思うように動けないジョージ。
それでも事態は動いていく。
「えっ、指揮官なんで前線に来てるのにゃ!?」
臨時前線基地にて。
一度補給に来ていた第一部隊と合流した。
「少し事情が変わってな。ここに第一部隊しかいないが先に言っておくぞ。ハイエンドモデル…ドリーマーが現れた」
「…指揮官、一つ質問が」
GrG3が手を挙げた。
「ドリーマーは以前撃破したはず…何故新規個体がここに?」
「…新規の個体ではないらしい。奴は俺をご指名だからな…」
「指揮官…危険です。わざわざ危険に飛び込む必要はないと思います」
「この前Kar98kに怒られたの忘れたのかにゃ…?」
それぞれ、IDWと9A-91がそれぞれ呆れているのが分かる。
「…また怒られるのは承知だ。…だが、今回は以前の様に増援はない…戦力は多いに越したことはないんだ」
「でも、指揮官が万が一死んでしまえばS-12は終わりです。それを承知してください」
「大丈夫さ…今回も、何とかする」
ひとまず状況の把握をしよう。
スカウトチームから送られてきた情報を整理する。
「第二部隊、通信越しで申し訳ないが現状の把握をこちらで行っている。耳だけ少し傾けてくれ」
『こちら第二部隊Kar98k、了解しました』
「ローニン」
『聞いてるぜ。こちら輸送班』
「よし、先ほどドリーマーによる通信があった。グリフィン所属の戦術人形を拉致監禁している。よって、人形の救助を任務として付与する」
『こちらローニン。救出対象の情報を』
「こちら指揮官。戦術人形のタイプはWA2000タイプだ」
『…!!ジョージさん、その人は…』
『トカレフさん、無線機を返してくれませんか…?』
『ジョージ、そのWA2000は…いや、何でもない。各員へ通達する』
「頼む。極力ハイエンドとの戦闘は避けろ。特に生身の部隊はフラッシュでもスモークでも駆使して全力で退避だ。こんな所で戦死は許さんぞ。俺が死亡届を書くのが嫌いなのは知ってるな?」
あの状況からして奴は屋内に居ると見て間違いはない…。
主力兵器であるライフルの取り回しが悪い筈だ。
逃げるだけなら不可能はない筈。
「作戦開始!」
『『了解!!』』
「第一部隊出撃します!」
「指揮官!絶対無理しちゃダメだからにゃ!?ここで指揮しててにゃ!?」
「指揮官、見ててくださいね!絶対無理するなんて嫌ですからね!!」
…ごめんな。
今回も、たぶん俺は無茶をするだろう。
誰も居なくなった部屋で一度、ため息を吐く。
「…WA2000の修理の準備もしなきゃな」
ヘッドセットを頭に付け、外に出る。
…戦場は静まり返っている。
鉄血人形の掃討も粗方終わっており、工廠内への侵入作戦が始まっている頃だ。
「…誘ってる、よな…どう考えても」
背中に背負ったクレーバーが、重い。
やっぱりこいつを使う羽目になるのかと気が重くなる。
『こちらライフルマン!内部に鉄血人形は見られません!』
「…だよなぁ。爆破ポイントまで恐らく妨害が無い…が、用心しろ」
『了解!』
何故なら、目の前の工廠の屋根の上に…ドリーマーが立っているから。
『ハァイ、ジョージィ。元気かしら』
「…お前のせいで気が滅入るよ」
『逢えて嬉しいわ…映像じゃなくてやっぱり生で見るのが一番ね』
「こっからそっちの顔は遠すぎて見えねぇけどな」
『ふふふ、ばっちり見えてるわ。すぐに撃ち抜いてあげる』
「あっぶね!!」
スモークを足元に投下して急いで臨時基地の壁に隠れ射線を切る。
遅れて3発銃声が聞こえた。
「何がしたいんだお前!!」
『貴方と殺し合いたいの!貴方は私を夢中にさせられるか見せて!』
「どいつもこいつも夢中夢中ってほんと…勘弁してくれよ本当に!!」
クレーバーを背中から手に取り、安全装置を外す。
