魔法少女リリカルなのは ~ So close, yet so far ~ 作:SAIHAL
_____第1管理世界ミッドチルダ 中央区画湾岸地区南駐屯地内A73区画
古代遺物管理部『機動六課』。
今年、新暦75年に発足したばかりのレリック問題専門の地上勤務部隊である。
課長兼総部隊長は
法務担当には本局の執務官が据えられ、更に本局航空戦技教導隊より出向の教官。
加えて配属される新人たちは将来有望な若手局員で、更には『エース・オブ・エース』直々の教導を受けられるときている。
『エース・オブ・エース』が武装隊の士官候補生として入局した頃から、彼女に目をつけて密着取材をしていたアヤ・スカイライン氏は月刊クラナガン誌にて、こう綴っている。
曰く「局内で度々見られる上下関係の厳しさよりも和やかな雰囲気の方が目立ち、アットホームな職場とはまさにここを指すのだ」と。
そんな機動六課の隊舎。その部隊長室に記憶喪失の男、アクセル・アルマーはいた。
ヘリに揺られて、機動六課隊舎に到着。記憶を失った次元漂流者であること加味してか、簡易ではあるが身体検査を受けた。
そして、局員の一人に連れられて、簡素なパイプ椅子に座らされて。
―――五人の女性に囲まれて、ここにいる。
女性に囲まれてという部分だけを他者に話せば、羨望の声が上がるだろうが、アクセルにしてみれば、今は是が非でも代わってほしかった。
しかし、誰が代役として来ても、アクセルに再びその座を返すだろう。
五人の女性に囲まれる。確かに羨ましくはある。
だが、状況が状況なのだ。
順に説明していこう。
「……ふん」
まず、八時の方向。
赤毛のツインテールの少女。背を壁に預けて腕を組み、アクセルのことが気に食わないとばかりに睨みつけている。
正直、アクセルの精神を削っている原因の七割が彼女の怒気だ。
「……あはは」
続いて十時の方向。
栗毛のサイドテールの女性。一人だけ他の人と違う制服を着ており、それを着こなしている。腕を後ろ手に回し、柔和な微笑みを浮かべている。
最もその視線は、向かいの女性に向けられているが。
「……………」
次は、十二時の方向……を飛ばして二時だ。
金髪の女性。フェイトだ。
彼女は視線を床に向け俯かせている。 その顔は赤く染まっていた。ちなみに耳まで赤いので、顔を下に向けていてもバレバレである。
原因はおそらく、初めて会った時のアクセルの台詞だ。というか、それしか思い付かない。何故、隊舎に到着してから暫く経った今、思い出したのかは分からないが。
これでは、そういう方向でからかうことは控えた方がいいだろう。
「……む」
次に、五時の方向。
桃色のポニーテールの女性。こちらも赤毛の幼女……じゃなくて、少女ほどではないが、 こちらに鋭い視線を向けている。直立不動ではあるが、臨戦態勢さながらで、まるで獲物を狙う狩人のようだ。
何か、嫌な予感がする。彼女がアクセルの精神を削る原因の二割。
「さて、と。初めまして、やな」
そして、あえて最後にまわした、十二時の方向。
茶髪のショートの女性。専用の執務机に身を預け、顎を組んだ両手の上に載せている。初対面の怪しい相手への対応は心得ているとばかりに、笑顔である。
最後の一割が彼女。その笑顔が原因だ。
(勘弁してくれ……)
確かに、それは見る者に安心を与えるだろう。
それだけに、アクセルは彼女と同様に怪しさを感じていた。
不確定要素満載の、その笑顔。
「私がここの部隊長やらせてもらっとる、八神はやてや。階級は二等陸佐。横の二人が高町なのは一等空尉と……フェイト執務官は知ってるんやったな。それから、そっちの二人がシグナム二等空尉とヴィータ三等空尉。詳しい自己紹介はあとでしてな」
特徴的な方言で、すらすらとこの部屋にいる人を挙げていく。
改めて聞くと、そうそうたる面々だ。自己紹介を勧める旨を告げて、いったん言葉を切る。本題に入るのだろう。瞳に怪しい光が見えた。
