「んー……やっぱ、地力の差が出るか」
そう呟いたのは、ピットでモニターを見ていた義之だ。
今アリーナでは、一夏と鈴が試合を繰り広げているが、状況は鈴優勢だった。理由としては、まず鈴の専用機たる崩龍の第三世代兵器たる衝撃砲。
この衝撃砲というのは、空間を歪め、その歪めた空間を元に戻す際に起きる衝撃を打ち出すという機構になっている。そして、衝撃を打ち出しているために、砲撃は全く見えないのだ。
一夏は勘で回避行動をしているが、それでも何発も受けている。
そして最大の理由は、ISの慣れだった。
一夏は、ISに触れて約一ヶ月程しか経っていない。それに対し、鈴は最低で約一年。
経験差は、明らかだった。
「織斑も善戦しているが、勝てる確率は低いだろ」
「お、起きたか」
ふと気付けば、一夏が出るまでベンチで寝ていた美夏が、義之の隣に立っていた。
「あの衝撃砲とやら、射角に制限はほぼ無いようだな……あって、後頭部の僅かな空間か」
「分析したか」
「ああ……鈴は、なるべく後頭部の方に織斑を行かせないようにしている。多分だが、その角度が撃てないんだろうな」
そう話している内に、一夏と鈴が向かい合って、一夏が切り札の零落白夜を起動させた。
「む、決める気か?」
「まあ、一夏が勝つには、それしかないからな」
元より、白式は短期決戦仕様機。これ以上は、零落白夜の発動すら覚束なくなるだろう。そうなる前に、一撃で勝負を決めに行く気のようだ。
そして、一夏が突撃しようとした。その時だった。空から、光の奔流が降り注いだ。
場面は変わり、アリーナ。
「なんだ!?」
『一夏、すぐにピットに戻るわよ!』
一夏が驚きの声を上げると同時に、鈴からピットに戻るように促す通信が届いた。しかし、一夏は出来ないと悟った。
「いや、無理だ……あの煙の中から、ロックオンされてる!」
と一夏が言った直後、先よりかは弱いものの、閃光が一夏に迫った。
「くっ!?」
それを一夏は、降下することで回避。その時になって、敵を視認した。
一言で言えば、異様としか言えない敵だった。
全身装甲に、頭と肩が一体化していて、腕は膝辺りまである。
「なんだ、お前は!? 何が目的だ!?」
一夏がオープンチャンネルで問い掛けるが、返答は無い。その代わりと言わんばかりに、腕を突き出した。その両手の掌には、砲口があった。
右手は一夏に、左手は鈴に向けられている。それを視認した二人は、乱数回避を開始。それと同時に、敵が砲撃を開始。
そして、その時になってようやく観戦席のシャッターが降りた。
「問答無用かよっ!?」
『というか、教師部隊は何やってんのよっ!?』
その頃、中央管制室では
「どうだ、山田くん」
「ダメです! 織斑君達への通信だけでなく、校舎への通信。全隔壁の操作、一切出来ません!」
千冬の問い掛けに、山田先生は焦りの表情を浮かべながら返答した。
そして教師部隊だが、既に非常用出撃ハッチに待機していたのだが、アリーナ内だけでなく、ハンガーへ戻ることも出来なくなっていた。
「ハッキングか」
「そうとしか考えられません。電子課の生徒達の協力も得ていますが、開く見込みは」
山田先生からの報告を聞いて、千冬はどうするか頭を働かせた。
(……恐らく、アレを送ってきたのは束なんだろうが……何が狙いだ?)
とそこに、ドアが開き
「千冬さん!」
「状況はどうなってますの!?」
と箒、セシリア、簪、楯無、本音、虚が入ってきた。
「お前達、どうやってここに!?」
「アリーナ内の全通路は、封鎖されていた筈です!?」
千冬と山田先生が驚いていると、楯無と簪が
「簪ちゃんが、観戦席から地下シェルターと、ここまでの通路を閉鎖していた隔壁を開けました」
「……勝手でしたが、避難誘導は有志に頼みました」
と二人に教えた。
それを聞いた千冬は
(束より、電子戦能力が高いのか!?)
と内心で驚愕しながらも、それを表情には出さなかった。しかし、すぐに
「更識妹……お前に、第一アリーナの全システム奪還を命じる……出来るか?」
と簪に問い掛けた。
「……やります……本音、手伝って」
「ほいさっさ~」
指示を受けた簪は、本音を伴い空いていた椅子に座り、空間投影式キーボードを展開。本音は、コンソールのキーボードのタイピングを開始した。
それを視界の端で見ながら、千冬は
「更識姉とオルコットは、何時でも突入出来るように待機していろ」
と指示を下した。
その時
「織斑先生! 第2ピットのハッチが解放されていきます!」
と山田先生が報告してきた。それを聞いた千冬は、視線を簪に向けたが、簪は首を振って
「……私ではありません……これは、内部から電子鍵が解除されてます!」
と告げて、サブモニターに第2ピット内部の映像を映した。そこには、桜花を纏った義之が出撃しようとしていた。