壁からそっと工廠側を覗く。
…ドリーマーは未だ屋根の上に鎮座している。
こちらを舐めている…というより出方を伺っているような感じがする。
(あれ何とかしないと足元の部下たちが危ない…かといって臨時基地の戦力を使うわけには行かないか…)
臨時基地に待機させている部隊は全員生身…狙撃チームも居るには居るが。
『いつまで隠れてるの?早く、早く来て!私に逢いに来て…!!』
シャットアウトしてもすぐにハッキング仕掛けてきて、奴の声が必ず通信機に入ってくる。
段々と奴にペースを握られていく感覚が背筋に走る。
(ここで狙撃戦を仕掛けるか…?いや、万が一脱出する友軍が奴の射線上に現れると拙い…なんとかアレの注意を引いて兎に角現場を離れないと…)
『…早く出てこないと、大事なお人形さんのパーツを一つずつ解体するわよ』
『…ひっ、何よ、まだ何かすひぎっ…!?!』
ぶつり、と俺の中で何か切れた音がする。
通信に混ざる懐かしい声…しかし、それは悲鳴だ。
後は何かしらを千切る音が生々しく耳に入る。
「ふざけんな…ふざけんなよ…」
どうしてこいつはこうもそんな真似をしてくる。
俺の忍耐を試してくる。
「…指揮官よりローニンへ。ドリーマーと交戦中…もしもの事があったら、頼む」
『ローニンよりクソ傭兵へ。お前本ッ当に指揮官向いてねぇよ。甘ちゃんが…戻ったら説教だ。WA2000の居るエリア発見したからそれまで死ぬんじゃねぇぞ』
「向こうから仕掛けてきたんだから大目に見てくれんかね…了解。相棒連れてこなかったら興奮剤原液の刑な」
『…遠慮させてもらう。通信終わり』
スコープを覗く。
奴は、嗤っている。
…ムカついたのでトリガーを引いた。
重い音とともに大口径が火を吹く。
目標の顔のすぐ右側を抜けて行ってしまった。
『やっとやる気になった?』
「…」
コッキング。
すぐに2発目を撃った。
命中を確認する前に移動する。
とにかく障害物…壁に出来るものが欲しい。
現時点で向こうから見下ろされる形になっている…そして、俺の位置はバレていた。
明らかに不利。
ならどうするか。
(…懐に潜り込んでワンチャン狙い…かな。クレーバー至近距離で撃てば衝撃で怯むはずだし)
『こちらスカウト…監禁された戦術人形の部屋の前に到着…しかし、内部にドリーマータイプのハイエンドを確認』
「…何ッ!?」
『こちら第二部隊!屋上でドリーマーを発見!攻撃しますわ!』
「カラビーナ!待て!!」
発砲音。
思わず壁から身を乗り出してドリーマーを見る。
…後ろを向いて射撃を開始しようとしていた。
「くっそ、ままよ!」
クレーバーのトリガーを引く。
…さっきの2射を何故外したのか理解に苦しむが、見事奴の頭を吹っ飛ばした。
『ひっ』
「あ」
カラビーナの短い悲鳴。
…そりゃそうか、目の前でいきなり首から上が木っ端みじんになれば。
『こちらスカウト。部屋の中のドリーマーが…笑い出して…こっちを見た!?』
「逃げろ!!」
『第一部隊突入します!スカウトチームの撤退援護を!』
「許可する!」
隣に一台のバイクが乗り入れて、止まる。
乗っていた男がヘルメットを投げて寄越した。
「指揮官、足だ。乗ってきな」
「ローニン、何やってたんだお前!」
「これからスカウト迎えに行くとこだ。ついでにこいつもお前に持ってきた」
「軍用2輪なんてよくここにあったな…」
「一点物だ。壊すなよ?」
「すまん、感謝する」
「さっさとお姫様連れて戻って来いよ!!」
「任せろ!!」
アクセルを吹かし、鉄血工廠に全速力で乗り込んだ。
結局、部下に背中を押されて行く。
指揮官失格だと揶揄されようと。
複数居るドリーマー、捕らえられた相棒。
まだまだ懸念事項は消えない。