Fate/prisma☆night   作:カキツバタ

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日常の破音 anotherside

 

────馬鹿みたい。

 

校庭で走り高跳びをする少年を見て、そう思った。見ればわかる。彼にあれを飛び越える力はない。そんなことは少年だってわかっているだろう。

だというのに、彼は何度も何度も飛んで、そのたびに失敗を繰り返していた。

 

私はそんな馬鹿を、馬鹿みたいに眺めていた。

 

気がつけばもう夕暮れ。こんな時間まで飛び続けた後、自分には出来ないのだと納得したように片付け始めた少年の後ろ姿を見つめる。

 

 

あぁ、きっと私は────

 

 

 

#

 

「まさかこんな早々に帰ってくる羽目になるとは思わなかったわ」 

 

凛は懐かしい……というには余りに早すぎる日本の空気を吸い込んで、そう言った。

 

遠坂凛は魔術師である。

魔術の研鑽の為、魔術師の総本山である倫教の時計塔へ行った筈なのだが……

 

大師父、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの命により日本へ早々に帰国することとなった。

 

『おやおや、凛さん。随分と不機嫌ですね~何か(私が愉しめる)良いことでもありましたか?』

 

と、こちらを煽ってくるのは喋るステッキ。今回宝石翁から押し付け……いや、渡された超一級の魔術礼装である。

……その性格を除けば、だが。

 

「本音が駄々漏れじゃない……というか、なんでアイツと一緒に任務をしなきゃならない訳!?」

 

と、隣ですました顔をしている女を指差すと、彼女は露骨に嫌そうに顔を歪めて言う

 

「貴女に指を指される謂れはありませんわ。此方の方こそ、何故私がトオサカの者と共にわざわざ日本などに来なくてはならなかったのか……」

 

『それはルヴィア様の自業自得、としか言いようがないかと』

 

溜息をつくルヴィアに冷静な突っ込みを入れるのはルビーと同じカレイドステッキのサファイア。

 

二人に与えられた任務は「冬木の異常の調査」だった。

最近、冬木市で見つかった空間の妙な歪み。それを冬木市のセカンドオーナーたる凛に調べさせようというものでルヴィアはそこに巻き込まれたというか、いつもの大喧嘩をして時計塔の貴重な概念礼装をぶち壊した罰として連れて来られたのだ。

ルヴィアは、というよりエーデルフェルト家は日本人が嫌いである。なんでも第三次聖杯戦争の時にエーデルフェルト家の姉妹が参加し、その時に色々とあったそうだが詳しいことは知らない。

 

私が日本人で、しかも『あの』遠坂の魔術師と知った時の彼女の豹変振りはものすごく、あれ以来何度もいがみ合いを繰り返している。

 

 

「……こっちだって願下げよ。何だってアンタと…」

 

と、悪態をつく二人。ステッキは呆れ顔で

 

『この先が思いやられますね~ねぇ、サファイアちゃん』

 

『はい。そこについては概ね姉さんに同意します』

 

#

 

「何よ、何なのよ……アイツ」

 

凛は一人、鞄を抱えて学校からの帰路を行く。

 

身体が火照っている。こんなに寒い冬だというのにこの熱はなかなか冷めてくれない。

 

頭から離れないのはアイツの言葉。可愛い、などという賛辞は飽きるほどに聞いた筈なのに……

 

『ルビーちゃん、わかっちゃいましたよ!これは新たな恋の気配!女子高生の青春というやつですね!いや~まさか凛さんの乙女チックな一面を拝見出来るとは』

 

「な、何言ってんのよルビー!」

 

ひょこっと現れたルビーを慌てて鞄に突っ込む。こんな場所でコイツと話すなど出来ない。小学生ならまだしも、おもちゃのステッキに話しかけている女子高生など完全に変人だ。そんな噂が広まってしまえば私の学生生活が終わる。

 

『別にいいじゃないですか!メルヘンな女子高生ってことで』

 

「良くない!それより、さっさと調査するわよ。ルヴィアには新都方面を頼んだから私たちは深山町方面を調べるわ」

 

 

#

 

二人で冬木市を調査した結果、いくつかの地点で空間の歪みを発見した。

 

無駄に高いテンションのルヴィアが道案内をしてくれたとかいう男子生徒について語っていたのが何故だか妙に癪に障ったので蹴りをかましたらいつもの喧嘩が始まった。

 

