「さぁて……どうすっかなぁ……」
そう呟いたのは、レストランから出て、吹き抜けで下を見た義之だった。今見た限り、相手は最低でも10人以上は確実に居た。
過激派女性権利団体、剣の女神。
国際的テロ組織で、男に人権なんて不要。男は皆奴隷。という認識らしく、更には男に優しい女も同罪という過激にも程がある思考だった。
近年、国連でも議題に挙がっていて、制圧作戦も検討されているらしい。
それはさておき、階下からは激しく銃声が聞こえてくる。
杉並から送られてきた情報が正しいと、小銃とマシンガン、ハンドガンが主武装らしい。
(本当、どんな情報網してるんだかな……)
義之はそう思いながら、ゆっくりと麻耶達の方に戻り
「あの様子だと、全入り口は銃撃のまっただ中だな……」
と呟いた。レストランから出て、居るのは衣服エリアだ。そこなら、衣服で体を隠せるからだ。
「……こんな時、専用機が有ればって思うよ……」
悔しそうに語ったのは、シャルロットだ。日本に帰化した際に、以前持っていた専用機はフランスに返却しており、今は未所持だ。
義之は専用機の桜花たる美夏が居るので、ISを展開することが出きる。しかし、こういった事態に慣れていない麻耶から離れる訳にはいかず、展開していない。
「……桜内、一人誰か近づいてくるぞ」
「マジか……」
美夏の報告を聞いて、義之は身構えた。そこに
「……なぜ、こんな所に居る」
と知っている声。よく見れば、冬也が居た。右手には、拳銃が握られている。
「それは、こっちのセリフなんですけど……しかも、その拳銃は……」
麻耶が問い掛けると、冬也は姿勢を低くして
「IS学園に向かう途中で腹が減ってな、この先の定食屋に寄っていて、今回の事件に巻き込まれたんだ。この拳銃は、奴等の一人から奪った。一応これでも、現役自衛官でな……」
「自衛官だったんですか?」
「一応な。中央即応連隊に所属している……しかし、ちょっと不味いな」
冬也はそう言って、隠れていた棚の端から僅かに手鏡を出した。義之も見てみれば、その先には数人の武装した人員が居る。その手に握られているのは、拳銃よりも強力な銃火器。こちらの手持ちは、拳銃一挺のみ。
「……仕方ない。シャルロット」
「は、はい」
「ここで、専用機を渡す」
「……え?」
シャルロットが首を傾げると、冬也は近くに置いてあったトランクを手繰り寄せ、開いた。中に有ったのは、百合の花を象った待機形態のIS。
「これって……」
「天枷研究所作、第三世代IS……白百合」
冬也はそう言って、更にトランクを広げた。それは、トランクと一体化したパソコンだった。
「沢井」
「は、はい」
「IS学園で、データ整備のやり方は学んだか?」
「一応ですが……」
麻耶が答えると、冬也は拳銃の弾倉を外して残弾を確認。再装填し、薬室を確認すると
「俺が時間を稼ぐ……桜内、天枷、沢井をフォローしろ」
「まさか、突撃する気ですか!?」
「それしか、今は手が無い……それに、国民を守るのが自衛官の仕事だ……疎まれることが多いが、俺はこの仕事に誇りを持っている……上手くやれ。全ての責任は、俺が取る」
冬也はそこまで言うと、姿勢を低くしながら一気に駆け出して、片手で発砲した。
「ぐっ!?」
「居たぞ! 殺せ!!」
「男は殺せぇ!!」
女達の怒号の直後、激しく銃声が鳴り響く。義之は、即座に白百合を掴み
「麻耶、即行で終わらせるぞ!」
「ええ!」
「美夏にも、回線を繋げ! 手伝う!」
と三人で、調整を始めた。シャルロットは、パソコンと回線が繋がっている機器に手を乗せた。それは、簡易型の生態情報読み取り機だ。それを使い、ISと初期調整を済ませるのだ。
その間にも、激しくなる銃声。音の感じからして、相手の仲間が到着したようだ。
急いで、だが焦らずに。三人は、シャルロットの情報を白百合に入力していく。
「A12までクリア」
「……C35まで終了」
「……Dは完了したぞ」
三人は次々と、入力を終えていく。その光景に、シャルロットは
(桜内君、頭が良いってのは知ってたけど……まさか、整備課の先輩達と同等だなんて……)
と驚いていた。シャルロットは知らないが、一応行った入学試験の点数。義之は、過去トップレベルの点数を叩き出していたのだ。
5科目、498点という点数。9科目、898点。そこに、IS理論合わせて、998点。
間違えたのは、一個だけ。苦手な世界史で、百年戦争の期間を間違えただけだった。
特に驚いたのは、科学。担当教師ですら把握していなかった方式で答えてきて、担当教師が逆に調べた程だった。
そして、義之と麻耶が同時にキーボードを叩いて
「連結完了」
「行けるわよ、シャルロットさん」
それを聞いたシャルロットは、待機形態の白百合を掴んだ。そして、握り締めて
「行こう、白百合」
自身の新たな愛機たる、白百合を展開した。
白百合は、その名前の通りに白い装甲を基調に、所々にオレンジ色の配色が特徴的で、腰周りの装甲形状が、まるで百合のようだった。背部には花弁を彷彿させる非固定ユニットが四つもあり、機動力もかなり高そうだ。
「行ってきます」
「ええ、頑張ってね」
「グッドラック」
「美夏達も、後で合流する」
三人の言葉を聞いたシャルロットは、白百合を発進させた。