でも、状況がそれを許してくれないのなら?
許されるまで、頑張る。
なんとなく、柔らかい物に包まれているような感覚がして、目が覚めた。
時刻は朝の五時。
いつもの起床する時間。
…春先で、まだまだ朝は寒い…が、包まっていた布団に別の暖かさがあった。
「…すぅ」
長い銀の髪を惜しげも無く振りまき、穏やかな寝息を立てている人形が一体、隣で眠っていた。
「…懲りねぇなおい」
「んぅ…あら、おはようございます指揮官さん」
「おはよう、カラビーナ。君にいくつか言いたい事があるんだけど、とりあえず一言いいかな?」
「…どうぞ?」
「婚前の婦女子が男と同じベッドで寝るなんてはしたない」
「…指揮官さんは、東方出身ですか?」
一日が始まった。
ちなみに睡眠時間は三時間。
どう足掻いても寝不足である。
(…珈琲飲みてぇ。とびっきり苦いやつ)
勿論そんなものは無いので、黒い事だけが似ている代用コーヒーを飲む。
クソまずい。
でも不味さで目が覚めたので結果オーライ。
指揮官制服に袖を通して、ドアから出る前に一言。
「カラビーナ、お前今日から俺の部屋出入り禁止な」
「そんなっ!?」
さて、今日も頑張ろう。
ーー司令室ーー
「おはようジョージ。よく寝れたか?」
「…ローニン。面白がって鍵外して人形入れるのやめてくれないか?」
司令室に足を踏み入れると、一足先に来ていた副官のローニンが立っていた。
「誰に最初に手を出すか賭けてるんだ。ちなみに俺はKar98kだ」
「何だその賭け。娯楽ないからってそんな事すんなよお前ら…」
「さてジョージ。昨夜の鉄血集団なんだが」
「資料と五分くれ」
「ほらよ」
斥候班から送られてきた最新の状況を確認する。
昨夜の落石で数を減らした鉄血はそのまま前進。
その後、近くの壁に吸い込まれるようにして消えたとか。
「…怪しいな」
「ああ、怪しいな。だが罠の可能性もある」
「ここらでハイエンドは確認されていない…量産型のオツムでは高度な作戦は取れない」
「ま、ハイエンド何ていたら今頃ここは全滅してるがな」
「昨夜までのジャンクの回収率は?」
「終わってるぜ。裏のルートで流して金に換えてる」
「良い顔はされんだろうけど仕方ない。その金で弾薬とか装備を整えよう」
「仕掛けるのか?」
「ああ…三ヶ月ずっと戦いっぱなしだったからな。休みが欲しい」
「同感だ…」
二人揃ってため息を吐いた。
もし、仮にこのエリアに鉄血の工場が存在するなら、潰す他無い。
これ以上数が増えなくなるなら、今よりも大分戦いやすくなる。
「アイツらにも休みやらないとな…」
「ジョージ。あの子らは人形だぞ?そんなに肩入れするもんじゃないと思うが」
「…今や兵士も、労働力も、家族も恋人も人形が代替出来る時代だ。そうなりゃもう人みたいなもんさ」
「…ははぁん?お前、人形で惚れてるやつでも居るのか?」
ローニンが意地悪くほくそ笑んだ。
「何でそうなる」
「たまには明るい話でもしようぜ?で、どうなんだよそこ」
「いねーよ。人形だぞ?」
「いーや、そういう事云うやつに限って惚れた弱みとかでコロッと手のひら返すのさ」
こいつ、適当な事並べやがって…。
「わかった、あの時一緒に居たWA2000タイプだな」
「ちげーよ。アイツは俺の相棒だ」
「じゃあカフェのスプリングフィールドさん。男受け良いからなあの人」
「それもな…」
「スプリングフィールドですって!!」
「「ゲッ」」
スプリングフィールド、と言う単語が出るだけでとこからともなく現れる困ったちゃんが最近居るんだ。
「司令室に入る時はノックをしろと言ってるだろ、カラビーナ」
「指揮官さん!?あの時あの女とは何もなかったって言ってたじゃありませんか!アレは嘘だったんですか?!」
「嘘じゃないって。俺が君に嘘付いたことあるか?」
「ありません、けど」
「信じてもらえて嬉しいよカラビーナ。良いかい?君は聡明な子だ。気立ても良くてその上美人。君みたいなのは俺には勿体無い」
「え、そうですか…?えへへ…」
「だから、俺の言う事…分かってくれるよな?」
「勿論です!!指揮官さん!見ててくださいね!絶対あの女には負けません!」
すこぶる上機嫌で走って司令室から出ていった。
「…お前、いつか刺されるぞ」
「…?褒めただけだろ」
「重症だ…」
心外な。
日常回の一部。
ローニンと話してる時間が一番長い気がしてきた。