「一夏……そいつ、誰よ……」
とシャルルを睨んでいたのは、鈴音だ。
今鈴音を含めた一同が居るのは、屋上。そこで今、昼食の真っ最中である。
「ん? 新しく編入してきたシャルル。まだ慣れてないだろうから、連れてきた」
鈴音の問い掛けに、一夏はお弁当を食べているシャルルを紹介した。
なお、シャルルが食べているお弁当は義之作である。
「桜内君……料理、凄い上手なんだね……」
「趣味だしな」
シャルルは何処か気落ちした様子で、義之作のお弁当を食べている。すると、興味を引かれたのか、簪が
「桜内君……私も、いい?」
と問い掛けてきた。目的はどうやら、義之の作ったおかずらしい。
「お、構わないぞ」
「……じゃあ、唐揚げとその卵焼きを交換で」
簪はそう言って、自身のお弁当に入っていた唐揚げ一個と義之のお弁当に入っていた卵焼きの一個と交換。半分を食べて、固まった。
「簪、どうした?」
「……このだし巻き卵、完璧……出汁の比率に焼き加減……非の打ち所が見当たらない……」
「お、そりゃ良かった」
一夏の問い掛けに簪が答えると、義之はカラカラと笑った。すると、一夏も
「え、マジか」
と驚きながら、先程交換しただし巻き卵を食べて、目を見開いた。
「す、すげぇ……こんなだし巻き、食ったことねぇ……簪の言う通り、出汁の比率は理想的な比率に、固すぎず、柔らか過ぎず……負けた」
「そこまでかよ……」
一通りコメントした一夏は、うちひしがれた様子で両手を突いた。そんな一夏を見て、箒は
「一つ聞くが、桜内は何処で料理を?」
と問い掛けた。どうやら、気になったらしい。
「まあ、親が居なかったからな。親代わりの女性も、体が弱かったからな。音姉と一緒にキッチンに立ったのが最初だ」
「あ、すまん……」
親が居なかったという言葉を聞いて、箒は反射的に謝罪した。
すると義之は、手を振りながら
「ああ、いや、気にしないでいいさ」
と告げた。そこに
「……音姉って、誰?」
と簪が問い掛けてきた。
「あー……新任教師の朝倉音姫。彼女とは姉弟同然に育ったんだ」
「む、知り合いだったのか」
義之の説明を聞いて、箒は驚いていた。確かに、教師が知り合いだったというのは、中々無いだろう。
千冬が教師だったというだけでも、珍しい例だったのだから。
「ああ……イギリスに行ったかと思えば……」
「恐らく、オックスフォードで教育課程を受けたのかと思われますわ」
義之に続くように、セシリアが告げた。義之が視線を向けると、コクリと頷いてきた。やはり、事情は知っているらしい。話を合わせてくれたようだ。
「オックスフォードって、あのイギリスの超有名大学か」
「優秀な方なのか?」
「ああ。生徒会会長もやってたな」
「……お姉ちゃんに見習わせたい……」
簪の言葉に、然り気無く刺を感じる義之だった。
義之は知らないが、楯無は結構サボり癖があり、その度に虚が苦労する羽目になるのだ。
それを知っている簪は、姉に音姫を見習えと思ったのだ。
そして昼食が終わって、授業に向かうのだが
「居た! 織斑君達よ!」
「噂の転校生も居たわ!」
「者共、出合え!」
第一アリーナに向かう途中で、他学年の女子に捕捉された。
「ちいっ、見付かったか!?」
「さて……一夏、ここは二階……下には、土だ」
「あっ」
義之の言葉で察したらしく、一夏は窓を開けた。そして
「レッツダイビング!」
「うそぉぉぉぉ!?」
シャルルと一緒に、跳んだ。跳ぶとは予想していなかったシャルルは、抱き抱えていた義之に抱き付いた。そしてなんとか着地すると
「あー……流石に、人二人分は痺れた……」
と義之は、足をブラブラさせていた。
すると、我に返ったらしいシャルルが
「いきなり跳ばないでよ! 心臓に悪いよ!?」
と非難がましい目で義之達を見た。それに対して、一夏が
「いやぁ、あそこで捕まると遅刻しちまうからな……さて、余裕な訳じゃないから、走るか」
とアリーナの方に走り出した。
それに僅かに遅れて、義之とシャルルもアリーナに向かった。そして、更衣室に入ると
「さて、急いで着替えないとな」
と一夏が、一気に上を脱いだ。その瞬間
「うひゃ!?」
とシャルルが顔を真っ赤にした。
「シャルル?」
「ぼ、ボクは向こうで着替えるね!?」
シャルルは慌てた様子で、一夏達とは反対側のロッカーに向かっていった。
そんなシャルルに一夏は首を傾げるが、義之は懐疑的な表情を浮かべるのだった。