世界一の天才と言えば誰を思い浮かべる?
もしテレビ局がこのような質問を街を行き交う人々に聞いたとしたら、誰も彼もが一字一句変わらない名前を答えるだろう。
「それは篠ノ之束だ」と。
それは間違いない。昔を知るものならなおそう思うだろう。ISを作り出し、女尊男卑の世界にしてしまった稀代の『天災』。ISに隠れてはいるものの、一般にも応用されている新技術も生み出した産業革命者。
誰もが天災であると分かってしまう。彼女が生み出した技術も、彼女が掲げていた理想も、彼女の本心も、何も理解出来なくても分かってしまう。いや、そう思うしかない。天災の定義そのもののような人間、それが篠ノ之束だ。知識としてその言葉を知っているならその存在を認めざるを得ない、それが篠ノ之束なのだ。
では質問を少し変えてみよう。篠ノ之束の次に天才だと思う人物は誰ですか?
皆、言葉を詰まらせる。そして少し考えた後「分からない」「知らない」と答えるだろう。
何故かと聞けば一般人は「そういう方面の知識はない」と一蹴するだろう。ちょっとした知識人なら様々な名前を挙げた上で「吟味できない」と言うかもしれない。
だがしかし、二番目の天才というのは確かにこの世に存在する。
篠ノ之束も、その友人である織斑千冬も、ISに携わる者なら誰でも認めている。認めざるを得ない人物。
それが男だと言ったならこの世界のたくさんの人が驚くだろう。そしてその人がIS学園で教鞭をとっているとしたら更に驚くだろう。嘘だと思うかもしれない。
だがしかしそれは真実だ。
篠ノ之束の次に最も各分野の知識があり、
篠ノ之束の次に最も運動能力があり、
篠ノ之束の次に最もISへの理解力があり、
篠ノ之束の次に最も細胞が進化している人物。
その名は『新城 鋼』と言った。
カタカタカタと複数のキーボードから音がする。
ディスプレイに映る画面では様々なウィンドウが開いたり閉じたりしている。
そして、全てが同じタイミングでブラックアウトした。
いつ見てもその速さと正確性には驚いてしまう。新城鋼。この幼馴染の男はいつもこうだ。時間に正確、動作も正確、理論も正確。気持ち悪いくらいにキッチリした男。
「千冬、別に迎えに来なくてもいいだろう? 」
「いや、今日は少し遅れることを言っておこうと思ってな。山田くんを頼むぞ。それと、教室では名前呼びはなしだぞ」
「分かっている。ここは俺の部屋だからな。要件は分かった。なら俺は山田先生に合流するとしよう」
自身の研究用自作ノートパソコンと、授業で使用する様々なデータが入っているとされる端末を持って鋼は部屋を出た。二つとも持っていくのは珍しい。束と違ってコイツは公私の切り替えがよく出来ているはずなのだが。
まぁ、それだけ気になっているのだろう。我が弟がISを起動させたということに。ずっと夢見たISに自分も乗れるかもしれないと思っているのだろう。
「皆さん入学おめでとう! 私は副担任の山田真耶です」
山田先生のあいさつが虚しく教室に響いた。俺はいつものことが起こらんように廊下から盗み聞いているのだが、うむ生徒は全く声を発さない。これが今どきの女子高生だろうかと思えるレベルである。去年はこんな感じじゃなかった。
それだけ織斑一夏に興味があるということなのだろう。分かる。その気持ちは分かるぞ皆の衆。
だがしかし、君たちにとってここは学校という教育の場。ISに関わる謎を解くのは教員と研究者の仕事だ。あまり推奨できる行為ではないな。
山田先生はこの空気でも自己紹介、学校の説明、生徒の自己紹介の司会進行などを着々と進めている。少々引きつった笑顔ではあるが。
しかしそれに対して生徒達はほぼ無視同然の塩対応。山田先生に指名された生徒が早々と自己紹介を済ませ、もう既に織斑一夏の番まで回ってきてしまっていた。
その本人はと言うと慣れない環境に緊張している様子。山田先生の言葉への対応も遅いし言葉数も少ない。先程篠ノ之箒に助けを求めたようだが、あの妹はそれを無視。ふむ、あちらはあちらで昔からでは考えられない対応だな。
「……どうした?」
「む、織斑先生か。意外に早かったな。いや、中で生徒の自己紹介が終わるのを待っているのだが、織斑のところで止まっていてな。入るに入れん」
