「私だ」
『隊長、御願いされました情報、先程端末に転送しました』
GW中のある夜、ラウラは自室のベランダにてドイツに居る副官。クラリッサ・ハルフォーフからの連絡を受けていた。ラウラはクラリッサに、一夏と義之の情報を探るように依頼を出し、つい先程送られてきたのだ。
「わかった」
『隊長……敢えて苦言を呈しますが、桜内という男との敵対は避けるべきです』
ラウラが通信を切ろうとした矢先、クラリッサは真剣な声音でそう告げた。
「なに?」
『彼は、あの芳野さくら博士の養子です』
「芳野さくら博士……つっ、芳野理論の提唱者かっ」
芳野理論。
それは、さくらが提唱した技術の総称で、さくらは今まで幾つかの画期的な技術を提唱してきた。
例えば、
既に、日本だけでなくドイツを中心とした幾つかの欧州国で採用されており、イスラムで起きた紛争による難民の受け入れ地として活用されている。
そして、その芳野理論の一つにカーボンナノチューブと呼ばれる技術があった。
簡単に言えば、超極細の炭素を用いた管だ。この技術は、今現在ドイツ軍で試験運用されているEOSと呼ばれる強化外骨格に活用されている技術だ。
この技術は、中に水を巡らし少量の電気を通すことで、水素と酸素を発生させ、そのふたつはEOSの推進材として使え、更にその際に発生する熱を電気に変換するという機能と収縮することから、人工筋肉としての役割を有している。
これを採用することで、EOSは少量の水で長時間の稼働が出来るようになった。
最大で1Lの水で、12時間の稼働となる。起動時に一度電気を通せば、後はモバイルバッテリー並のバッテリーで半日稼働出来るのだ。
「ちっ……厄介なバックボーンを……」
この時ラウラの脳裏では、最悪としてその技術が使えなくなり、EOSの制式採用が大幅に遅れるという予想が立てられた。
特にラウラの部隊、
ラウラもIS程ではないが、高い汎用性と高い踏破性を評価している。近い内に制式採用の予定だが、それはカーボンナノチューブを使っているからであり、それ以外となると大幅な設計変更が必要となってしまうのは明白だ。
『隊長……』
「大丈夫だ、最悪は力づくで従わせるだけだ」
クラリッサが心配そうな声を漏らすが、ラウラは何やら確信した声音でそう言いながら、通信を切った。
そして、月を見上げて
「待っていろ……もうすぐで、貴様らを屈服させてやる……」
とその目に、黒い炎を宿していた。