【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

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朝、目を覚ます…。
異動の日まで残すところ2日。
別れを告げなくてはならない人形は、あと二体。


白の少女は挫けない

「…重っ」

 

朝。

誰かが上にのしかかって寝ているかの様な重圧で目が覚めた。

 

「誰だ一体…」

 

部屋に侵入されている事にもうある種の諦めを感じていることに、なんとなく悲しくなる。

 

ベットのシーツを引っ剥がすと…トカレフが、俺の上で寝ていた。

 

「………今度は、ちゃんと君なのか」

「んにゅ…ジョージさ…ん…うぇへへ…駄目ですよぉ…」

「どんな夢見てんだ」

 

だらしなくにへっとした擬音が似合うほど表情が崩れている。

とりあえず起こしたほうが良いのだろうか…。

 

「トカレフ」

「んふふ…」

「トカレフ」

「ジョージさん…」

「朝だぞ、ハニー」

「は、ハニー!?」

「起きてんじゃねぇか」

「あ痛っ」

 

顔を真っ赤にして飛び起きたトカレフにデコピンをする。

 

「おはよう、トカレフ」

「うぅ…おはようございます、ジョージさん」

「で、何でここに?」

「…会いたくて」

「…そうか。朝食にしよう。付き合ってもらえるかな?」

「は、はい!喜んで!」

 

 

 

 

 

ーー昼過ぎーー

 

 

 

何だかんだずっとトカレフと居た。

仕事…と言っても研修も終わり、資材リストの確認、発注、依頼の整理等々やる事もそれ程ない。

 

ここで知り合った友人達は皆他の部署へそれぞれ旅立っていたし。

 

「ジョージさん、この書類は」

「シュレッダー掛けといて」

「あら、お手紙が…」

「ん?ああ、それか。上等な紙だからつい残してたけど…」

「むっ…これ、ラブレターですか?」

 

トカレフが手に持っていた手紙。

…よく見ると代理人からの手紙だ。

 

「中身を見るとは淑女のする事じゃないぞトカレフ」

「これ私がジョージさんに届けた物じゃないですか。酷いです…私に運ばせて他の女性とデートしてたなんて」

「デートじゃないよアレは。でもまぁ、気分を害したなら謝るよ」

「…言ってみただけですよ。ジョージさんのせいじゃないです」

「そうか。じゃあ、夕方から一緒に出かけないか?」

「夕方…ですか?」

「ディナーに付き合って貰えないかな、レディ」

「…喜んで」

 

 

 

 

 

ーー夜ーー

 

 

 

トカレフと食事を取り、帰り道にあった無人の公園で二人、街を見ていた。

…何故か高台に設置され、グリフィン管理下の街が一望出来る。

序に言うと転落の危険もあるため人は居ない。

 

「…色々あったな」

「そうですね…」

「俺が、この街に居るのも明日が最後か…この光景も見納めだろうな」

「…いよいよ、何ですね」

「………ああ」

 

明後日、目の前の白の少女を置き去りにしなくてはらない。

中途半端に手を差し伸べた、彼女を。

 

「ジョージさんは」

「…ん?」

「…私を助けた事、後悔していませんか?」

 

トカレフの視線は、眼下の街へ向いている。

 

「後悔、か。俺は悔やんでる様に見えたか?」

「いいえ…びっくりするほど前向きで、羨ましい程に」

「羨ましいのか?俺が」

「はい。…とても」

 

お互いはお互いの表情を見ていない。

 

トカレフは続ける。

 

「ジョージさんは知ってますよね。私が…目の前で指揮官を喪っている事」

「…ああ」

 

その事で彼女は心を病んでしまっている。

ある程度改善してはいるものの、若干依存しているとも言えなくはない。

 

「私は…あの時、どうすれば良かったんでしょう」

「………」

「指揮官を守って壊されれば良かったのでしょうか。指揮官を連れて逃げるべきだったのでしょうか…」

「それは…」

 

誰にも、答えられない。

答えたところで、彼女の指揮官は戻らないのだから。

 

「ジョージさん…私は、ずっと後悔しています」

「…指揮官を助けられなかった事に?」

「指揮官を守れなかった事にです」

 

彼女の抱える闇は、重い。

ぽろぽろと、彼女の瞳から涙が流れる。

 

「トカレフ」

「…はい」

「過去は、過去だよ。IFは無いんだ」

 

それでも、俺は告げなければならない。

彼女に、今を。

 

「分かってます…!そんな事くらい!でも、でも…!!」

「トカレフ。もう良いんだ。君は、頑張った」

「そんな、事、は」

「だから、顔をお上げ。かわいい顔が台無しだ」

「…ジョージさんは、大事な時に限ってそう言う事を言いますね」

 

泣きながら、呆れたようにトカレフは呟く。

 

「君が自信を持てるなら、幾らでも囁いてあげよう。君に届くなら…幾らでも抱き締めよう」

「…あ」

 

トカレフの手を取り、優しく引く。

…体重を受け止めるように、抱き締めた。

 

「トカレフ。君は、何を望む?」

「…もう、失くしたくない。貴方を…喪いたくない…」

「俺は、消えないよ…また君に会いたいからね」

「私もです。絶対、絶対…会いに行きます」

 

その後暫く…トカレフの気の済むまで、抱き合っていた。

 

 




トカレフを必ず迎えに行く。
そう心に決める。

あと、会わなくてはいけない人形は、一体。

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