構成メンバーはG17、WA2000、Kar98kのライフルを主軸とした歩兵掃討を目的とする狙撃部隊。
今回の目標は以前制圧・爆破した鉄血工廠跡地の残党処理。
回収部隊の作業を援護する為に派遣する。
…何も起こらなければ良いが。
「大丈夫だろうか…」
「指揮官、さっきからずっと心配されてますけど…」
部隊を送り出し、随伴ドローンの映像を眺めながら俺は何度目か分からない独り言を呟いていた。
今日の副官であるGrG3に突っ込まれる。
「心配、か…流石にハイエンドは居ないと思うが」
「どうしてそう思うんですか?」
「G3がチャーミングだからさ」
「…怒りますよ?」
「本心だ…ただ、理由は…そうだな、何となく…だ。寝覚めも最悪だったしな」
まだ奴は動き出さない。
そんな気がするのだ。
「また、悪夢を?」
「…ああ。迷惑掛けるかも」
「指揮官にはいつもお世話になってます…これくらい、たいした恩返しにならないかもですけど」
「ありがとう…でも、女の子にカッコ悪いとこはあんまり見せたくないな」
「指揮官は、充分カッコいいですよ。でも、危なっかしいので自重してくれると」
「耳が痛いな」
『こちらグリズリー。副官といちゃついてるとこ悪いんだけど、報告よ』
「あいよ、どうぞ」
無線から呆れたようなグリズリーの声が聞こえる。
『鉄血の人形を発見…数は5。他に敵影はなし…意見具申、このままアウトレンジからの狙撃で片付けようかと』
「承認。やっちまえ」
『許可が下りたわ。やっちゃって』
『『了解!』』
WA2000、スプリングフィールド、Kar98kがそれぞれ射撃を始める。
…たった5体、ものの数秒で全て頭を吹っ飛ばされていた。
一番突出しているのはやはりスプリングフィールドだ。
正確に、そして無慈悲に相手の脳天に風穴を開けている。
『スプリングフィールドの姐御、凄い…どこで引っ掛けて来たんです?ボス』
「人聞きが悪いぞG17」
『…指揮官、増援です。すぐ近く』
スプリングフィールドの一言で全員戦闘態勢に入る。
…む、アサルトライフルが届くレンジに敵小隊か…距離を詰められ過ぎたな。
『指揮官、私が先導して距離を…』
『いえ、殲滅します』
『ちょ、スプリングフィールド!?どこ行くの!?』
スプリングフィールドが一人突出する。
ダミーは調整中の為、今は各人一人ずつしか居ない。
「スプリングフィールド!?何する気だ!相棒、止めろ!連れ戻せ!!」
俺も焦ってWA2000を素で呼んでしまう。
向こうも焦っているのかすぐに走り出した。
『ちょ、速っ!?あれ本当にライフルなの!?』
『あれがライフル!?じゃあわたくし達はなんですの!?』
『言ってる場合か!!』
『ああもう!ごめん指揮官!
「マジかよ…なんで」
モニターの前で呆然とする俺とGrG3。
その時、カメラがスプリングフィールドの表情を捉えた。
…いつもの透き通るようなエメラルドグリーンの瞳が、怪しく、赤く、爛々と輝いている。
朗らかに微笑み見守ってくれる優しい表情は鳴りを潜め、ただただ獰猛な笑みを浮かべている。
「あれが…スプリングフィールドさん…?」
GrG3が呟く。
…これが、彼女の言っていた別の自分。
「…グリズリー、スプリングフィールドを援護しろ」
『ちょっと本気!?あの子死ぬわよ!?』
「大丈夫だ」
目を反らしてはいけない。
彼女の戦いぶりを見ると言った。
彼女の姿を恐れないと言った。
彼女の力が必要だと言った。
だから、俺は見届けなくてはならない。
『ハァッ!!』
スプリングフィールドが脚力を一気に解放して飛び上がる。
…空中で2発。
見事に人形…リッパーの両腕を吹き飛ばした。
そのまま目の前に着地し…上段回し蹴りで頭をサッカーボールの様に跳ね飛ばした。
『え”っ!?』
G17の驚いたような声。
それを気にせず奥のヴェスピドに発砲…それと同時に走り出し、武器を落とされたヴェスピドに肉薄。
自身の銃を片手で保持し、空いた右手で相手の腹部に掌を打ち込む…!?
「掌底打ち…!?母さんの技じゃねぇか…修行ってガチな奴かよ!?」
『ひはっ…!!』
スプリングフィールドから笑みが零れる。
掌がめり込んだヴェスピドは、口から擬似体液を吐き出しながら吹っ飛んだ。
『スプリングフィールド!後ろッ!!』
WA2000が叫ぶ。
…2本のダガーが閃く。
「ブルート!?この辺じゃ確認されてない固体だ…逃げろ!!」
ライフルの機動力で対応するには厳しい相手だ。
あのダガーは例え堅牢な装甲だろうとすり抜けて致命傷を与えてくる。
ブルートがスプリングフィールドの背後から飛び掛る。
WA2000が射撃するが…焦りから、外してしまう。
『あ…』
WA2000の表情が絶望に染まる。
…しかし、聞こえたのは肉の裂ける音ではなく、潰れる音。
『…五月蝿い』
足を払う。
…胴体から真っ二つになったブルートが転がる。
「…強い」
思わず呟いた。
あの瞬間、スプリングフィールドは後ろを確認せず後ろ回し蹴りを放ち…ダガーよりも先に振りぬいていた。
…いやいや待て、堅牢さが自慢の鉄血製人形を格闘で粉砕するなよ。
スプリングフィールドが上半身だけになったブルートに近づき…頭の上に踵を落とした。
耐え切れずぐしゃりと潰れた。
『うっ…』
G17が思わず目を背ける。
『うふふ…あははは…はぁ、あふ…ふふ…』
自分の血ではなく、敵の血で服を染めて笑う。
まるで狂戦士だ…。
だが、俺はその姿から…何故か、目を離せないでいた。
『あはっ…あははははは!!』
笑い声はまだ響いていた。
鬼神、スプリングフィールド。
これがレベルカンスト人形の実力か…(違
これが、うちの彼女です。
ジョージは何か感じたらしいですが…それはまた次回。
…と言うかこれ80話なのか。