クルーガーに呼び出され、社長室に出頭する。
「失礼します」
最近何かと縁のある社長室のドアをくぐる。
…そこには、渋い顔をしたクルーガーと、気怠気な白衣の女性が立っていた。
隈とか凄いが…よく見れば美人だ。
「どういったご要件で?」
「紹介しよう…彼女はペルシカリア。IOPの技術者で…AR小隊の、生みの親だ」
「どうも」
…AR小隊の、生みの親?
そんな人間を、今更俺に会わせてどうするつもりだ…?
「今回君を呼んだのは私。M4の修復の目処が立って、データを洗い出していたら興味深い物を見付けたの」
「…彼女の修復の目処が、立った?」
それは、俺の事に執着する、誤認が解消される事か。
しかし、もう彼女に会うことは無い。
関係の無いことだ。
「ジョージ。私はお前に『最愛の指揮官だと誤認している』と言ったな」
今でも思い出せる。
このヒゲオヤジに言われた無茶苦茶な口上を。
「そもそもM4がそうなった理由は…PMCを雇った人形製造会社の仕業なの」
「…グリフィンが邪魔だから、あのPMCが喧嘩売ってきた訳じゃないのか?」
「奴らも雇われた側だったと言うのが今回の些末だ。話を続けよう」
「その人形製造会社は…まぁ、所謂旧式の自律人形を生産していたんだけど…流石にウチの民生用と比べるとね」
あのゴツいメカより見目麗しい少女達の方が売れるのは、何とまぁ分かりやすい構図なのだろうか。
「まぁ理由なんてどうでも良いんだけどね。そこがAR小隊にちょっかいをかけたんだけど…そのときに使ったウィルスが良くなかった」
「ウィルス?IOPの特別製の彼女がそんな簡単に…」
「たまたま運悪く感染したんだ…
「………!」
口を閉ざしていたクルーガーが、補足するように、ため息混じりに吐き出す。
「車転の横転により身動きが取れない所へ…原始的だが注射器による注入をしたらしい」
「何だそれ…人に近づけ過ぎた弊害だな…」
「それを言われると痛いわ…それで物理的にウィルスを植え付けられたM4は疑似感情が暴走、自壊寸前になっていたの」
感情が暴走…。
その時、彼女が何を思っていたのか判らない、が…。
「…何で、M4は無事だったんだ?」
「それは…M4が貴方に一目惚れしたからよ」
「…………いやいや待て待て。なんて?」
「一目惚れ」
「…人形が?人間に?」
一目惚れ!?
嘘だろ!?
「横転した車両から何とか這い出たM4が、たまたま昏倒していた君を見付けて…暴走していた感情を落ち着ける為にプロトコルを実行したの」
「プロトコル…」
「そう。負傷者は救出しなければならない」
そうか…だから俺は無事にグリフィンの独房にぶち込まれてたのか…。
「それで、君の手当をする内に…暴走が一点に集中して却って正常になったのさ」
「…まるでお伽噺だよ」
「事実よ。暴走した感情に結論を付けて処理してしまったのよ、彼女は」
「じゃあ、つまり…」
「戦術人形M4A1には、そもそも不具合なんて無かった」
ガツンと頭を殴られたような気分だ。
なら、俺が、今までしてきた事は。
「彼女は、今、ただの初恋に焦がれる少女よ」
「ジョージ」
クルーガーが立ち上がり、背を向けた。
「ウチの主力が世話になったな」
何なんだ。
何なんだこれは。
「ジョージ。貴方はこれからもM4と接してくれると嬉しいわ…あの子、娘みたいなものだしね」
意味がわからない。
何で彼女に害を為した俺が、彼女に好かれなきゃならない。
「結果的とはいえ、M4を救っているんだよ、お前は」
そんなことを言われて、今更俺に何をしろと言うんだ…。
…その後のことはよく覚えていない。
気が付いたら、廊下の一角でへたり込んでいたから。
「…俺は、どうすれば良い」
無人の通路に、虚しく声が響いた。
M4の真実を聞かされた俺は、彼女を探す。
せめて、悔いの無いように。
罪悪感を裁いてほしくて。