「なんで、お母さんの名前を……」
「ああ、やっぱりねぇ……エルリから一回相談されたんだよ。ルフィリアが駆け落ちした……って」
エルリこと、エルリア・マロース。アイシアの妹で、シャルロットからしたら祖母にあたる。
「それで……ルフィリアは、元気?」
「……お母さんは……数年前に、病気で……」
アイシアの問い掛けに、シャルロットは俯きながら答えた。
「そっか……辛かったね」
アイシアはそう言うと、シャルロットを優しく抱き締めた。見た目はアイシアの方が幼いが、実年齢は遥かに年上だ。
やはり、その包容力はかなりのものだった。だから、気付けばシャルロットの目からは涙が流れ始めていた。
「あ、あれ……」
「いいよ……泣いて」
シャルロットが困惑していると、アイシアはそう言いながらシャルロットの頭を撫で始めた。
それが切っ掛けとなり、シャルロットは声を上げて泣き始めた。母親が亡くなってから、シャルロットはある意味で一人だった。
父親には出会ったが心の内は分からず、その正妻には泥棒ネコの娘と罵倒されながら張り倒されて、デュノア社では心配してくれる人も居たが少数。
シャルロットに、居場所は無かった。部屋にもセキュリティが掛けてあって、一人で行動するにも多数の制限があって、まるで人形のような感覚だった。
そんなシャルロットに、シャルロットの前に、シャルロットの母親のことを知っているアイシアが居て、更に周りには優しく接してくれる人達が居る。
もう、自分自身を偽る必要が無い。それが、シャルロットが長年張り詰めていたナニかが切れて、あらゆる感情が溢れた。
そんなシャルロットが泣き止んだのは、十数分後のことだった。
「すみ、ません……いきなり……」
「大丈夫! 泣いてる子供が居たら慰めるのが、大人の役目だから!」
シャルロットが頭を下げると、アイシアは自信満々に言いながらシャルロットの頭を撫でた。
すると、さくらが
「さて、教育者としてはシャルロットちゃんを助けたい……けど、ことはそう簡単にはいかないんだよね……何せ、シャルロットちゃんは代表候補生……しかも、専用機持ち……つまりは、魔法使いってこと……それも多分、フランス政府が秘匿してる」
と言った。
「……魔法使い……?」
「そ……ISっていうのはね、ボクの教え子……束ちゃんが作った、非魔法使いを魔法使いに目覚めさせる切っ掛けの発明品なんだ……」
さくらの説明に、シャルロットは混乱しそうになった。
(魔法使いって、あの魔法使い? あのお伽噺とかに出てくる? ISは、そのための発明?)
と心中で考えていると、襖が開き
「芳野先生ー! 勝手に説明しないでほしいなぁ!」
と絶賛国際指名手配中のISの開発者、篠ノ乃束本人が現れた。しかも、否定しない。
「さてさて、君がシャルロット・マロースちゃんでいいかな?」
「あ、はい……そうです……」
束は旧姓の方で問い掛けてきたが、シャルロットは気にしなかった。
「まさか、生きてる内に正統サンタクロースの一族の二人目に出会えるなんて、思わなかったー! 握手握手!」
「あわわわわ」
ハイテンションかつマシンガントークに重ねて、高速で上下に振られる握手にと重なり、シャルロットは最早されるがまま。そこに
「束さん、落ち着いてくださいよ。彼女、困惑してますよ」
と義之が、束の肩に手を置いた。
「おっとぉ、ごめんねぇ」
「あ、いえ……」
シャルロットの困惑は極限に達しようとしていたが、麻耶が
「はい、御茶でも飲んで落ち着いて」
とシャルロットに、紅茶を差し出した。芳野家では緑茶が中心だが、アイシアと束が割りと紅茶も飲むので、最近は紅茶も常備するようになっていた。
「あ、ありがとうございます」
受け取ったシャルロットは、言われるがままにゆっくりと紅茶を飲んだ。