「なに? ……分かった。私があの愚かな弟を叩き直してこよう」
「いやまて、それでは俺がここにいる意味がな────」
バシン
と俺が言い終わる前に凄まじい速さで千冬は織斑一夏の頭を叩いた。身の毛のよだつ速さだ。流石俺が運動能力で勝てない女。一瞬ギロリと睨まれた気がしたが気にしてはいけない。
「ゲッ、千冬ねぇ!?」
ゴツン
音がさらに鈍くなった。しかし、あの拳骨を2度もくらって立っていられるのだから流石弟と言ったところか。自ら職業を隠していたくせに初見で彼が驚くのは無理もないし、拳骨を食らうのはおかしいと思うが決して声には出さない。あの巻き添えはくらいたくないからな。
「織斑先生、もう会議は終えられたんですか?」
「あぁ、あいさつを任せてしまって悪かったな山田くん。諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物にするのが仕事だ」
「「「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」
「千冬様! 本物の千冬様よ!」
「私、千冬様に会うためにこの学園に来たんです! 北九州から!」
「私、千冬様のためなら死ねます!」
「というかその拳で殺してください!」
出た。俺はこれが嫌で入りたくなかったんだ。それに一人野蛮人が居たな。この矯正もしなきゃいけないのがここの教員の辛いところだ。
「静かに! まだ私の話は終わっていないぞ! ……コホン、私たちの他にこのクラスに関わる先生を紹介する。入ってくれ」
さて、俺の出番だ。
「特別顧問の新城鋼だ。この男性IS操縦者、織斑一夏の専任教師という名目だが気軽に話しかけてもらって構わない。主に座学では君たちと深く関わることになるのだからな」
「「「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」
間髪入れずにもう一発の大歓声。やめて欲しい。俺は人の大声は嫌いなんだ。ほら、織斑一夏も困惑してるじゃないか。あ、この困惑は俺に対するものか。千冬と一緒で何も知らなかったもんな君は。
「は、鋼さん!? どうしてここに?」
「新城先生と呼ぶことを推奨する。そこにいる担任の餌食になりたくなければな」
瞬間、頭からの衝撃。
ふむ、最後の最後でボロが出てしまったようだ。昔からここだけは成長出来ていない気がする。
いつも自分の下にくっついている奴。いつも私の考えに追いついてくる奴。
それが、新城鋼。
そいつとの出会うきっかけになったのは単純な話、お互いのパソコンが未知のものだったからだ。
当時学校にノーパソを持ってくる輩は私とはーくんぐらいなものだった。そんなことは元々知らなかったし興味もなかった。でも、彼が教室に置いていったそれを見た時に理解できなかったのだ。その薄さも、小さすぎるロード音も、発している光源の源も何もかも。だから興味が湧いた。
翌日軽く話して同い年にしては出来るやつだと思った。
その次の日普通に話して彼は着いていけるのだと気がついた。
その次の日詳しく話して彼の才能を理解した。
「コイツ……いや、彼は私と同じ天才だ」と。
ちーちゃんのように身体能力特化ではなく、私と同じように細胞レベルからの天才。
毒も効かないし、耳は聖徳太子以上で、知識は勿論身体能力も私並み。作り出そうとしているもののレベルも同じで、なにより私と同じく容姿が完璧だった。
というか私が惚れるレベルだった。
今考えれば当然のことだろう。だって私の次に細胞レベルで天才ってことは男の中じゃ最高ということなのだから。雌としての私の生物的本能が、彼の雄としての魅力に惹かれてしまうのも無理はないことだった。
その感情に気づくのはもっと後。お互いに夢を語り合い、優劣が決まり、しかし友人として付き合いがずっとあって、そして別れた頃。
私がISを完成させ、はーくんは社会という表舞台に立つことなく、私だけが離れざるを得なかった頃のことだ。
はーくんにはなんでも出来た。私に出来ることはほぼ出来たし、私に出来ないこともいくつか出来た。二人でそれを学び学ばせ合って、知識を一つにして、どんどん高めていったから最終的に二人共ほとんど同じことが出来るようになっていた。