そして二人は相談と言う名の喧嘩の結果、新都のビルの歪みへ向かうこととなった。

 

「此処が境界面……?」

 

転身した二人は境界面へ降り立つ。そこは先程までいた新都と変わらない筈なのに、何処か異様な雰囲気を醸し出していた。

 

『凛さん!上です!』

 

ルビーに言われ、ビルの屋上を見上げた瞬間、目の前には猛烈な速度で迫ってくる矢が。

 

「!?」

 

咄嗟に身を捩らせて間一髪で避ける。しかし、避けて地面に深々と突き刺さった矢……のような剣は、何の前触れもなく突如爆発を起こした。

 

「な────」

 

 

突然の出来事に、凛は己の死を錯覚する。

だが、

 

『ふぅ~危なかったですね。全魔力を防御に費やしていなければどうなったことか』

 

己はまだ生きていた。爆風で多少の掠り傷こそあったが、無事だったのだ。

凛は今更ながらカレイドステッキの凄さを痛感する。

しかし、まさかあの剣に込められた神秘を爆発させるとは。あの剣の神秘は相当なものだ。恐らくは敵の切り札だろう。それを爆発させるなど、一体何を考えているのか。

一方のルヴィアもなんとか攻撃をしのぎ、口を開く

 

「敵は遠距離攻撃をしてくるようですわね。であれば、ビルの屋上まで一気に飛びますわよ。この手の敵は距離を詰めてしまえば大したことはありませんわ」

 

悔しいが、その考えは正しい。凛は頷いて一気にビルの屋上へと向かう。途中、矢の如く剣がこちらを正確無比に狙ってくるが、それを魔力弾で落としていく。だが敵の腕も相当なもので、いくつかの矢は完全に軌道を反らしきれず、凛の身体にはいつくものかすり傷が出来ていた。

 

……射ってきたいくつかの剣も、さっきの剣と同じくらいの神秘が込められていた。あんなものを大量に放つなんて、敵は一体……?

 

そして辿り着いたビルの屋上、そこには色素の抜けた髪に、褐色の肌、目元を赤い聖骸布で覆った男が立っていた。

 

「貴方が、この歪みの犯人かしら?」

 

男は何も答えない。いや、そもそも意思疎通など出来るのだろうか?

 

気がつけば男の手には何時の間にか弓矢ではなく白と黒の中華剣が握られていた。

 

「まさか、近距離戦闘も出来るとは……読みが外れましたわね」

 

呟くルヴィア。凛もまさかあの男がこれほど多様な、しかも神秘が込められた武器を揃えているとは思いもしなかった。

 

魔力弾を放つも、男はその全てを避け、いなし、斬ってこちらへ迫る。

ならば、と凛はステッキへ魔力を込め、その魔力で剣の刃のようなものを生み出し、男に応戦する。

刃と刃がぶつかる。体格差もあってか凛は僅かに押される。しかし、

 

「死にたくなければ離れなさい!」

 

その言葉を合図に凛は後方へ飛ぶ。すると二人の間に青い宝石が煌めき、

 

「Gewicht, um zuVerdopp elung────!」

 

ルヴィアの重力魔術によって男の動きが鈍る。しかし、凛にはそれで充分だった。凛は一歩を踏み出し

 

「はぁ────!」

 

渾身の拳を叩き込む。護身用にと覚えた八極拳。まさかそれがこんなところで発揮されるとは

 

急所に拳を喰らい、体勢を崩した男に、カレイドステッキの剣で止めを差す。袈裟斬りに斬られた男の身体。その勢いで、目元を覆っていた聖骸布が僅かに切れ、その鋼の瞳と目が合う。

 

「────」

 

男が、何かを呟いた気がした。

凛は瞬間、奇妙な感覚に囚われる。

 

しかし、それも一瞬のこと。次の瞬間には男の姿は消え、

そこには一枚のカードがひらりと舞っていた。

 

 

#

 

翌日に昨日の出来事を報告すると、宝石翁からそのカードはクラスカードと呼ばれるものであること、自分の倒した男は英霊と呼ばれる最上位の精霊の影のようなものであることを告げられ、それらを倒して全てのカードを集めてくることが任務であると改めて告げられた。

 

最初から言ってくれれば、と思わず不満をこぼす。翁曰く、確証が無かったため一枚目を確かめてから改めて伝えることにしたかったらしい。

 

その後、凛とルヴィアは人気のない森の中、転身した状態で向かい合っていた。

 

