「……以上です」
「……報告、ご苦労」
義之の報告を聞き終わった千冬は、そう告げた。今居るのは学園長室で、そこで今回の襲撃に関する報告をしていたのだ。
「しかし、無茶をしたな……」
「まあ、俺一人の無茶で助けられるなら、安いかと」
義之のその言葉に、千冬は溜め息を吐いた。
「怪我される訳にはいかないんだがな……」
確かに、教育者としては生徒である義之に怪我をされる訳にはいかないだろう。
「しかし、君の勇気ある行動で、被害は最小限に済みました……感謝します」
と言ったのは、学園長席に座っている老人。
「しかし、さくらから聞いた通りです……頭が回り、異常に慣れている」
「……さくらさんを、知ってるんですか?」
義之が問い掛けると、十蔵はフフっと笑い
「嘗ての、同級生ですよ。純一には、よく巻き込まれてた」
と告げた。
「純一さんまで……」
まさか、さくらだけでなく純一まで知っているとは思わず、義之は言葉を漏らした。
すると十蔵は、義之に
「君の報告は、楯無君の報告と一致します。今回は、お疲れ様でした。部屋に戻って、ゆっくり休んでください」
と告げ、それを聞いた義之は学園長室から退室した。
そして、千冬が視線を向けると、十蔵は
「……やれやれ……儘ならんものですね……」
と呟いたのだった。
そして、外に出た義之は、周囲に誰も居ないことを確認すると、携帯を取り出して
「……あ、さくらさん? お久しぶりです」
と通話を始めた。
どうやら、相手はさくらのようだ。
「はい、大丈夫です。ただ、一つ確認したいことがありまして……」
『確認したいこと?』
義之はそこで一拍置くと
「束さん、そこに居ます?」
と問い掛けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜、一年生寮の屋上。そこに、千冬は居た。
そして、取り出した携帯を耳に当てて
「……束か」
『やっはー! 久しぶりだね、ちーちゃん!』
相変わらずのハイテンションに、千冬は頭痛を覚えた。ちーちゃんというのは、束独特の千冬のあだ名だ。過去に何回も止めろと言ったが、直らなかったので諦めている。
「……今回の無人ISを送ったのは、お前か?」
千冬は、いきなり用件を切り出した。そもそも、千冬の性格的に遠回しに聞く訳がないのだが。
『んー……束さんであって、束さんじゃない……ってところかなぁ?』
「……どういう意味だ?」
束の言い回しに、千冬は思わず片眉を上げた。束はコミニュケーション能力面に難があり、極一握りの人間以外はそれこそ路傍の石ころと同じで、認識すらしない。
だが、問われたことにはなんだかんだと答えたり、独特の解答を返す。
だが、長年の付き合いのある千冬でも、今の解答は意味を計りかねた。
『ねえ、ちーちゃん……世の中にはさ、ちーちゃんが知らないことが多くあるって理解してる?』
「それは分かるが……それが、どうした?」
今一要領を得ず、千冬は首を傾げてしまった。千冬は束が何を言いたいのか、さっぱり分からなかった。
『……風見鶏』
「風見鶏?」
束の言葉に、千冬は思わずオウムのように返してしまった。
千冬が想像した風見鶏は、屋根の上で風向きを教える金属製の物だった。
『ごめんね、ちーちゃん……今は、これ以上は言えない……けど、これだけは言える……束さんは、今の世界を面白いと思う……』
そこで、電話は切れた。
「……どういうことだ……」
この時既に、千冬は異能者達の戦いに巻き込まれ始めていた。
千冬の知らない、異能。魔法使い達の、世界規模の戦いに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
無人IS襲撃事件から、数日後。
「えー、今日は皆さんに転校生と新しい先生を紹介します」
教壇に立った山田先生が、点呼を取り終えた後にそう告げた。
「えっ!?」
「この間、二組に来たばっかりじゃない!?」
「というより、新しい先生?」
殆どの生徒は転校生に意識を持っていかれたようだが、何人かは新しい先生が気になるらしい。
「では、まずは転校生です! どうぞ!」
『失礼します』
入ってきたのは、
その男子は、山田先生の隣に立つと
「フランスより来ました。シャルル・デュノアと言います。よろしくお願いします」
と自己紹介しながら、頭を下げた。
その直後、黄色い悲鳴で空気が震えた。
「凄い美形!」
「織斑君とも桜内さんとも違う、守ってあげたい系!」
「夏のネタがキタぁぁぁぁぁ!!」
「誰か、そいつを取り押さえろ」
最後の一人に、義之は思わず突っ込みを入れてしまった。その直後
「やかましい! 静かにせんか!!」
と千冬の一喝により、一気に静かになった。
それを確認した山田先生は
「では、新しい先生です。入ってください」
と廊下に視線を向けた。
『失礼します』
その声に、義之は固まった。
何せ、本来だったら聞く筈の無い声だったからだ。しかし、入ってきたのは間違いなくその人物。
「新しく赴任することになりました、
義之にとって、姉に等しい人物。音姫だったからだ。
「お、音姉……?」
「学校では、先生だよ? 桜内君?」
音姫はそう言いながら、ニッコリと微笑んだ。