その日の放課後、義之はシャルルと一緒に一夏に銃に関して色々とレクチャーしていた。
「うーん……頭では分かってるつもりだが……」
「実際では、大違いだろ? 一度使ってはいたが、やはり白式はかなり尖ってるみたいだしな」
一夏は義之とシャルルから借りた銃を様々な角度から見てから、二人に銃を返した。
その時
『おい、貴様』
とオープンチャンネルで、声が聞こえてきた。
レーダーを見てみれば、あるピットにラウラが居た。その身に纏うのは、ドイツ製第三世代IS。シュヴァルツェア・レーゲン。ドイツ語で黒い雨という意味の名前の機体である。
「うそ、あの機体って……」
「まだ、ドイツ国内で試験運用中だって……」
周りに居た生徒達は動揺しているが、ラウラは無視して
『貴様も、専用機持ちなのだろう? ならば、私と戦え』
と一夏に言った。だが一夏は
「嫌だね。戦う理由が無い」
と答えて、ISを解除した。それを見たラウラは、歪な笑みを浮かべて
『ならば……戦わざるしかないようにしてやる!』
と言いながら、肩のレールカノンを撃った。生身の相手を狙って撃つなどという蛮行に、一緒に訓練に参加していた箒や鈴、セシリアは驚きの表情を浮かべた。
そんな中、シャルルが左手に盾を展開しながら一夏の前に出て、ラウラが撃った砲弾を弾いてから
「ドイツの人は、何を考えてるのかな? 今の状況……彼を殺すつもり?」
とラウラを睨みながら、両手に銃を構えた。
『ほう……
ラウラは好戦的な笑みを浮かべながら、右手にプラズマブレードを展開した。そこに
「動くな、野犬野郎」
気付けば、義之がラウラの真後ろを取っていた。
右手には、レーザーマシンガンのザスタヴァ・スティグマト。左手には、プラズマソードを持っていた。
「貴様……何時の間に……!」
「背中がお留守だったからな……簡単だったぜ」
義之は簡単に言うが、実際は簡単ではない。ISにはハイパーセンサーというのがあり、それは実質360度見回すことが可能で、しかも超高速で動く標的すら捕捉することすら可能なのだ。
更にレーダーとも同期しているので、余程のことが無い限りは相手を見失うということはない。
「貴様……」
「動くな」
ラウラは振り向こうとしたが、義之はザスタヴァ・スティグマトをラウラの後頭部に当てて動きを制した。そこに
『そこの生徒! 何をしている!? クラスと名前を言いなさい!!』
と放送が聞こえた。どうやら、監督役の先生が騒ぎに気付いたようだ。
「ち……水を差されたな。今日は引いてやる」
ラウラはそう言うと、ISを解除してピットから去っていった。
それを見送った義之は、一夏達の所に戻り
「……意外と使えるな、光学迷彩」
と呟いた。
「一夏、あいつ何者よ? いきなりぶっ放すなんて」
「そうですわ。それも、ISを非展開している一夏さんを狙うだなんて……非常識にも程がありますわ」
鈴とセシリアがそう問い掛けるが、一夏は爪が食い込む程に手を握り締めた。そして
「悪い……今は、何も言いたくない……疲れたし、部屋に戻る」
と言って、全員に背を向けて去っていった。
どうやら、余程語りたくないらしい。それを察してか、全員は解散。部屋に戻っていった。
義之は念のために楯無に状況を報告してから部屋に戻っていた。すると、シャワールームからシャワーの音が聞こえる。
「ふむ……シャルルが浴びてるのか」
と義之は呟きながら、トイレに入ろうとした。その時、シャワールームのドアが開いて、中から金髪の美少女が出てきた。そして、ボディーソープのある上の棚に手を伸ばして、固まった。義之に気付いたようだ。
しかし義之は、代わりにボディーソープを取り
「はい、体が冷えない内にリターン」
と美少女を、シャワールームに押し戻した。
そしてトイレに入ったタイミングで、可愛らしい悲鳴が聞こえた。
「ふむ……杉並から連絡が来てる筈……」
義之は少し前に杉並からメールで情報を送ったと連絡を受けたので、パソコンを開いた。
それから、十数分後。美少女が出てきた。
その美少女は、義之の座ってる席の近くのベッドに腰かけた。
それを見た義之は、用意していた紅茶を差し出しながら
「ほいよ、シャルロット・デュノアちゃん」
と美少女。シャルル改め、シャルロットの名前を呼んだ。
「な、なんで……」
「いやまあ……俺の知り合いにな、恐ろしいまでの情報網を持つ奴が居てな……そいつが、君のことを調べあげたんだよ」
義之はそう言いながら、パソコンの画面を向けた。
そこには、シャルロット・デュノアに関する事細かな情報が記載されていた。
「この情報通りなら……君は、情報スパイとしてIS学園に来たことになるが……」
「……その通り……だよ……お義父さんに命令されて、特に男性操縦者のISのデータを盗んでこい……そう命令されたんだ……」
そこからシャルロットは、語り始めた。
物心が着いた頃から、シャルロットは母親と二人暮らしだった。その頃は、二人で静かに過ごしていた。フランスでも片田舎で住んでいて、幸せだった。
しかしある日、母親は病気で他界。
シャルロットは母親が遺したお金で、細々と生きていた。そこへ、義父。エト・デュノアが現れ、シャルロットを引き取った。
しかし、デュノア社は経営が傾いていた。
デュノア社はIS業界では第三位のシェアを誇る。だが、フランスを含めたEUは第三世代ISの開発が遅れていた。そこで発動されたのが、イグニッションプランだ。
EUに加盟している各国で第三世代を開発し、最も優れていた機体をEUの主力機として採用すると決めた。
そうして開発されたのが、イギリスのティアーズ型。ドイツのレーゲン型。イタリアのテンペスタ型。
しかし、フランスは開発で一歩遅れていた。
そこで発案されたのが、IS学園に赴き、既に運用されている第三世代ISのデータを盗んでくること。
しかし、バレたら無事では済まないのは明白。
だから、一計を弄した。男装させて、新しい男性操縦者として潜入させたのだ。
「ああ……話したら、すっきりしたよ……」
語り終わったシャルロットはそう言うが、その表情は何処か諦めが混じっていた。
「……君は、どうなる?」
「……最低でも、死ぬまで牢屋かな……けど、もう罪悪感を感じる必要が無いから、いいかな……」
義之の問い掛けに、シャルロットは諦めた表情でそう言った。それが義之には、過去の美夏と重なった。
50年前に作られた時は、ロボット排斥派を危惧して封印されて、そして約2年前には一度好きになった麻耶に裏切られて、自ら封印を願い出た時と重なった。
「良いわけないだろ……! 君にも、自由に生きる権利は有る!」
「さ、桜内君?」
いきなり声を大きくした義之に、シャルロットは驚いていた。普段から理知的な義之を知っているから、ここまで感情的になるのが予想出来なかったのだ。
「だから、俺が選択肢を揃えてやるさ!」
そう言った義之は、ある人物達にメールを送った。
それが、救いになると信じて。