『ちなみにここまでにカードの所有権を巡っていつもの馬鹿らし……くだらない喧嘩を始め、なんやかんやで凛さんがこのカード、ルヴィアさんが次に回収するカードを所有することになったのでした。まる。』

 

『姉さん、言い直すところを間違えてませんか?』

 

……などと意味のわからない会話をしているステッキを無視して凛は口を開く

 

「……で、このカードだけど。確か宝具が使えるのよね?」

 

「宝石翁はそうおっしゃっていましたが……」

 

「ええと……確か、限定展開(インクルード)!」

 

凛がそう呟くと、それに呼応するようにカードが光り、次の瞬間には黒塗りの弓があった。

 

 

暫しの沈黙。

 

 

「…………矢は?」

 

『無いみたいですね~』

 

呑気に答えるルビーに、思わず声を荒らげる

 

「は、はぁ!?どういうことよ!これじゃあ宝の持ち腐れじゃない!」

 

『そうは言われても……そうですね、何かで矢は代用するしかないんじゃないですか?』

 

「代用か……黒鍵でも使うかな」

 

確か家にあった筈だ。あれであればあの男みたいに矢のように射つこともできるだろう。

 

「まあ、クラスカードがどんなものなのかについてはわかりました。それより、今日は何処を攻めるのですか?」

 

「今日は手近なところから行くわ。あそこ、住宅街の傍だから人も少なくない。何が起きるかわからないから早めに潰しておくべきね」

 

「それって……」

 

「校庭よ。穂群原学園のね」

 

 

 

 

#

 

 

しまった、と。そう思った時にはもう遅すぎた。

 

何処かを一瞥した後、獣の如き俊敏さで私の視界から突如消えたサーヴァント。

そして私の視界が次に捉えたのは、校舎に向かって弾かれたように駆け出す男子生徒の背中とそれを追う赤い槍をつがえた男だった。

 

「────!?まずい!」

 

「何故此処に人が!?とにかく、追いますわよ!」

 

短いやり取りをして駆け出す。

既に二人の姿は見えない。校舎に入ったのだろう。

しかしそれは悪手に他ならない。まだ校舎の外であれば此方も魔術による遠隔狙撃で足止め出来ただろうに。

 

……これは私の落ち度だ。境界面だから大丈夫だろうといって人避けの結界を張らなかった。

何らかの拍子に一般人が迷い込む可能性を考慮していなかったのだ。

 

境界面がどのようなものなのか把握もしていないで。

 

凛は思わず歯噛みする。

 

「ルビー!」

 

『はいは~い呼ばれて飛び出てルビーちゃんです!』

 

などと意味不明な返事をする悪魔のステッキに言う

 

「アンタ、さっきのヤツが何階に居るか判る!?」

 

あの俊敏性をもつランサーだ。なるべく最短距離で向かわなければ先程の青年は死んでしまう。いちいち各階を見て回ってなどいられないのだ。

 

『もちろんですとも!えーっと、フムフム。彼らは4階ですね』

 

「一番上か。よくそこまで逃げれたわね」

 

思わず顔も知らない男子生徒に関心する。もしかしたら陸上部の人なのかもしれない。

 

「そこ!関心してないで行きますわよ!」

 

脚を強化しつつ魔力を放出して一気に4階へ飛ぶ。ステッキの魔力供給が在るからこそ成り立つ荒業である。

 

廊下へと飛び出ると、そこにあったのは

 

赤い槍を持ち、立っているランサーと

 

彼の足元で己の血溜りに倒れ伏す青年だった。

 

 

 

間に合わなかったのだ。自分達が巻き込んでおいて、助けることが出来なかったのだ。

 

本来、魔術師であれば仕方のないこと、と諦めのつく結末。しかし彼女達は、魔術師である前にどうしようもなく人であった。

 

凛は思わず絶望感に苛まれる。しかし、

 

「────何を呆然としているのですか!私がランサーを引き付けます。その間に貴方は貴方に出来ることをしなさい!」

 

そんな、好敵手の言葉に引き戻される。

 

「……えぇ。頼んだわ、ルヴィア!」

 

ルヴィアは魔力弾をランサーに向けて放つ。ランサーはその驚異の反応速度で槍をさばき魔力弾を打ち消す。

 

しかしそれも想定の上、ルヴィアに挑発されたランサーは校庭へ駆け出した彼女を追うようにして校舎を去る。

 

その隙を狙って凛は倒れ伏す青年の元へ駆け出した。

 

