この更新は本日二回目なので、前の話の見忘れにご注意を。
視界がぼんやりする。
身体が動かない。
酷く気分が悪い。
なんと言うか、二日酔いの豚より酷い顔している気がする。
「ーーーー」
誰かが何か喋っている。
…言い争っているような、少なくとも二人以上は居る。
聞き取れないので、声がした方を向き。
目の前に首が一つ落とされた。
「ーーーっ!?」
声にならない叫び。
その首は白く透き通っていた髪が、無惨にも血にまみれていた。
見開かれた赤い瞳は、俺をじっと見ていた。
涙が止まらない。
声も聞こえないし、それが誰だかすぐに出てこない。
しかし、彼女がとても大切だと言うことは理解していた。
胸が張り裂けそうなほど重い。
視線を上げる。
そこには、崩れ落ちる首の持ち主と…酷く蠱惑的に嘲笑う黒の女。
そいつが近付いてくる。
次はお前だと言わんばかりに特大のライフルをこちらに向けて。
…腕も、脚も動かない。
声も出ず、ただその場で黒の女が動くのを見るしか出来ない。
「っ、あ、あ、」
掠れるような声。
女はゆっくりと俺の右腕に手をかけ…少しずつ、力を込め…。
俺の右腕を、引き千切った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「アぁぁあ゛あ゛あアア゛ああ゛アアア゛アああアア゛ああアア゛ア゛アァァ!!!!?!!!」
耳障りな悲鳴を上げながら、ベッドから跳ね起きた。
…粗い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと周りを見回す。
なんてことは無い、いつもの…S-12地区にある基地の私室。
つい右腕を触り…一先ず付いてることに安堵する。
「指揮官さん!?どうなさいました!?」
ノックもせず、慌てた様子でカラビーナが駆け込んできた。
…カラビーナを見た瞬間、夢で首を落とされていた人形がフラッシュバックする。
「あっ…ひっ、やめっ、やめて、くれ…!」
「指揮官さん?!しっかり!指揮官さん!」
「頼む、来るな、来ないでくれ…!!」
カラビーナに手を引かれ、そのまま覆い被さる様に倒れてしまった。
…そっと、頭に手が添えられる。
「指揮官さん…大丈夫。わたくしは、ここに居ますよ」
「カラ、ビーナ…」
「はい。貴方のKar98kです。どうぞわたくしに命じてください。貴方の悪夢を一掃するわ」
「…ありがとう、落ち着いた。すまん、押し倒したみたいになって」
立ち上がり、カラビーナの手を引いて立ち上がらせる。
「…このまま初体験を迎えるかと、少し期待してましたのに」
「弱い姿を見せて女性と関係を持つのは主義じゃない」
「男性の良いところも駄目なところも、受け止めてこそ良い女では?」
「女の前で、……特に、美人の前ではカッコつけたくなるのさ、男の子はな」
ふと、自身が汗だくだった事に気が付く。
…カラビーナの格好は、いつぞやの露出過多な寝姿だ。
「すまん、汗が…」
「あら、本当に」
「シャワー使ってもらって構わない。気持ち悪いだろ」
「…別に」
「それを言ったら俺は本気でお前を軽蔑するぞ」
「ひっ…指揮官さんの蔑む様な目…堪りませんわ…」
自分をだいてくねくねするとても残念な人形。
…俺、こいつに慰められてたの?
「…しねーよ。お前はお前なんだから。まあ残念だとは思うけど…ただ、まあ…その、なんだ。……ありがとう」
残念だけど、有能で、気遣い出来て、割と俺なんかの下じゃ勿体無い人形。
何だかんだここで活動する前から居る、最初の俺の部下。
嫌えるはずなんて無かった。
「…わたくしは、貴方のお人形。貴方の為に何でもしますわ」
「そうか…じゃあ、これ忘れてくれると助かる」
「指揮官さんは…その、ずっとその悪夢を?」
「周期が不安定でな…忘れた頃に見ると言うか」
「この後も、また見ないとは限らないと?」
時刻は午前一時。
このまま起床時刻まで起きているのは流石にしんどい。
「…まぁ、そうだな」
「それじゃあ、指揮官さんの様子を見てませんといけませんね?」
「何が言いたい?」
「今日はわたくしが一緒に寝て差し上げましょう!」
「帰れ!」
とてもじゃないがそんな気分ではない。
と言うか汗でびしょ濡れのシーツやら布団やら片付けなければならないのでこんな所に女性を寝かせるなどポリシーが許さない。
「指揮官さん、替えのシーツならこちらに」
「何で知って…えっ、何でそんな所に収納スペースあんの…?」
カラビーナが床のコンクリートを一つ持ち上げ…その中に手を突っ込んで替えのシーツを取り出した。
待って待ってそんなスペース知らなかったんだけど。
「ベッドメイクしますので指揮官さんはシャワーを浴びて着替えてくださいね?風邪引いたりしたら承知しませんよ」
「あ、ああ…」
こいつ、意地でも一緒に寝るつもりだ。
…敵わんな、本当に。
「…大丈夫です、指揮官さん。わたくしがついてます。貴方の障害は、何であろうと…必ず、
悪夢再び。
ついに自分だけじゃなく周りも犠牲になる夢を見てしまう。
けれど、人形達の献身で立ち上がる。
彼女達の前で、いつまでも格好悪い姿を見せられないからな。