「久しぶりね指揮官。最近来てくれないから寂しかったわ」
「久しぶり、ペルシカ…俺は全く来たくなかったんだがな…」
場所は16Lab。
今回の用事は…三ヶ月ぶりのタイタン稼働実験である。
三ヶ月前に俺が断りを入れたのだが、開発費や材料費など諸々を借金に計上すると脅され折れるしかなかった。
今日の護衛は9A-91とG17。
二人共外で待機している。
「そう言わずに。協力してくれるなら給金も弾むし」
「内容が内容じゃなかったら喜んでたんだけどなぁ…」
実験室に鎮座しているタイタンに近付く。
「あ、そうそう。AIもアップデートして貴方好みにしたから。きっと気に入るわ」
「前のあのちょっと無機質な機械音声を?アレはあれで味があって気に入ってたんだが」
「あら、そっちもイケるクチかしら?」
「…帰っていいか?」
「冗談よ。BT-4040、起きなさい」
お、型番が付いたのか。
いやしかし番号が振られただけなのに一気にそれっぽくなるな。
…ちょっと待って、誰も装着してないのに動いてるぞ!?
「今回のアップデートは自律行動とAIの強化よ」
「えっ、じゃあ俺要らなくね!?」
『何言ってんのさ指揮官!二人なら強力だよ!』
「……………えっ、バンガード?」
聞こえてきた音声はどことなく活発さをイメージさせる女の子声。
「俺好みってそういう事…」
「好きでしょ?女の子」
「せやかて…」
『指揮官!早くリンクして!あんまりあたいを待たせないでよ!』
「はいはい…ペルシカ、興奮剤」
注射器を渡されるので、何時ものように二の腕に突き立てた。
「はぁ…リスク・オブ・マイ・ライフ…ってか」
すっかり慣れた興奮剤が身体に浸透する感覚。
そのままタイタンに乗り込む。
『ニューラルリンク確立、搭乗権をパイロットに移行』
「さて、今日は何をするんだ?バンガード」
『今日のメニューは…パルクールだよ!』
実験室のシャッターが開く。
…外に続いてるのか、眩しい。
『この外骨格の性能テスト…要するにスピードランをするんだ』
「なるほどね…行けると思う?」
『あたいと指揮官が一緒なら、向かう所敵無し…って、誰もいないか』
「敵無しってのはそういう意味じゃないよ…たくさんの敵を倒したって事さ」
『ふーん…ボキャブラリーに❝敵無し❞を追加したよ』
『ジョージ指揮官?あんまり変な事教えないでね』
「えぇ…」
スタート地点に立つ。
…さて、試運転と行こうか。
「グリーンライト、行くぜ!」
『指揮官!よくあたいを見てなさいよ!』
走り出す。
興奮剤と外骨格で強化された俺の脚力は、全力の戦術人形と大差無い。
通路の先に床は無い。
…が、両サイドに壁だけが貼られている。
要するに壁を走れば良い。
「そらよっ…!」
充分な加速を持って飛び上がる。
腰のジャンプキットが俺の空中制動を補助する。
壁に手を付け、そのまま走り出す。
速度も充分…!
「あ"っ」
『あ"っ。指揮官!ジャンプジャンプ!』
「ちょっ、待っぐえっ」
しばらく壁を走ったと思ったら急に補助が切れてそのまま下に落下した。
「痛た…何でだ…」
『ごめんよ指揮官。あたいには指揮官を支え続ける出力はまだ無いんだ』
「…つまり、ずっと壁を走る事はできないって事か」
『壁と壁が向かい合ってるなら、うまい具合に飛び移りながら前進できる筈よ』
ペルシカからのアドバイスを受け、スタート地点まで戻る。
「よし、じゃもう一度…頼むぞ、バンガード!」
『らじゃー!手伝ってあげる!』
この日たっぷり日が沈むまで走り回った。
と、言うわけで遂に登場…型番BT-4040。
え?どっかで聞いたことある一人称?ナンノコトカナー