魔法少女リリカルなのは ~ So close, yet so far ~   作:SAIHAL

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第7話 「現れた『影』(前編)」

「お~い、大将!待ってくれよ」

 

 やや長引いた会議が終わり、ようやく自室へ辿り着いたアクセルを呼び止める声。

 足を止めつつ、このところ多忙だな、と思い返さざるを得なかった。

 シグナムとの模擬戦から数日。拳を交えたからか、お姫様だっこの影響からか、彼女とは僅かながらであるが和解した。もちろん、二人してフェイト(怒りのスーパーモード)に追いかけられたのも後押ししていたろうが。

 人間、危機的状況には友情が芽生えるものである。

 ひと悶着はあったものの、その後は新人フォワードと訓練の日々が続いた。これもまた忙しさに拍車をかけていた。

 スバルやティアナへは過渡期故の焦燥からくる突撃思考の抑制。エリオやキャロへは経験の少なさを補う咄嗟の判断力を学ばせた。

 また、二度ほど出撃要請がかかった。どちらもガジェット絡みであったが、レリックの存在は確認されなかった。

 先ほどの会議中のはやて曰く、段々とガジェットの動きが活発化しているらしい。

 レリックではない“何か”の反応に引き寄せられ現れているのではと、彼女は推測していた。

 そして、一息入れようとする彼は呼び止められていた。

 どこかで見たような男性局員。確か、名前は……

 

「えっと、グラビリオン陸曹だっけ?」

 

「何だそのバリバリ出オチ感が満載な名前?!俺はグランセニック!ヴァイス・グランセニックだよ」

 

「あ~、すまんすまん。最近、出撃が多くて疲れてたんだな、これが」

 

 両手を合わせて謝罪する。それにしても、どこから流れてきた電波だろう。

 

「……まぁ、いいさ。それよりも大将。聞きたいことがある。こないだの模擬戦の話だ」

 

 その言葉にがっくり来る。またその、シグナム姫様の話か。

 実はフェイトはもちろん、はやてやシャマル、スバルからも聞かれたのだ。さらには驚くなかれ、なのはも聞いてきた。

 だから、もう飽きるほど話してきたのだ。

 

「あ~、疲れてるんで。その話はまた今度ってことで……」

 

「待て待て待て!減るもんじゃないし、いいだろう少しくらい!……それで、シグナム姐さんの感触はどうだった?」

 

「か、感触って……」

 

 どうしてそうなったのかという、経緯が聞きたいんじゃなかったのか。まぁ、男ならばそういった方向の話が聞きたいのも当然の話だろうと思い直す。

 しかし、感触か……

 

「ふむ。そうだな。鍛えてあるだけあって、普通の女性にしては硬め」

 

「ふんふん。それで?」

 

「しかし、その硬さの中にも柔らかさがあるのも確か……例えるなら、そう。しなやかな鋼といったところなんだな、これが」

 

「ほう!!」

 

「それに、こう体を寄せられた時に、ほのかに漂ってくる女性らしい香りが、これまた何とも……ぁ」

 

「なるほどなぁ……ん?どうした、大将。顔が青いぜ?」

 

「そ、そういうわけだから!ここのところ忙しかったし!俺はもう寝る!んじゃ、頑張ってくれ!」

 

 青い顔に冷や汗を流し、アクセルは自室へと大急ぎで入る。入るや否や扉を背にしてへたり込み、息をつく。

 そして、これから来るであろう、ヴァイス陸曹の苦難に合掌した。

 

 

 

 慌てていたアクセルの姿に、ヴァイスは不審に思いながらも、先ほどの話で妄想を膨らませた。

 何せ、近寄りがたさ総合序列3位(精神的5位及び物理的1位)であるシグナムの感触である。

 

「硬さの中の柔らかさか。やっぱなぁ、姐さんも女性らしいところがあるんだよな」

 

「ほう。ということは、女性らしくはないと思っていたわけだな、お前は」

 

「まぁ、正直言うと、もったいないなぁなんて―――」

 

 背後から響くどすの利いた声に、半分妄想に浸りつついた状態でかけられた言葉に返事を返した。

 言いつつ、聞き覚えのあるその声に身体を硬直させる。しかし、意を決し、錆びついた金属を思わせる動きで、ゆっくりと振り向いた。

 

「し、シグナムの姐さん……どうして、ここに?」

 

「いや、なに。もうすぐ消灯だというのに、不審な男が二人見えたのでな」

 

「し、仕事熱心っすね。そ、それじゃあ、俺もこの辺で」

 

 立ち去ろうとするヴァイス。だが、阿修羅はそれを逃がさない。肩に手が置かれる。その手はアクセルの言うとおり、硬い中に柔らかさが感じられた。

 だが、皮肉にも、待ちわびていた感触をヴァイスは堪能することはできなかった。

 

「見たところ、まだ元気だろう?どうだ、私の深夜訓練に付き合わないか?」

 

