ここに潜入しあわよくば敵製造工場を発見し、破壊する。
ブリーフィングを終え、改めて戦術人形達の顔を見た。
「以上。質問は?」
「…ボス、もしかして馬鹿なんじゃないの?」
待てや。
「指揮官自ら斥候に出るって正気ですか?」
GrG3にも言われた。
解せぬ。
「…鉄血なら撃てばいいにゃ。そんな危ない事指揮官がしなくてもいいにゃ」
「IDWまで…」
「指揮官の肩書は、そんなに軽くないんですよ」
情報偵察に出せる程、この基地に人間は居ないし、戦術人形では不足事態対処が出来ない。
結局経験があるのは俺とローニンだけになる。
ローニンは後方指揮もあるため任せられないし…。
「Kar98k、貴女からも言ってください」
「指揮官さん」
カラビーナが静かに近付く。
…ちょっと警戒して一歩下がる。
その前に両肩を掴まれた。
痛いって。
「勇敢と、蛮勇は違います。もう一度…もう一度考え直してください」
「カラビーナ…」
「私達は、指揮官さんの部下ですが…貴方を失ったら、もう何も無いんです。この場所が皆最初の場所で、貴方が初めて出来た指揮官さんなんですよ?こんな早いお別れは、嫌です」
「私も同感だボス。まだアンタを観察しきった訳じゃないしな」
「私は…指揮官に拾われて、感謝してるにゃ。他の基地の私と違って指揮官は大事にしてくれるし…初めて口説かれたにゃ」
「口説いてないぞ!?」
「私は、指揮官を夢中にさせなきゃいけません。先に逝かれるなんて嫌です」
「指揮官、こんな不出来な人形ですけど…貴方の力になりたいんです」
「皆…」
なんて事だ。
戦術人形五体に言い包められてしまった。
いや、でも落ち着くとたしかにこの作戦は駄目だ。
「…すまん、皆。このプランは白紙だ。…少し、時間をくれ」
「指揮官さん、私達が警戒します。…先ずは、充分な睡眠を」
なんてこった…初めてなった指揮官で、部下にこんな気を遣われるなんてな…。
人形達が去った後の、司令室にて。
人形達が座っていた椅子をぼんやり眺めていた。
「…ま、当然の結果だろうな」
「ローニン」
「ほら、何ボサっとしてんだ、さっさと寝ろ」
「情けねぇな…本当に」
「誰だってその無力感と敗北感に折り合い付けて生きてるんだ。乗り越えろよ指揮官殿」
「元小隊長はわかってらっしゃる…」
「抜かせ。愛しのWA2000に合わせる顔が無くなるぞ」
「…そいつは困るな。ローニン、六時間後付き合ってもらうぞ」
「へっ…俺だって死にたくないし、元部下が今度挙式するらしいからな。それまでに休み貰わねぇとたまったもんじゃねぇ」
「へぇ、そいつはめでたい。このご時世、少しでも明るい話題が無いとな…」
疲労と徒労、目先の目標で少し焦っていた。
…彼女たちの為に、部下の為に、出来る事をしなきゃいけない。
「ローニン、また後で」
「…クソ傭兵、お前には貸しが有る。勝手にくたばるなよ」
そんな恨み節を背中に受けて、俺は部屋を後にした。
指揮官として初めて味わう苦い感覚。
成長する為の通過儀礼を経て、吹っ切れよう。
奴らを駆逐する為に。