そして、一息入れて落ち着くと
「けど、ボクが……サンタクロースの血筋?」
と首を傾げた。それを聞いて、アイシアが
「そうだよ。正確には、マロース家がサンタクロースの一族なんだ」
と言いながら、一度手を閉じてすぐに開いた。その手には、先程まで無かった木製のオモチャがあった。それを見て、シャルロットは小さい時のことを思い出した。
それは本当に昔のことで、シャルロットと母親が河原にピクニックをしていた時だ。母親がシャルロットの頭を撫でていたら、気付けばシャルロットの頭に花の冠が乗っていた。それだけでなく、花びらが風で舞っていたのだ。
しかし、そこは石ばかりの河原で、花は大してなかった。だというのに、いつの間にかあった花の冠。それが気になった当時のシャルロットは、母親に思わず
『お母さん、魔法使いみたいだね!』
と言っていた。すると、母親は
『そ、お母さんは魔法使いなのよ』
と微笑みながら、言っていたのを思い出した。
「本当に、魔法使いだったんだ……」
とシャルロットが呟くと、さくらが
「君達が知らないだけで、世界中に魔法使いは居る……そして、それは光と闇もある……マロース家は正統なサンタクロースの一族であると同時に、フランスを守る盾の一族の一つ……」
と語り始めた。
「そして、闇の魔法使い……まあ、過激派って呼んでるんだけど……その人達からしたら、普通の人は支配されるか淘汰されるべき存在……だから、時々テロを起こす……自分達は選ばれた人間だからって……去年、フランス国内で起きた鉄道駅の爆破テロ……覚えてる?」
「はい、ボクも災害派遣で行きましたので……まさか!?」
察したシャルロットが目を見開くと、さくらは無言で頷いて
「不思議に思わなかった? あれだけの被害だったのに、どんな火薬が使われたのか、分からなかったでしょ?」
「はい、あれだけの規模だったら、普通はプラスチック爆薬を使ったものになりますが、見つかったのは陶器と木片だけ……機械の類いは見つからなかった……」
「うん……鑑識した音姫ちゃんから聞いたけど、あれは人々に悪夢を見せて、その時に出る負の感情を爆発させる物……魔法の一つだよ」
さくらはそう締め括ると、緑茶を一口飲んだ。
それを引き継ぐように、束が
「そんな奴等に対抗するために作ったのが、ISだったんだけど……結局、下らない権力争いに使われた……」
と俯いていた。
確かに、開発した本人としたら不本意極まりないだろう。だが
「それは、女性にしか使えなかったからでは……」
とシャルロットがその点を指摘した。すると束が
「それはただ単に、魔法適性者が女性ばかりだからだよ。義之君と一夏が適性あったでしょ」
と告げた。
「じゃあ、桜内君と織斑君は魔法の適性がある……と?」
「いや、俺は魔法使いだが」
義之はそう言いながら、シャルロットの前に手を伸ばして、閉じてから開いた。するとそこには、和菓子があった。
「俺が今使える魔法は、この和菓子を出す魔法と他人の夢を見せられる魔法の2つだな。まあ、大したことない魔法使いだよ」
義之はそう言うが、シャルロットからしたら魔法使いというだけで凄いことだった。
「世の中、ボクが知らないことばっかり、なんですね……」
「まあ、まだまだ若いからね。今から知っていけばいいよ」
さくらがそう言うと、新たに襖が開いて
「皆さま、お食事をお持ちしました」
と一人の銀髪で目を閉じた少女が現れた。
「あ、クーちゃん。ありがとうね」
「いえ」
クーちゃんと呼ばれた少女は、どうやら近くまで運んでいたらしいおぼんを机の上に置いた。シャルロットを配慮したのか、オムライスだ。
「では、私はこれにて……」
一通り配膳した少女は頭を下げると、退室していった。
そしてシャルロットは、大事な選択を迫られることになる。