これは記憶喪失者に対する事情聴取ではなかったかと、アクセルは思わずにいられなかった。はっきり言って、漂う雰囲気は尋問に思えて仕方がない。
本当に勘弁してほしかった。
~第4話 「ファーストコンタクト」~
「それじゃあ、まずは君のことについて教えてもらおか、アクセル・アルマーさん?……例えば、出身地とか、その出所不明のデバイスとかな」
「……出身は思い出せない。こいつも〈ソウルゲイン〉、という名前しか覚えてないんだな、これが」
優しくペンダントヘッドと化している待機状態の相棒を撫ぜる。
本来ならば、この隊舎に着いた時点で、デバイスマスターと名乗る女性に預けることになっていたが、こいつを他人の手で触ってもらいたくないとか、所有者以外が触れると機密保持で自爆するとか何とか言い訳をして、没収は無しにしてもらった。
その代わりに多対一の事情聴取に文句を言えなくなったが。
だが、他人に〈ソウルゲイン〉を引き渡すよりかは安いものだと思った。
それには不確かながらも、理由があった。
(他人にこいつを触らせちゃいけない……そんな気がする。それに、こいつは記憶を取り戻す、唯一の手がかりなんだ)
アクセルは自分の直感に従った。その影響で、この惨状なのだとしたら、後悔していないと言えば嘘になる。
だが、それでも、自らの存在証明の鍵を手放すわけにはいかなかったのだ。
はやてはアクセルの言葉にふむ、と相槌をうった。
「おい、お前。あんまふざけてんじゃねぇぞ。自分の立場、分かってんのか?」
会話が途切れたその瞬間に割り込む
管理局で働くことも含めて、アクセルは心中で養育者の怠慢に嘆いた。
「おい!変な顔すんな!真面目に答えろって言ってんだ!」
どうやら表情に出ていたらしい。しかし、そんな喧嘩腰では、喋りたくても喋りたくなくなってしまうということを覚えておいたほうがいいと、アクセルは思う。
「いやぁ、こっちとしては大真面目なんだな、これが……というか、いつから尋問に切り替わったんスか?確か、詳しい話が聞きたいっていうから俺は来たんスけどね」
「てめぇッ!!」
意趣返しと言わんばかりの態度に激高するヴィータ。
隣にいたなのはがアクセルを庇うように、二人の間に立った。
「ヴィータちゃん、落ち着いて」
「そうやで、ヴィータ……申し訳ないなぁ。ちょっと君の持っているデバイス、それに君がいた状況っていうのが特殊でな?疑う人もおんねん」
謝罪はこちらがするべきであるから遠慮するとして、デバイスと状況というのはどういうことだろう。
あの水色の戦闘機が、何か関係しているのだろうか。
「はやて二佐、でしたっけ?できれば、その状況ってのを教えてもらえませんか?あの飛行機みたいなのについても」
駄目もとで聞いてみることにした。何か聞ければ、記憶の靄が少しは晴れるかもしれない。
「かまわへんけど……軽くしか教えてやれへんで。君がスパイでないって、誰も保証してくれへんからなぁ」
「はやて、そんなに疑わなくても……」
「まぁ、そうだわな……あ、それでもいいです。少しでも情報が欲しいんで」
はやては少し考えて、納得してくれたのだろう。執務机から離れ、アクセルに近づきながら、空間にモニターを投影した。
そこには先刻の戦闘機、それから同色のカプセル状をしてケーブル状のアームを伸ばしている機体と、大型の球体をした機体が一緒に映し出されていた。
「これらは数年前から活動が確認されている自立行動型の魔導機械でな。管理局では〈ガジェットドローン〉って呼んどる。大昔の遺跡の品々やら、高いエネルギーを持つ『ロストロギア』やらを狙っとるみたいや」
「ロスト、ロギア……?」
「過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法を総称して、ロストロギアと呼んでいるんです」
知らない単語というのを察して、フェイトが優しく答える。なぜなにフェイトというコーナーを作ってしばらく傍に居てくれないかとも考えたが、言えば話が進まなくなるだろうと、頭の隅に置いておくことにした。