「えっと、拒否権は……?」

 

「ない」

 

 その夜、訓練施設に男性の叫び声が響いたが、誰もが聞かぬふりをした。

 

 

 

 

~第7話 「現れた『影』(前編)」~

 

 

 

 

「出張、スか?」

 

 翌朝、早い時間にもかかわらず、隊舎全体に響くほどの呼び出し放送で起こされたアクセルは、呼び出されるままに部隊長室にいた。

 途中、寝惚け眼のエリオに謝るのも忘れない。早朝訓練までは寝かせておいてやろうと、毛布を掛けてやる。

 アクセルはまめな男なのだ。

 

「そうや。場所は第97管理外世界。名称『地球』……私らの故郷や」

 

「え、そうなんスか?」

 

「三年くらい前まで住んでたよ……まぁ、それは置いといて。昨夜、聖王教会から連絡があってな。ロストロギア反応があったらしいんよ」

 

「聖王、教会……」

 

 その言葉が記憶を刺激する。また、キーワードにぶつかった。古代ベルカに実在した聖王。それを崇める宗教団体。

 ……時間がある時に調べておこう。今は任務に専念しなければ。

 

「それで、出発はいつで?」

 

「今日、早朝訓練が終わったあとや」

 

 (早っ!)

 

 そりゃあ、早すぎませんか隊長!というか、訓練は前提なんですねと、心中でつっこみを入れつつ、了解しましたと敬礼する。

 アクセルは公私の分別が付いている男なのである。

 

 

 

 

 

 あれから、数時間。訓練を終えて、支度をし、機動六課の面々は地球へと赴いていた。

 集団転送ポートの先には青い湖、緑輝く森林が広がっていた。視界の先にはコテージらしきものも見える。どうやら誰かの個人敷地内らしい。はやてのものだろうか。

 そんなことを考えているアクセルを置いて、フォワードメンバーは感嘆の声を漏らしている。

 それを聞いて、確かに美しい光景だと改めて思う。加えて、これだけの自然は懐かしい。

 『俺の世界』じゃあ、こんな光景は少なくなって……

 

(ん?『俺の世界(・・・・)』……?)

 

 何だ、今のは。また、何かキーワードにぶつかった。

 『俺の世界』というからには、少なくともミッドチルダや地球とは異なる世界なのだろう。それも現在は自然が少なくなっているということは分かった。

 ……駄目だ、あまりにも情報が少なすぎる。

 

「しっかりしてくれよ、くそ……」

 

「兄さん?難しい顔してるけど大丈夫?」

 

 この自然に呆然としていたエリオが近寄ってくる。どうやら考え事をしていたのが顔に出ていたらしい。心配しなくていいと、頭を強めに撫でる。エリオは少し驚きつつも、されるがままになっていた。

 エリオを安心させつつ、はやてに問い掛ける。

 

「はやて隊長。ここは具体的にどこなんスか?湖畔のコテージって、もしかして隊長の私有地スか?」

 

「ちゃうちゃう。ここはな、現地協力者の別荘で捜査員待機所として貸してもらっとるんや」

 

 行く前に見た資料にあった、現地協力者のことか。コテージどころか、土地を貸すとは、ずいぶん金持ちで気前がいい協力者だ。

 そんなことを考えていると、車のエンジン音が聞こえてくる。こちらへ近づいてくる一台の乗用車。見るからに、高級車っぽい風体だ。

 

「あ、自動車。こっちにもあるんだ」

 

「ティアナ、自動車くらいはあるさ。隊長や一尉が生まれた世界だからな、こいつが」

 

「ですよね。あは、あはは……」

 

 そんなやりとりをしているうちに、車はアクセルたちの近くに停車。中から、金髪でショートヘアの女性が降りてくる。勝気そうだが美人だ。

 笑顔で駆け寄ってくる。なのは達も嬉しそうだ。

 なるほど、友人でもあるわけか。ところどころ聞こえる会話からそう判断する。リィンフォースにも挨拶しているところを見ると、こちらの事情も知っているらしい。

 一応の挨拶を終えたようで、こちらへ視線が向けられる。

 

「アリサちゃん、紹介するね。彼は、アクセル・アルマーさん。教官役をやってもらってるの」

 

「どうも。ご紹介に預かりました、アクセルです。記憶喪失でもあるんで、そこんとこよろしく!」

 

「記憶がない割には、ずいぶんと陽気ね……私はアリサ・バニングス。なのは達とは幼馴染よ。よろしく」

 

 しっかりと握手する。記憶喪失を名乗る異性にもこの対応。彼女とは仲良くやれそうだとアクセルは思った。

 しかし、三人娘と幼馴染か。ということは……

 

「つかぬことをお聞きしますが、なのは一尉達は、昔からこうなんで?」

 

「いい質問するわね。ん~、なのははわりと鈍くさかったし、フェイトはぽけぽけしてたわね。はやては……変わらないわ。昔から、あんな感じよ」

 

