「はい、到着……ここが、俺の家の芳野家だ」
義之がそう言った先に建っていたのは、至って和風の家屋だった。二階部分は少し雰囲気が違うために、改築したのだろう。
「……ここが、あの……」
「ほれ、中に入るぞ?」
義之に呼ばれて、シャルロットは中に入った。中もどこかの雑誌で見たような、純和風だった。すると、トタトタという足音が聞こえてきて
「あんあん!」
とその生物が現れた。
「おぉ、はりまお。元気だったか?」
「あん!」
義之が頭を撫でると、その生物は一鳴きした。
それを見て、シャルロットが
「あの、その生き物は……?」
と義之に問い掛けた。
「ん? さくらさんの飼い犬のはりまお」
「犬……」
はりまおの見た目は、まるでぬいぐるみのようだが、尻尾がパタパタと振られていることから、確かに犬なのだろう。
「あお?」
「ああ、はりまお。この娘はシャルロットだ。ちょっと大事な話があるから、連れてきたんだ」
「あんあん!」
義之の話が分かったらしく、はりまおはシャルロットの足元をぐるぐると回った後に奥に消えた。
「うし、行くか」
義之はそう言って、奥に向かった。
そして義之は、ひとつの襖を開けながら
「お久し振りです、さくらさん」
と声を掛けた。シャルロットも中を見ると、桜の木が見える縁側に一人の少女が居た。
金髪に碧眼の十代前半らしい少女。否、その人物のことをシャルロットは知っていた。日本が世界に誇る天才の一人。様々な博士号を所持する、規格外と言える天才科学者にして生粋の教育者。
「芳野さくら博士……」
以前フランスのテレビで、量子力学に関するスピーチをしていたのを、シャルロットは見ていた。
でなければ、混乱していただろう。さくらの年齢は優に70を越えているが、その見た目は完全に十代の少女にしか見えないのだから。
「おかえりー、義之くん!」
さくらははりまおを頭に乗せて、元気に義之の方に歩み寄ってきた。
その言動からも、殆ど少女にしか見えない。だがさくらは、シャルロットに
「君がシャルロット・デュノアちゃんだね? よろしくねー?」
と大人を感じさせる微笑みを浮かべながら、問い掛けてきた。
「は、はい! よろしく御願いします!」
「にゃはは! そんなに固くならなくていいよ」
さくらは笑うと、はりまおを足元に下ろした。
「さてさて、大事な話があるって聞いたけど……」
「はい、彼女の境遇に関してです」
さくらの問い掛けに、義之は真剣な表情を浮かべながらそう告げた。そして、十数分後
「なるほどねぇ……それは確かに、教育者としては聞き逃せないかなぁ……」
二人から事の顛末を聞いたさくらは、腕組みしながらそう呟いた。しかし、何かに気づいたらしく
「ねえ、シャルロットちゃんの父親ってもしかして……アルベール君かな?」
とシャルロットに問い掛けた。
「え、知ってるんですか?」
「そりゃね、アメリカに居た時、経営力を教えたし」
まさかの事実に、シャルロットは驚いた。まあ、普通は予想しないだろう。
「だけど、あのアルベール君がそんな命令を……?」
「えっと……」
「ああ、ごめんね。アルベール君は、約束とかを大事にしてた子でね。少しでも遅れそうになったり、遅れたりした場合はこっちが恐縮しちゃう程頭を下げてきてね……」
シャルロットが困惑していると、さくらは思い出すようにしながら、そう語った。その話から判断するに、アルベールという人物は誠実に思える。
「んー……あれ、そういえば……ちょっとごめんね」
さくらは一言謝ると、シャルロットの手を握って目を閉じた。そして、少しすると
「ねえ、シャルロットちゃんのお母さんの名前って……マロースじゃなかった?」
とシャルロットに問い掛けた。
「あ、はい。そうです」
「マロースって」
「うん……ごめんね、シャルロットちゃん。ちょっと、席を外すね」
シャルロットは驚いた表情でさくらを見て、義之の言葉に頷いた後にさくらは居間から出ていった。
そして数分後
『この寝坊助、起きろーー!!』
『わあぁぁぁぁぁ!?』
と何やら、賑やかな声が芳野家に響いた。その後、少しして
「もう、さくらぁ……昨日は遅くまで起きてたんだから、もう少し寝かせてよぉ……」
「もう13時過ぎてるよ。まったく……それより、アイシアに会わせたい娘が居るの」
とさくらが、一人の少女を連れてきた。
銀色の髪に、赤い瞳が特徴の少女。そしてその人物を、シャルロットは知っていた。昔、母に見せてもらった写真に写っていた人物と瓜二つだった。
「うん? 君は……」
「ごめんね、シャルロットちゃん。彼女はアイシア。フルネームは、アイシア・マロース……君から見たら、叔母に当たる人物だよ」
「へ?」
その呟きは、どちらからだったのか。
「え、私がお婆ちゃん!? え、子供居ないよ!?」
「妹が居たんでしょ? そっちの子孫だよ」
さくらの指摘を受けて、アイシアはジッとシャルロットを見つめ
「もしかして……君のお母さんの名前……ルフィリア・マロース?」
と問い掛けた。