それよりも、ロストロギアである。何か、気になるワードだ。頭を回転させていると、紅い宝石が脳裏によぎった。だが、すぐにまた白い靄に包まれる。
どうやらこれもキーワードらしい。紅い宝石の、おそらくではあるがロストロギア。覚えておいて損はないだろう。
「続けるで。こいつらを操っとるのは、ある科学者や。ジェイル・スカリエッティっていう名前のな」
映像が切り替わり、一人の男の写真が映された。紫色の頭髪に金色の瞳。今にも笑い出しそうなその表情。
先ほどと異なり、記憶は反応しない。知らないか、重要ではないかは判断が付かないが、気にする程でもないというのは間違いない。
「彼は生命操作や生体改造、精密機械に通じている科学者で、ロストロギア関連以外にも数多くの事件で広域指名手配されている次元犯罪者でもあります」
「そういう経歴もなく、違法研究に手を染めていなきゃ、間違いなく歴史に残る天才科学者やったろうけどな」
歴史に残る天才科学者。スカリエッティという名前には記憶が反応しなかったがそのフレーズは、どこかで聞いた覚えがある。
記憶を失う前の知り合いにそれほどの人物がいたのだろうか。分からない。思い出せない。これもまた、キーワードというわけだ。
「機動六課は彼の逮捕と捜索指定ロストロギアの確保を優先して活動しとるんや。それで、今日もそのロストロギアを運搬していた列車がガジェットの襲撃にあったから出撃したんや」
「……それで、その途中で〈ソウルゲイン〉を使っている俺を発見した、と。そういうことっスか」
その通りだとばかりに頷くはやて。確かに現状では疑われて仕方がないというより、疑わないほうがおかしいという具合だ。ガジェットの出現場所にいた、機動兵器染みた謎のデバイスを使う男。十中八九、敵対組織との関連性を疑うだろう。
「でも、はやて。彼はガジェットに襲われていたんだよ?しかも、記憶を失ってる。スカリエッティに狙われてるのかも」
やはりというか
(……まただ)
アクセルの記憶は、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンを自らが知る誰かと比べている。『あいつ』というのが特定の一人なのか、それとも複数『あいつ』と呼んでいた人物がいるのか、それすらも定かでないが、どうやらアクセルはその『あいつ』を中々信頼しているらしい。
「そうやけど……そもそも記憶喪失もシャマルの検査結果待ちやしなぁ……そや、こうしたらどうかな、アクセルさん」
はやては顎に手を当てて、難しく考えているといった表情をし、ハッと思いついたとアクセルへ視線を向ける。
いかにも、という表現がピッタリな仕草だったと言わざるを得なかったことに薄く笑みを浮かべて答える。
「はい、何スか?」
「民間協力者として雇われるってのはどうやろ?」
「……やっぱり。そんな気がしたんだよな」
再度、息を漏らしつつ笑みを浮かべる。
分かっていたとばかりの反応に、少しわざとらしかったかとはやては思いつつ、笑いを返した。
「俺ほどの男を、二佐みたいなべっぴんさんが放っておくはずがないか」
「―――ってぇ!全然、分かってへんやんか!!それにべっぴんさんって、ちょっと古いで!」
思わぬ掌返しに本場さながらのツッコミを見せるはやて。顔を赤くしているのは、ご愛嬌というところだ。
「おい、てめぇ!はやてをからかってんじゃねぇよ!そもそもなぁ!」
「分かってますって。監視の意味もあるわけでしょ?……逆にほっぽり出されても、記憶がないんじゃ、どうしようもないしね」
「……分かってんならいい。もう、はやてをからかうなよ?」
へいへい、と頷くアクセル。その軽い調子に呆れながら舌を打つヴィータ。それをなだめるなのはと、柔らかな微笑みを浮かべるフェイト。
彼女らのアクセルへの疑惑の念は徐々に薄れつつある。
(素人の考え方ではないな)