「これは……」

 

心臓を一突き。止めどなく溢れる血は、治療魔術を行使しようとも彼がもう助からないことを示している。

せめて最期くらいは看取ろうと、青年に触れて凛は気づく。

 

「……え、うそ……でしょ?なんでアンタが……」

 

忘れる筈もない。その青年はあの日の、そしてあの子の────

 

「ルビー!全魔力、治療に回しなさい!」

 

『もうやってます!ですが……』

 

「何よ?」

 

無駄口叩いてないで治療を、と言いかけるもルビーの調子が真剣なものであると察し続きを促す

 

『私たちカレイドステッキは無限の魔力供給こそ出来ますが、魔力の放出に関しては担い手に任されています』

 

要は水と蛇口の関係だ。いくら大量の水があったとしても、蛇口が小さければ一度に出てくる水の量は変わらない。つまり……

 

 

 

『いくら凛さんといえども、カレイドステッキの力があろうとも、このままではこの人を救うことは出来ません!』

 

 

 

出来るのは彼の延命だけだ、とルビーは告げる。

突きつけられた現実に、思わず拳を強く握りしめる。

延命では駄目だ。それはただ彼が生きている、という結果しか残らない。きっと意識だって戻らず、たとえ戻ったとしてもまず普通には生きていけないだろう。

それでは、あの子に会わせる顔がない。

けれど、私の力では彼を助けられない。凛は己の無力さを痛感する。

 

ごめん、衛宮君。と諦めかけたその時、

 

 

────貴方は貴方に出来ることをしなさい!

 

 

私の胸元で光り輝く、燃えるように赤い希望を見つけた。

 

 

 

「……まだ、手はある」

 

 

 

 

 

 

 

#

 

ランサーを引きつけていたルヴィアと合流した後、一度離界(ジャンプ)してアイツを置いてきた。

ランサーとの戦いが残っている以上、いつまでも境界面に置いておく訳にはいかなかったからだ。

 

何故シェロが……、とルヴィアも随分と驚いた様子だったが、すぐに切り換えて境界面へと再び戻った。

 

ランサーとの戦いはあまり順調とはいえなかった。

魔力弾を放ってもランサーの俊敏性はそれを遥かに上回り、その多くを避けられてしまう。

 

アーチャーとの戦いで凛が使ったステッキに魔力で剣のような刃を生み出すという手法もランサー相手には厳しい。槍のリーチと剣のリーチは大きく異なるためなかなか剣の間合いにランサーが入らないのだ。

逆に言えば凛が攻めればランサーの間合いに入ってしまい防戦に徹するしかない。

 

「このままじゃ此方の体力が保ちませんわ……そうだ!ミス・トオサカ、アーチャーのカードを使いなさい!一応それも宝具なのですからそれなりには役に立つ筈ですわ」

 

そう言われてはっ、と気づく

 

「…………ない」

 

 

「…………今、何と?」

 

 

「アーチャーのカードが、ない……」

 

 

なんてうっかりだ。まさかこんな時にカードを忘れてしまうとは。

うぅ、ルヴィアの視線が痛い。

 

「……悪かったわよ!あーもう!こうなったらぁ!!」

 

手元にあった宝石の中でもっとも強力な二つを手に取り、その片方を使って詠唱を始める。

 

「……まったく、貸し一つですわよ」

 

と、ルヴィアも自分の宝石を手に取り詠唱を始める。二人の力とカレイドステッキの力によって本来なら起動までに時間のかかる術式の工程をすっ飛ばす。そして完成したのは拘束の陣。

 

ランサーの足元から鎖が飛び出し、その身体を拘束する。

 

「Sieben────!Stil,sciest,Beschiesen──ErscieSsung────!」

 

凛はランサーに向かって渾身の宝石魔術をくり出し、さらにとどめとばかりに剣でその身体を切り伏せる。

 

確実に致命傷だろう。ほっと一息をつき、ルヴィアの方を振り向こうとして────

 

「!?ミス・トオサカ!!」

 

「え────」

 

そこには、満身創痍ながらも立ちあがり、槍をこちらへ向けるランサーがいた。

 

その震え上がるような殺気に、凛は今度こそ己は死ぬのだと理解した。直接槍に貫かれてはいくらルビーの力があれども助からないだろう。

 

なんて無様、こんなところで死ぬなんて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────遠坂!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、聞こえる筈の無い、声がした。

 





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