それを聞いた三人娘が憤る。

反応がいいということは、身に覚えがあるのだろうか。

なのはが鈍いというのは、なんとなく意外だった。

 

「ちょ、ちょっとアリサちゃん!それはひどいと思うの!」

 

「ぽけぽけ……」

 

「あんな感じって、どんな感じや!!ちゅーか、アクセル君も何聞いてんのや!」

 

「純粋な興味ですよ、部隊長殿」

 

「アクセル君!その好奇心!今から矯正したる!!」

 

 のらりくらりと隊長たちが掴みかかってくるのを躱す。

 完全に置いてけぼりをくらったフォワードメンバーは、隊長たちが疲れて諦めるまでそのままだった。

 

 

 

 

 

 現地協力者との挨拶を終え、一行は監視網(サーチャー)を制作する業務へと移行した。

 そして、今現在アクセルはたった一人で街中を歩いていた。

 ぶっちゃけて言えば、迷子である。

 

「さて、どうするべきかな、こいつは」

 

 そう、迷子なのである。

 この年齢で迷子というのは非常に恥ずかしい。

 記憶喪失者で、初めての土地だということを加味しても、穴に入りたいくらいだった。だから、通信で助けを呼ぶことも出来ず、ただ道なりに進んでいた。もちろん仕事中であるので、不可視のサーチャーを設置することも忘れない。

 

「そろそろ、覚悟を決める時かね……気が進まないんだな、これが」

 

 流石に連絡すべきだろうか。すでに、空は夕暮れに近い。

 夕方を知らせるためだろうか、何やら物悲しい音楽も聞こえ始めた。

 道行く人も減っている気がする。というか、周りには人ひとりいない。

 

「ん?あれは……子ども、か?」

 

 訂正。視界の先に小さな人影が見えた。こちらの姿を見つけてまっすぐ向かってくる。

 少女だ。年頃は十代に届くか届かないか。服は白を基調としているが、赤い頭巾がその存在を主張している。

 迷子だろうか。大人が誰もいないので、たまたま通りかかったアクセルに助けを求めるつもりなのだ。だがしかし、アクセル自身も迷子なので、結果は迷子が二人になるだけ。

 やれやれとため息をついたアクセルの目の前で少女は止まり、その小さな口を開く。

 

「隊長。連絡がつきませんでしたので、直接来ましたよぅ」

 

「は?」

 

 にこやかに笑いかける少女の言葉に、アクセルの思考が停止した。

 停止せざるを得なかった。

 いつ、こんな少女(ロリータ)と俺は知り合いになった。俺にそっちのケはないはずだ。多分。

 そもそも、ここは初めて来た場所で、この世界すら数時間前に足を踏み入れたばかりだ。知り合いなんているはずがない。

 

「ちょっと、嬢ちゃん?人違いじゃないかな?」

 

「さっすが隊長、抜け目がないですねぇ。これ、どーぞぅ」

 

 だが、赤頭巾の少女はアクセルの予想の斜め上をいく発言をし、さらには得体のしれないメモリースティックを渡してきた。

 黒い一般的な記憶媒体。しかし、製造社名はおろか製造番号すら刻印されていない。

 

「なにこれ?……っていうか、人違いだって」

 

アリシア様(・・・・・)からですよぅ。次の動きについてのデータだとしか聞かされていませんです。でっは~、これにて!」

 

「おいっ!……って、速っ!!」

 

 スバル並みどころかそれ以上の速さで、アクセルが歩いてきた方向へ消えていく赤頭巾の少女。

 あまりにもほれぼれとするスピードに追いかけるどころか呼び止めることすら出来なかった。

 

(行っちまった。なんか、俺を知っているようだったけど、覚えがないんだな、これが。それに、隊長……アリシア……?サッパリだが……なんか、引っかかるな。あれは俺の知り合いなのか?)

 

 落ち着こう。あまりにも突然すぎた。ひとまず、情報の整理をしようそうしよう。

 アクセルを隊長と呼ぶ知り合い(仮)の謎の赤頭巾(ロリ)

 怪しさ全開の黒いメモリースティック。

 そして、アリシアという()の名前。

 ……そこで、アクセルは疑問を感じた。

 

「女?……どうして俺は女の名前だと思った?」

 

 アリシアという男の名前はあまりないだろう。

 だが、可能性はないにしても、アクセルは意識して(・・・・)女の名前だと認識していた。

 

「俺は、アリシアという名の女を知っている……?」

 

 疑問に頭を悩ませる。分からないことが多すぎる。

 いや、違う。

 分かっているはずなのに分からない(・・・・・・・・・・・・・・・・)、ということが頭を悩ませているのだ。

 

「俺はいったい、何者なんだ……」

 

 数分後、フェイトが通信でこちらに呼びかけてくるまで、アクセルは頭を抱えていた。

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