【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

98 / 183
少し前、G17が指揮官の様子がおかしいと、私に言ってきた。


幕間ーWA2000ー決意

「…どういう事ですか?」

 

スプリングフィールドがG17に聞き返した。

…隊員用のリラクゼーションスペースのバーに、私とスプリングフィールドとG17が居た。

 

私は出されていたアルコールに伸ばした手を止めた。

 

「姉御、それが…ボス、最近顔色は悪くないんだけどぼーっとしてるんだ」

「顔色が、悪くない?睡眠取りすぎてるのかしら」

 

ジョージは、未だドリーマーの悪夢に囚われ続けている筈。

…私はトリガーがある分まだ普通に生活は出来ているけど、アイツは満足な睡眠が取れていない。

 

それを隠していつも気丈に笑ってる。

 

「それは無いわスプリングフィールド。だって…」

「…そうでしたね」

「あと、ボスがAR小隊の皆口説いてたんだ」

「いつもの事じゃないそれ」

「それが…何時もみたいに自然じゃないんだ。ちょっと無理矢理というか」

 

そう聞いて、少し考える。

ジョージの口説き癖は人形相手には無意識にやっているたちの悪い物だ。

 

それが、不自然?

 

「…何か、隠してるわね」

「流石熟年夫婦、よく分かりますね」

「茶化さないでスプリングフィールド。…G17、他に変わった事は?」

「そうだな…意識が引っ張られているって言えば良いのかな。ちょっとずつ。この位しか判らない…」

 

自称、人間観察が趣味と言っていたG17。

正直流石だと思う。

あのポーカーフェイス気取りの馬鹿からそれだけ引き出せたなら上出来だ。

 

「ちょっとリージョンの所に行ってくる」

 

そう言って立ち上がる。

 

「G17、それ飲んじゃって」

「WA2000!………これ、カルーアミルクじゃん」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

医務室。

リージョン…医療班長の所に乗り込む。

 

「おや、WA2000。どうしたんだい?」

「リージョン、ちょっと聞きたいことがあるの」

「指揮官の事?」

「ええ。肩に埋まってるアレに何か変化は?」

「…今の所は何も。けど、昔の事例だけど金属製の入れ歯がラジオの電波を拾って、歯から音声を流したって事例もある」

 

顎に手を当てて考える。

…ドリーマーから、妙な電波を受けている?

 

考え過ぎか?

 

「ありがとう、リージョン。やっぱり摘出すべきね」

「結論が早いね」

「…もっと早くするべきだったわ。皆を集める。来てくれるかしら」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

作戦司令室。

ジョージ以外の人間…ローニン、モナーク、リージョンと戦術人形…私、スプリングフィールド、Kar98k、M4A1が集まっていた。

 

「…WA2000。話って?」

「ジョージの右肩にはドリーマーの歯が埋まってるわ」

 

ざわ、と室内が騒がしくなる。

 

「ちょっと待ってください、指揮官は最初のドリーマーとの戦いで噛まれたと聞いていましたが…」

「そうよM4。それから半年も放置されていた」

 

この話は私と、Kar98kとリージョンしか知らない。

当然ローニンとモナークが半信半疑で聞いてきた。

 

「ちょっと待てよ、歯?何でそんな…」

「………WA2000、まさかアンタ…それが指揮官に何かしら影響を与えてると思ってるのかい?」

「考え過ぎじゃないでしょうか、わーちゃん」

「Kar98k。真面目な話をしてるのよ」

「ごめんなさいWA2000。…でも、確かに前に起こしに行った時…誰かを焦がれているような感じでしたわね」

 

全員の視線がKar98kに集まる。

 

「…何ですって?」

「ええ。それから指揮官さんはうなされていないのよ」

「悪夢を見ていない…か。彼、誰かが一緒に居ると見ないって言う都合の良い悪夢の見方をしていたと思ったんだけど」

 

悪夢を見て飛び起きて、控えていた人形に慰められての繰り返し。

徐々に精神を削っていたのは一目瞭然だった。

 

「憶測ばかりしていてもしょうが無い。どっちにしろ異物なんだ摘出するなら早い方がいい」

「その件については僕から話そう」

 

リージョンが手を上げて説明し始める。

 

「皆知っての通り、指揮官には興奮剤を除いたあらゆる薬物の効果が無い。つまり、麻酔も睡眠薬も使えないんだ」

 

そんな状態で患部を切り拓けばどうなるか。

 

「…俺なら間違いなく狂うね」

「だから僕も見送ってた。ただでさえ時間が掛かる。指揮官の精神が保たない」

 

だから半年も放置されていた。

 

「…ねぇ、私達なら…出来るんじゃないかしら」

 

ふと、思い付いた。

正確なコンピュータとその通りに動く手足。

それを備えた戦術人形が最短、最速で摘出すれば負担は少ないのではないか。

 

「…WA2000。それは、恐らくアンタ達のプロトコルに引っ掛かるわ」

 

モナークが苦々しく語る。

 

「人間に対するセーフティ、ですね」

 

スプリングフィールドが呟いた。

また、またその忌々しいセーフティがジョージを窮地に立たせるのか。

 

「…冗談じゃないわ」

「WA2000?」

 

らしくない。

だいぶ感情的になっているみたい。

 

「このままドリーマーに持ってかれるのを見てるだけなんて嫌よ」

「それは憶測だろ?もう少し様子見した方がいい」

「ローニンさんの言うとおりだ。落ち着けWA2000」

 

ローニンとリージョンに宥められる。

そこで、M4が口を開いた。

 

「…私なら、多分…出来ます」

「どういう事?」

「かつて負傷してプロトコルを変調した私なら、医療行為という言い訳が効くはず」

「M4、願ってもない話だが…君は、指揮官に()()()()()()()のかい?」

「…ッ!」

 

…M4A1は、ジョージを愛している。

ジョージから話は聞いていたし、再会したときもあからさまにそんな態度だったから想像に難くない。

 

M4には、無理だ。

そして、カラビーナにも、スプリングフィールドにも無理だろう。

 

「…私がやるわ」

 

だから、自分がやるしかない。

 

「WA2000…貴女も、」

「言わないで。私はドリーマーに散々弄り回されてセーフティが外れてるし、出来るわ」

 

嘘だ。

本当にそうなら、ここで修復してもらった時に直されている。

 

「…良いんだな、WA2000」

「任せてローニン。私は、アイツの相棒なのよ。最後まで面倒見るわ」

 

私の中に、少しずつ黒い感情が渦巻いているのがわかる。

 

「わーちゃん」

「大丈夫よスプリングフィールド。上手くやるわ」

「一応、メスは用意するが…」

「メスなんか折るわ。新品のナイフ用意して。頑丈な奴」

「おま、無茶言うなよ…」

 

補給も取り仕切るローニンが苦い顔をする。

 

「あるんでしょ」

「何で知ってんだよ…リージョン。消毒しとけ」

「了解。WA2000…明日渡すよ」

「ありがと」

 

勝負は、明日。

 

「…大丈夫、大丈夫よ」

 

自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 




これ以上、1分、1秒でも長く、相棒を蝕むというのなら容赦はしない。

そんな事を、私は耐えられない。
お前だけは絶対に許さない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。