俺、指揮官になる(強制)
…母さん、俺は今日も精一杯生きてます。
「アンタ、正気か!?自分とこにテロしてきた輩雇うか普通!?」
思わず声を荒げてしまうが仕方ないと思う。
懐が深いとかそういうのでは無く、狂っている。
「まぁ確かにそうだろうな。しかし、今回の襲撃、用意周到に作戦が練られていると見た」
「…そりゃ、雇われたの俺だけだし」
「実際に何から何までタイミング良い撹乱だった。そこで私は、君の手腕が欲しくなってね」
「どんだけ人手不足なんだグリフィン」
「恥ずかしながら指揮官の損耗率も高い。正規軍から引っ張る事も不可能に近く、やはり経験のある指揮官を雇えないのが現状だ」
正規軍もコーラップス感染者たちの対応で忙しくこんな所まで来ないだろう。
「今回君を捕縛できたのは実に渡り船だったわけだ」
「こっちとしては人生の詰みを覚悟してるんだが」
「所でテロリスト君。君の母上は元気かな」
「あ?手紙だと健在っぽいけ…ど…」
顔から血の気が引いた。
待て、このオッサンなんで母さんの事を知っている。
…やっべぇ。人質にされてるわこれ。
「マジかよ。ノーカウントだノーカウント!」
「良いのかな?母上の身に不幸があっても」
「お、お前鬼かよ!!この人でなし!」
「それと、これが今回の被害総額だ。すぐに払えるかね?」
「なっ…」
唐突に見せられたタブレット端末の画面には、見た事もない額が記載されていた…。
「ふ、ふざけんな!たかだかトラック二台横転でこんな被害出るかよ!?」
「そのトラックに乗っていた荷物に問題があってな…うちの主力の人形小隊が乗っていた」
…グリフィンの主力小隊。
転戦していた時に、こいつらと偶に共闘したり対立したりしていたからもしかして顔見知りだったかもしれない。
「まさか、そいつらの修理費もはいってるってのか」
「そのまさかだ」
「オォウ…」
これなら捕縛ではなくそのまま殺されていた方が保険金が母に向かったのでマシだったのかもしれない。
「さて、どうする…と聞きたいが生憎と選択肢は無い」
「だろうな…」
ここで俺を逃がすなんて事はない。
わざわざ人質をチラつかせ譲歩させる気満々の相手だ。
刺激するのは拙い。
おとなしく従うしか、道は無かった。
「…分かったよ。その話、乗るよ」
「そう言うと思って既に登録は済ませてある」
「えぇ…」
完全に手のひらの上で遊ばせられていたらしい。
もう抵抗する気力も沸かない…。
「…勿論?人質にするならちゃんと命の保証してくれるんだろうな」
「何?」
「人質養うための金は出すって事でいいよなぁ?」
「…クッ、ハハハ!気に入った、この状況でまだ反抗するか。良いだろう、保証してやる」
よし、言質取った。
…オッサン…これから俺の上司になるクルーガーが手を差し伸べる。
「では明日から研修を受けて基地配属になってもらうぞ…ジョージ·ベルロック指揮官」
そんな訳で、俺…ジョージ·ベルロックの就職が決定した。
母さん、しばらくは何とかなりそうです。
「…そうそう、言い忘れていたが君にとても会いたがっている人形が居てな」
「はぁ、俺に」
「君に損傷させられたM4A1と言う人形だ」
「主力ってAR小隊かよ…」
よくそんなのと交戦して生きてたな俺。
まぁブービートラップも駆使して直接見られないようにしていたんだが。
「そいつが電脳を損傷して君を
「…は?」
「なので…」
ガンガン!!
何か、金属の板を…有り体に言うなれば扉を叩く音がする。
『指揮官!こちらですか!指揮官!どちらにいらっしゃいますかー!』
「…ヒェッ」
『あはは、指揮官たら本当にシャイなんですから…早く姿を見せてください…ねぇ、指揮官?指揮官…?』
「勿論アレも配属させる」
「お、おま…この野郎あんなの扱い切れるか!?」
「…電脳の修復が進まず対症療法としての措置だ」
「まさか、手に余るから俺に押し付ける気か!?」
『あは…こっちから声が聞こえる…すみません、開けてもらえませんか?え?クルーガーさんの?』
「では、私はこの辺りで失礼する。精々努力してもらおう」
「お、鬼!悪魔!人でなし!!」
俺の叫びは広い背中に吸われることもなく虚しく響いた。
「やっと見つけました…指揮官♡」
「…ヒェッ」
前言撤回。
母さん、俺…生きて帰れないかも。
M4って電脳損傷したら正直ヤバいかもしれないけど、やりたかったからやったので後悔していない。
次回、ヤンデレストーカーM4現る。