恐らくまた戻って来るであろうあの人形を打倒することを。
結局、休暇を切り上げで戻る事にした。
やらなければならない事を見つけてしまったので、いても立ってもいられなくなったと言うのが正しい。
母さんに伝えて、荷物を纏める。
「…何時でも戻って来て下さいね。借金もそうですが、何より貴方が居なくなったら悲しいです」
「ありがとう、母さん。また二人を連れて来るよ」
「それも良いですけど、今度はお嫁さん連れてきてくれると嬉しいです」
「ぜ、善処する…」
結婚…結婚かぁ。
正直今の俺に嫁さん養える甲斐性なんて皆無だと思う。
本格的に考えるのは借金返し終わってからだろうなぁ。
荷物を纏め終え、机に置かれてたウィングマンを手に取る。
「…親父、アンタ何やってんだよ。一発殴ってやるからさっさと帰って来いよ…」
くるくると手慰みに回し、そのまま構えた。
…サイトの先に春が見えて慌てて銃口を逸らそうとして、
「あっ…」
「ぐおっ…!?」
いつの間にか春が懐に飛び込み俺の顎を下から掌で打った。
…脳が揺らされて、目眩と共に倒れてしまった。
「すみませんジョージ…ジョージ?…やってしまいましたね…」
ーーーーーーー
後頭部に何やら柔らかい感触を感じて目を開けた。
「おはようございます、ジョージ」
春に見下されていた。
…膝枕されていたらしい。
「…何事」
「いえ、その…銃を向けられていたと思って、つい」
「あー…すまん、気付かなかった俺も悪い」
「すみません…身体が勝手に動いてしまって」
お互いに困った顔して乾いた笑いが出た。
「なぁ、春…お前は、これからどうする」
「どう…ですか」
「ああ。ここに居るなら安心して母さん任せられる」
…何となくだが、本社に戻るつもりは無いのだろう。
彼女はいつも居辛そうにしていた。
「…ジョージは、どうして欲しいですか」
「自分の事だ。俺がどうこう言う問題じゃない」
「…ふふ、そうやってわざと突き放すこと言う所、好きですよ」
「はいはいどーも…ったく、お見通しかよ」
手玉に取られているようでとてもやりにくい。
ただ、この先をどうするか本当に悩んでるのは判る。
「私は…何がしたいんでしょうか」
「難しいな。戦術人形である以上、戦ってもらわなきゃ困る」
「でも、私は長い間戦いを放棄していました」
「それは、何故?」
「…恐いから」
「…鉄血が?」
「私自身が」
これがスプリングフィールドが抱えていた問題なのだろう。
「私は…メンタルモデルが穏やかに設定されています。けれど…銃を握った時、まるで別人の様に電脳が冴え渡って、相手をどう壊すかしか考えられなくなるんです」
「戦ってるんだ。皆そんなもんだろう」
「戦闘が終わる度に、これを自分がやった事だと認識するのが…怖いんです」
人格がスイッチのように入れ替わっている?
いや、本来好戦的な性格が穏やかな性格と競合してしまっている…?
好戦的な自分が受け入れられないのだろうか。
「死ぬのが怖いとかじゃないのか」
「…自分がそこらの輩に殺されるなんて思ってませんので」
妙に自信満々で苦笑する。
実際、彼女は強いし。
「俺は実際に戦闘している春を見たことないから何とも言えないけど」
手を伸ばして、春の顔に触れる。
柔らかい。
「お前が美人ってのは判るぞ」
「…私の話、聞いてましたか?」
「勿論。そんな美人に折り入って頼みがあるんだ」
「何でしょうか」
「俺の所に来てくれ」
戦力が圧倒的に足らない。
二度に渡るドリーマーの襲撃に対して、一度目はエリート部隊であるネゲヴ小隊の助力があり退けられた。
二度目は施設の爆破で埋めた。
S-12の戦力で相手をしていないのである。
「ですが、ジョージ…私は絶対に…貴方を失望させます」
「じゃあ、それ見せてくれないか?」
「…狡い聞き方。どっちにしても一度貴方に戦闘を見せなきゃいけないじゃなですか」
「バレたか。今は少しでも戦力が欲しいんだ…
「…私、お古なんですよ」
「知らんそんなの。前誰の指揮下だったかとか興味無いね」
そこまで言うと、スプリングフィールドの顔がくしゃりと歪む。
「…ジョージ…ありがとう、ございます…」
「おう。じゃあ行こうか。二人またせてるしな」
名残惜しいがスプリングフィールドの膝から頭を上げた。
…俺のベッドに座っていたスプリングフィールドの手を引く。
「ちょっと…ジョージ?」
「行こうぜ」
「…はい。スプリングフィールド、これより貴方の指揮下に入ります」
さぁ、帰ろう。
S-12に。
スプリングフィールド、加入。
と、言う訳で休暇編終了です。
次回からリクエストで来ていた人形の登場でまたジョージが振りまわされます。