試合会場たるアリーナでは、一夏とヴィシュヌ、箒の三人は驚きで固まっていた。なにせ、目の前で異変が起きているからだ。一夏とヴィシュヌからしたら対戦相手。箒からしたらペアを組んでいたラウラのISが、まるで粘土のようになって変貌していってるからだ。
「うぅ……アアアァァァァアアァァ!?」
ラウラの口から漏れるのは、痛みを伴った絶叫。それを聞いたのが初めてだからか、箒と一夏は固まっている。しかしヴィシュヌは、あることに気づいていた。
(この魔力……それに魔法は……まさか、傀儡!?)
対人使用禁術、
ヴィシュヌはかつて、人形師がその魔法を使ったのを見たことがあったから分かった。
(魔法使いの一人として、見逃すことは出来ません!)
とヴィシュヌが、変貌を終えたラウラを見た時
「てめぇはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と一夏が、怒りの声を挙げながら突撃した。
「織斑君!?」
「一夏!?」
二人が呼ぶが、一夏は黒き雨だった機体に斬りかかった。しかしその機体は、一夏の攻撃を容易く受け流すと、刃を切り返して横凪ぎで攻撃した。一夏は辛うじて回避したものの、蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばされた一夏は、二人の近くに着地し、ラウラ機を睨み
「あれを、俺が見間違えるか……あれは、千冬姉のコピーだ!!」
と怒気を露にした。
「なるほど、見覚えがある筈だ……あれは、暮桜か!」
一夏の話を聞いて、箒も納得したようにラウラ機を見た。そのラウラ機は、剣を構えた。狙いは、一夏。どうやら、一夏のISを高脅威度設定したらしい。
「くっ!」
それに気付いた一夏も、雪片弐型を構えた。その直後、偽・暮桜に光弾の雨が降り注いだ。
「まさか!?」
「よっ、無事か?」
一夏が驚いていると、その近くに義之が着地。それに僅かに遅れて、シャルロットも着地した。
「そういえば、一向に先生方が来ないが……」
「そっちは知らん」
箒の疑問に義之は短く答えながら、シャルロットと一緒に偽・暮桜に激しい弾幕を形成。近付かせないようにした。その間に
(なあ、さっき嫌な魔力を感じたんだが?)
(はい、対人使用禁術。傀儡です。私が確認しました)
(なぁる……さて、どうするかな)
とヴィシュヌと念話で話していた。
(ISの攻撃用残エネルギーは?)
(残り、300といったところです。恐らく、彼に至っては更に少ないかと)
(だったら、何故一夏を高脅威度設定したのか……まさか)
この時、義之はあることに気付いた。今居るメンバーで、脅威に成りうるだろう武装を所持しているのが、一夏だけだと。
「一夏、零落白夜は使えるか?」
「……使えたとしても、本当に一撃だ」
零落白夜は、かなり尖った性質を有している。攻撃用エネルギーだけでなく、シールドエネルギーも消費し、相手のシールドエネルギーに大打撃を与えるのだ。
つまり、シールドエネルギーも残り僅かなのだろう。
「一夏、俺達三人があいつに隙を作る……一撃で決めろ」
「……分かった」
義之の提案に乗り、一夏は僅かに下がり、入れ替わる形でシャルロットとヴィシュヌの二人が前に出ながら射撃を続行。そして義之は、右手でザスタヴァ・スティグマトを撃ちながら、左手に新たな武装を展開した。
200mm無反動砲、ハイパーバズーカ。
それを偽・暮桜に撃った。偽・暮桜は、それを切り払おうと剣を構えた。その直後、砲弾がまるで花弁のように開いて、中から大量の子弾を解き放った。
恐らくは、かつて千冬がやった戦法なのかもしれないが、悪手となった。一発一発は大した威力の無い子弾かもしれないが、総数200発の子弾をその身に受けて、偽・暮桜の動きが鈍り、更に爆煙で視界が一気に悪くなった。そんな爆煙の中で、光る刃を見た偽・暮桜は、振り下ろされた一撃を剣で受け止めた。しかし、目の前に居たのは白ではなく、橙色のISを身に纏ったシャルロット。
「プラズマソード……だよ」
シャルロットがそう言った直後、反対側から新たに近づく反応。それに対して偽・暮桜は、肩の盾を向けた。そこに響く強い衝撃。それは、ヴィシュヌの強烈無比な蹴りだった。
「策は、常に多重に」
ヴィシュヌがそう言った直後、シャルロットとヴィシュヌは素早く離れた。その直後、偽・暮桜の直上で新たな砲弾が炸裂。偽・暮桜に網が覆い被さった。
その直後
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
烈迫の声を挙げながら、一夏が接近。網で身動きが出来なくなっていた偽・暮桜を、一刀両断した。すると、偽・暮桜は力なく膝を突き、切り裂かれた胴体からラウラが解放された。ラウラを受け止めた一夏は、スヤスヤと寝ているラウラを見て
「やれやれ……一発殴ろうかと思ってたが……止めてやるか」
と言ってから、額を軽く小突いた。