インフィニット・ストラトス・桜花舞う   作:京勇樹

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初めて

芳野家を出てから、約十数分後

 

「ここだ」

 

冬也の運転する車が到着したのは、一軒の純和風の一軒家だった。

 

「ここが……議員さんの……」

 

「まあ、な……入るぞ」

 

冬也はシャルロットの荷物を自然に持ちながら、家の門を開けた。その佇まいからは、長い歴史を感じる家である。

 

「あの……ご家族にご挨拶は……」

 

「ああ……家族は居ない……もはや、俺だけだ」

 

「え……」

 

家の中に入れられたシャルロットの問い掛けに冬也が答えると、シャルロットは固まった。

 

「さくらさんの家でも言ったと思うが、俺の家は日本を守護する家の一つでね……内外の敵と戦い続けた結果、今や俺だけと言うだけの話だ」

 

冬也はそう言いながら、ある襖を開けた。そこは、純和風の家の中では異様な洋風の部屋。しかも、明らかに女性が使っていた痕跡がある。

 

「この部屋を好きに使いなさい。何かあれば……」

 

冬也はそう言って、胸元から折り紙で作られた人形を取り出して

 

「オン」

 

と呟いた。するとその人形は、小さい人間の姿に変わった。

 

「うわ」

 

「こいつに言えば、大概は対処してくれる……トイレは、この部屋から出たら左側の奥の突き当たり……風呂は、同じく左側の奥突き当たりまで行ったら、右二番目のドアがそうだ……ではな」

 

冬也は一通り説明すると、襖を閉めていった。

 

「……とりあえず、荷物を開けようかな」

 

そう結論したシャルロットは、冬也が運んでくれた荷物を開けようとした。

すると、先程冬也が呼び出した存在。式紙が、シャルロットの手伝いを始めた。

 

「ふふ、ありがとう」

 

シャルロットがお礼を述べると、式紙はコクリと頷いた。どこか、冬也に似た面影のある式紙で、見た目から察するに7歳位の少女だろうか。

その式紙の手伝いもあったので、シャルロットは早めに荷物を広げることが出来た。

 

「それにしても……この部屋……」

 

シャルロットは改めて、自分に宛がわれた部屋を見回し始めた。明らかに、少女らしさを感じる内装の部屋だ。壁紙は薄いピンク色一色で、本棚には編み物や神話に関する本が並んでいる。

 

「……僕と同い年位……ん?」

 

そしてシャルロットは、ベッドから僅かに離れた位置にある机の上に、何か置いてあることに気づいた。

 

「えっと……ごめんなさい……」

 

シャルロットは一言謝罪してから、それ。写真立てを起こした。そこに納められていたのは、一枚の写真。仲が良さそうな、兄妹の写真だった。

 

「この男性……もしかして、議員さん……?」

 

今より軽く五歳程若い冬也と、一人の少女が写っている。そしてシャルロットは、写真の隅に名前が書かれてあることに気づいた。

 

「冬也兄さんと愛莉(あいり)……妹さん、かな……」

 

仲良さそうに写っている兄妹、しかしシャルロットは

 

「さっき議員さん……今は、自分だけだって言ってた……妹さんは、どうしたんだろ……」

 

とシャルロットが悩んでいると、トントンとノックの音がした。

 

『シャルロット嬢、お風呂の準備が出来たが……』

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

冬也の呼び掛けに、シャルロットは慌てながら答えた。そしてシャルロットは、冬也に言われた浴場に向かった。やはり純和風の家なだけあり、浴槽も総檜造りの豪華な物だった。

 

「わあ、温泉ってやつかな……初めて見た……」

 

IS学園では男の振りをしていたので、自室のシャワーしか使っていなかった。そして欧州では、あまりお風呂というのは一般的ではない。それは、水質に起因する。

欧州全体の水質は、日本と違って硬水が殆どだ。

硬水は風呂には向いておらず、硬水で体や髪を洗うと髪質や肌質に悪影響が出る。今では上水道が整備されたことで一部地域から軟水を引いているが、それでもあまり風呂は普及していないのが現状だ。

 

「凄い大きい……一人で入るのが、もったいない位……」

 

シャルロットはそう呟いたが、まず体を洗い始めた。備え付けられていた石鹸を使ってタオルを泡立てて体を洗い、次に頭を洗った。

 

「ふう……気持ちいい……」

 

水気を軽くタオルで取った後は湯船に浸かり、シャルロットは心地よさから軽く溜め息を吐きながら言葉を溢した。

 

(うん、日本人がお風呂が好きな理由分かるかも……)

 

その後シャルロットは、体が暖まるまでゆっくりと湯船に浸かった。そして、出てから小一時間後

 

『夕食が出来たぞ』

 

とのことだったので、式紙の案内の下で食卓に着いた。

そして夕食かのだが、ビーフシチューとキッシュだった。

 

「あの……この料理って……その……」

 

「俺が作ったんだが? 式紙も作れるが、どうにも味気ないからな」

 

シャルロットは冬也が作ったということに軽く驚いたが、納得したように頷いた。冬也の言葉から、どうやら冬也は凝り性らしい。

 

「えっと、いただきます……」

 

「ん、ゆっくりと食え……」

 

冬也の言葉を聞きながら、シャルロットはまずはキッシュから食べた。フランスでは家庭料理の一つに挙げられるキッシュだが、実は決まったレシピというのは無い。家庭毎に中身が違っているのだ。

そして冬也が作ったのは、ベーコンとホウレン草のキッシュだった。ベーコンとホウレン草を一緒に調理したのか、ベーコンの脂と塩気が程よくホウレン草に絡んで凄く美味しかった。

 

「わ、美味しい……」

 

「ん、良かった……流石に、フランス料理というのは初めてだったからな……些か目分量になったが……」

 

冬也のその言葉に、シャルロットは驚いた。

 

(初めて、フランス料理を作った……? もしかして、ボクの為に……?)

 

「……どうした?」

 

シャルロットがジッと見ていることに気づいた冬也が問い掛けると、シャルロットは慌てながら

 

「い、いえ! 大丈夫です!」

 

と答えてから、再び料理を食べ始めた。夕食を終えた後、歯磨きをしてから就寝することにしたシャルロットだったが

 

(色々、初めてだらけだったなぁ……)

 

初めて、母親以外から優しくされた。初めて、風呂に入った。初めて、他人の家に泊まった。

 

「初音島……かぁ……」

 

そうしてシャルロットは、眠りについた。

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