インフィニット・ストラトス・桜花舞う   作:京勇樹

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辞退と整備室

「さて、現状はオルコットが一勝一敗、織斑が一敗、桜内が一勝だな……」

 

「ですねぇ……」

 

千冬の現状説明に、義之は呟きながら頷いた。

つまり、次は義之と一夏が戦うことになるのだが

 

「俺、勝機……無いな……」

 

流石に現実を見た一夏は、どうしようという感じで呟いた。すると、義之が

 

「織斑先生、俺は不戦敗でお願いします」

 

と義之が告げ、それを聞いた千冬と山田先生は驚いた表情で義之を見た。

 

「いや、ISとして初めて天枷を動かしたんで、念のために点検したいんです」

 

義之がそう言うと、義之の隣に居た美夏が

 

「ん? 美夏は大丈夫だが……」

 

と首を傾げた。

 

「いいから」

 

「むぅ、分かった……」

 

義之の言葉に、不承不承という感じだが、美夏は頷いた。

すると、千冬が

 

「分かった。桜内は辞退だな……そうなると、全員が一勝一敗だが……さて、どうするか……」

 

と悩み始めた。そこに、山田先生が

 

「織斑先生、今しがたオルコットさんがクラス委員は辞退すると……」

 

と端末を千冬に見せた。恐らく、メッセージを見せているのだろう。

 

「となると、織斑と桜内になるか……」

 

「あ、俺は無理ですんで」

 

千冬の呟きと重なるように、義之が辞退の言葉を口にした。

 

「俺、一応天枷研究所の研究員でもありまして、時々は天枷研究所に戻ることになるかと」

 

「……それは、仕方ないか……」

 

「えっ!? ってことは、俺!?」

 

「頑張れ、一夏……」

 

「ぬぉぉぉぉぉ……」

 

箒が労るように肩に手を置くと、一夏は頭を抱えながら唸り声を漏らすことしか出来なかった。

それから、数時間後

 

「……うし、第38回路も異常無し……点検終了」

 

義之は整備室を借りて、美夏の点検をしていた。

なおその手伝いに、本音が居る。

すると、本音が

 

「だけど、ヨシヨシの手際良いね~」

 

「ん、そうか?」

 

本音の言葉に、義之は内心で首を傾げながら美夏の再起動コマンドを端末で入力した。

すると、美夏の目が開き

 

「どうだった、桜内」

 

と美夏は、上半身を起こしながら義之に問い掛けた。

すると、義之は

 

「ん、問題無し」

 

と答えた。

それを聞いた美夏は、溜め息混じりに

 

「だから大丈夫だと言っただろうに、まったく……」

 

と言いながら、ソファから降りた。

 

「念には念をだよ」

 

「そうか……」

 

「それにしても、ミナッちゃんは本当に、50年前のロボットなの~?」

 

美夏が立ったと同時に、本音が美夏を見つめながら問い掛けてきた。

 

「うむ。間違いないぞ? 美夏は約50年前に作られたロボットだ。型式はHMーA06型だ」

 

「ほえ~……天枷研究所は凄いんたねぇ~」

 

本音としては、半世紀も前に人間としか思えないロボットを作っていたことを驚いていた。

そこに、簪が現れた。

実は、義之が来た時には既に一機のISが駐機されていたのだ。様子から見るに、簪のISのようだ。

 

「ん、桜内君……」

 

「よ、機体の整備か?」

 

義之の問い掛けに、簪は首を振り

 

「組み立て」

 

とだけ答えた。

それを聞いた義之は、驚いた表情で

 

「未完成なのか、こいつ!?」

 

と言いながら、駐機されていたIS。

打鉄弐式(うちがねにしき)を見た。

打鉄弐式、日本の第二世代ISの打鉄を防御重視から高機動重視にした第三世代のISとなっている。

義之の見た限りでは、ほぼ完成しているように見える。

 

「出来てないのは……ソフトか」

 

「うん……」

 

義之の呟きに、簪は頷きながら投影式キーボードを高速で叩き始めた。

 

「かんちゃ~ん、なんか手伝う?」

 

「かんちゃんって呼ばないで……モニター持ってきて」

 

「あ~い」

 

簪に敬礼すると、本音はノタノタとモニターを取りに行った。その間、義之は

 

(なんで、未完成なんだ……待てよ、確か……)

 

と思考していた。

そして

 

「簪ちゃん」

 

「ちゃんは、着けなくていい……」

 

「簪、一つ確認したい。それの開発元は、倉持か?」

 

義之の問い掛けに、簪は無言で頷き、それだけで義之はなんで未完成で引き渡されたのかを察した。

 

(一夏の機体を早期完成させるために、開発を中断。その人員を回したのか……政府の意向か……)

 

ある意味、簪は一夏の被害者になる。

一夏と簪の開発元たる倉持は、恐らく政府からの無茶振りに答えるために、打鉄弐式の開発を一時的に中断。その人員を白式の開発・調整に全て回したのだ。

その結果、簪は完成が何時になるか分からなくなった機体を強引に引き取り、自分で完成させようとしているのだ。

 

「幾らなんでも、一人はかなり無茶だぞ……」

 

「……お姉ちゃんは、出来た……だから、やる……」

 

義之の呟きに、簪はキーボードを叩く手を止めずに答えた。その声音から義之は、簪の強い意思を感じた。

 

「……流石に、一人じゃなかった筈だぞ? なんでもこなせる人間なんて、居ない……」

 

「そんなこと……」

 

「もし、簪がそう見てるならさ、楯無さんがそう見せただけだ……必死に努力して、誰かと一緒にコツコツとやってた……その筈だ」

 

簪が否定しようとしたが、それを遮るように義之はそう告げた。

なにせ、ある意味でそう行動していた人を知っていたからだ。本当はロボットが好きなのに、憎むという相反する自己暗示をすることで、立ち止まらないようにしていた恋人。麻耶がそうだったのだから。

 

「……」

 

「俺が知ってる限り、楯無さんの周りにはソフトに強い虚さんと整備課のエースらしい薫子さんが居る……最低でも、その二人には手伝ってもらってた筈だ……幾ら簪がソフトに精通してても、流石にIS一機丸々のOSは無理だろ……」

 

義之はそう言いながら、美夏を手招きして

 

「天枷、前に俺が組み直したバランサーの調子はどうだ?」

 

と問い掛けた。その問い掛けに、美夏は

 

「うむ、絶好調だ! 時々、沢井が足周りの部品の損耗を確認してたが、良好のようだぞ」

 

と答えた。

そう、義之の得意分野もまた電子寄りの理系だ。

 

「さて、手伝うよ」

 

「え……」

 

義之の言葉に、簪は思わず手を止めて視線を向けた。

すると、義之は

 

「なに、知り合いが困ってるなら、見捨てるなんて出来ないしな」

 

と言って、簪の頭を撫でた。

何故かは分からないが、簪に兄妹同然の朝倉由夢(あさくらゆめ)の姿が重なったのだ。

 

「美夏も手伝おう! バグ探しならば、得意だ!」

 

美夏は快活な笑顔を浮かべながら、簪の隣の椅子に腰かけて、自身とISを配線で繋げた。

それを見ながら簪は

 

(……お姉ちゃんが、誰かに手伝ってもらってた……)

 

と考え始めていた。

その後、戻ってきた本音も混じって打鉄弐式は簪が一人でやっていた時よりも、少しだが終わりが見えてきたのだった。

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