でも彼には一つだけ出来ないことがあった。ISのコアの理解とその製作。それだけが何故か彼にはできなかった。
そこから彼との差は如実に現れた。
装甲は作れるのに。武器は作れるのに。シールドに関してもブースターに関してもなんでも出来るのにコアが理解できなかった。ISの操作ができなかった。
だから彼は私の後追いしか出来なくなった。次世代の開発案は出せても開発が出来なかった。追いつく速さが異常なだけのただの他人になってしまっていた。
面白くなかった。私が起こした『白騎士事件』も最後まで反対的だったし、それ以外の非人道的なことや違法なことにもうるさかった。
そして私は理解したんだ。「彼は天才であって天”災”ではない」のだということを。
彼はいつもルールという鎖に縛られていた。それをいつでも破壊できるのに破壊しない。抗えるのに抗わない。人との付き合いも私と違って最低限行っていたし、個ではなく集で生きていた。
だから別れた。つまらなかった。他の凡人みたいになったような気がして。それを指摘してもはーくんはちっとも怒らないし、嫉妬もしないし、変わらない。ただ凄いと褒めるだけ。
でもそれで苦しくなったのは私のほうだった。彼の顔が、言葉が、私の心に焼き付いていたからだ。肯定する声も否定する声も無くて、微笑みかけてくれるあの笑顔も無くて、ひとりぼっちが嫌で苦しくて。
「私、何やってるんだろう」
思わず呟いた。いっくんに渡した『白式』のデータを撮るための盗撮が、いつの間にかはーくんだけしか見ていない盗撮になってしまっている。
あぁ、今彼は私の作った『白式』を手で触って、解析して、いっくん用にカスタマイズしてるんだ。
あぁ、気づいてくれるかな、私のこと。気づいてほしいな私のこと。
もう少ししたら、そっちに行くからね。
さて問題です。
細胞レベルで天才な輩は同じように細胞レベルで天災な輩を惚れさせることができます。では、逆ならどうでしょう?
(倉持技研から届いた『白式』を織斑一夏用にカスタマイズ中だ。急に決まった代表候補生との決闘とは言え、この一週間一夏にはISを使わせられなかった負い目がある。全力で使いやすくパーソナライズするとしよう)
人類最強の天災篠ノ之束に、男である新城鋼が惚れないということはあるのでしょうか?
(それにしてもこの『白式』。とても特殊な機体だ。兵装は剣の一本しかないし、追加できるバススロットも無いからイコライザも出来ないし。ほうほう、武器の名前は『雪片弐型』と……。あれ、雪片?)
答えは否。
(そう言えば……。倉持技研は色々あって到着が遅れたんだって言ってたな……?)
たとえどんなに束の性格が一般的にはキツかろうが、彼は彼女の本心を知っています。
(あれ、もしかしてこれって……。いや、確実に……いや、まさかそんな)
たとえどんなに束の心が歪んでいたとしても、彼は心が広い系の天才ですから受け入れることができます。
(……篠ノ之束だ。これを作れるのは篠ノ之束しかいない。そして、これを一夏に授けた。多分、ISコアの解析とこの雪片の解析─────)
つまり二人は──────ベストマッチな奴らということです。
(てことは絶対くるじゃん束の奴!? ど、どうしよう、トラウマが、何も言わずに出ていかれた時のトラウマが……! いや、落ち着け俺よ。カッコイイところを見せればまだワンチャンあるだろう? 無い?いや、あるはずだ。でも、ISを使えるようになったら会いに行くと決めていたんだ。そんな、急に来ると言われても困るし……。あ、でも来てくれるのは歓迎で……。あぁ、ダメだ! 手元が狂「どうした新城先生。もう時間だが」……ハッ!)
「あ、あぁすまないそろそろ終わる」
しかしこの二人、まるでテレパシーをしているようである。早くくっつけばいいのに。全てを察している織斑千冬はそう思った。
おかしいな
イチャイチャ書きたい
だけなのに
篠ノ之束さんの愛は重い。
主人公のヘタレはヤバイ。
千冬様の板挟みはつらい。
ちなみに篠ノ之束さんの出番はこの先があるとしたらかなり先です。
次話の投稿は未定なり