だが、唯一彼に鋭い視線を向ける人物がいた。シグナムだ。今まで傍観者に徹し、その様子をじっと見つめていた彼女は、先ほど発した彼の言葉について考える。
普通なら雇用とだけしか話していない中から監視という結論には至らない。
加えて、彼曰く初見だという〈ガジェットドローン〉に対して、冷静に対処できる技量。とても一般人や、そう、例えば新型デバイスの開発技官ではできないことだ。管理局や何かしらの軍隊におり、戦闘を経験したことのある者なら別だが。
記憶喪失であると言う男。アクセル・アルマー。
シグナムは彼への疑いを少しばかり強めた。
「ごほん!……話を戻すで。それで納得してくれたんか?」
顔はまだ赤いままだが話を続けることを選び、問い掛ける。
断る道理はないが、アクセルは少し悩んでいた。
「……もちろん。その代わりといっては、何ですけど……」
「もちろん身の安全は保障するで。衣食住はもちろん、記憶を戻すための情報も積極的に提供する」
「わぉ。豪勢っスね……それで?俺は何をすれば?」
「とりあえず、戦力提供やな。ガジェットとの戦闘も難なく終わらせたみたいやし、問題はないやろ。あとは……新人への教導や訓練にも少し関わってほしくはある」
安全の保障、衣食住の完備、情報提供。対価として払うのは、労力の提供に新人の教官役。戦力提供はともかく、教導に携わるのは記憶喪失の人間にやらせてもいいものなのだろうか疑問だ。やってやれなくはないだろうが、サンドバッグ役というとハードになりかねない。
アクセルは少し心配になったが、はやての口調からはそれがメインというわけでもなさそうであると、思い直す。
「分かりました。これからよろしくお願いしますよ。部隊長殿」
はやてへと近づき、右手を差し出す。握手だ。
彼女はその言葉に満足したように微笑み、同じように差し出した手を握る。
「はやてでえぇよ。アクセル君」
「あらら。そっちはもう切り替えてんのね……じゃあ、よろしく。はやて」
うふふ、ははは、ともに笑い合う。微笑ましげな雰囲気が部隊長室に流れた。
しかし、ほんわかした空気をぶち壊す冷気をアクセルは背後から感じた。
「……はやて。アクセルを一度医務室に連れて行こうと思うんだけど。手を放してもらえるかな?」
差し出した腕に絡みつく人物。彼女―――フェイトが冷気を発している。
彼女は笑顔ではやてを見つめている。その横顔からアクセルは彼女が笑顔とは裏腹に、怒っているように見えた。理由は思い当たらないうえに、いつの間にか呼び捨てにされていることにも驚く。
「あ、あぁ。えぇよ。もちろん。あは、あはは……」
フェイトが放つ黒いオーラに押されてか、引きつった笑みを浮かべ、ゆっくり離れていくはやて。
そのことに満足したのか、フェイトは絡みついた腕を引っ張り、体格差のあるアクセルを鼻歌交じりに引っ張って行く。
「ま、待って。フェイトちゃん。私も行くよ!」
「な……じゃあ、あたしもついていくぞ!」
なのはが慌てたようにアクセルに近づき、フェイトが抱き着いている腕とは逆の腕を取り、引っ張られるだけのアクセルを立たせる。
ヴィータも置いてけぼりにされたように感じたのか慌てて続き、掴む腕がないことが分かると、とりあえずといった感じで隣に立った。
残ったシグナムはシグナムで、傍観者のままだった。しかし、アクセルの情けない姿を目にして頭を横に振った。
アクセルはというと突然の状況に困惑を隠せない。というより、フェイトの放った冷気故に硬直していたと言う方が正しかった。
「何や?早速、モテモテやな。アクセル君?」
動揺から回復したのか机へと戻りながら、にやにやと笑いつつ、からかうはやて。
確かに、傍から見れば面白いし、羨ましい光景なのだろう。アクセルも尋問から解放され、加えて男として現状に満足している。
「だけど、なんか納得がいかないんだな、これが」
二人に半ば引きずられ、一人を伴って、そして二人に見送られながら、アクセルは部隊長室から出て行った。