかった」

「何で…」

「だって、私は…あんたと行けない…」

「…」

 

そう。

WA2000は俺の下に配属されなかった。

 

「だから…会ったら、私は私じゃなくなる…」

「そんな事は無い」

「無くない!だって、だって…!相棒(あんた)は私の性能の一部よ!私の商品価値なのよ!」

「…前も言ってくれたな」

 

AR小隊撤退作戦の際、残る前に俺に言ってくれた言葉そのままだった。

 

「私は殺しのためだけに生まれた女…そんな私が…あんたと、別れたくないなんて…思っちゃ…いけないのよ…」

 

相棒の足元にいくつか水滴が落ちる。

 

「別れを惜しむのが、悪い事か?」

「え…?」

「最初はお前、俺の事1ヶ月もつかどうかとか散々扱き下ろしてくれたじゃないか」

「そ、それは!新人なんてそんなものだと思ってたし…!」

「そんなもんだよ。出会いがあるから別れが引き立つ。んで、引き立った分再会がドラマチックになるのさ」

「…何それ」

「今生の別れじゃないんだろって事さ…お前、まさかもう会えないとか思ってる?可愛い所あるじゃん」

「かわっ…!!」

 

WA2000の顔がわあっっと真っ赤になる。

こいつ、隠してたけど赤面症ですぐ赤くなるんだよな…。

 

「心配すんな。俺が相応の実力示せばお前なんかすぐ向かわしてくれるだろ」

「何よ…その自信」

「扱いにくい精鋭の相棒やってたからな。俺の言う事、信じられないか?」

「信じるわ、相棒(バディ)

 

タイムラグなしで言い切ってくれた。

なら、もう言葉は要らない。

 

「私も、絶対そっちに行くわ…信じて」

「…待ってるぜ、相棒(バディ)

 

どちらからとも無く、手を差し出し、握手する。

 

また会う日まで、コンビは解消だ。

…必ず、結成すると信じて。

 

 




相棒とのしばしの別れ。
彼女もジョージも、関係性は信頼と友情全振りの方がいっそ良いのかもしれないなって。

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