少し時は進み、昼。IS学園の生徒達は昼食を食べていた。大広間を二つ程使い、半分ずつに別けた。
「ほぉ……流石は老舗旅館……中々良い素材を使ってる……それに、料理人の腕も凄いな……」
「確かに……この刺身なんて、脂が凄いのにくどくない」
「そうなの?」
義之と一夏の話を聞いて、シャルロットが首を傾げた。
「ああ。この刺身だと、ネタがベタついてなくて、薄さも理想的だし、イクラは一粒ずつがプチプチしてる……素材が良くても、料理人の腕が悪いと意味がない」
「へぇ……」
欧州では生魚を食べる習慣はさして珍しくないが、やはり食習慣の違いからか、珍しそうである。
「あ、わさびは気を付けろ。慣れないと、結構来るからな」
「わさびって……これ?」
シャルロットはわさびに視線を向けた。それに気付いた義之は、頷き
「そうそう。それを、こうやって……」
わさびを少量刺身に着け、醤油に着けてから食べた。
「あっー……うん、旨い」
「へぇ……」
シャルロットは義之に倣い、同じようにわさびを小量刺身に着けてから、食べた。
「うっ……あ、でも美味しい……確かにピリッと来るけど、その後の風味が……」
「だろ?」
シャルロットは僅かに涙を浮かべたが、すぐに引っ込んだ。その横では、美夏が
「うむ! 和食はこうでなくてはな!」
と満面の笑みを浮かべながら、健啖振りを披露している。それを麻耶が
「ほら、天枷さん。もう少し落ち着いて食べて」
と苦笑していた。その光景は、食欲旺盛な妹を諭す姉のそれだった。昼食が終わると、またもや自由時間になる。流石に海水浴後で疲れているからか、外に出る生徒の数は大分減っている。それは義之達もで、宛がわれた部屋でのんびりしていた。
麻耶は持ってきていた本を読み、義之は天枷研究所のサーバーと繋がってる端末を何やら操作している。
そして美夏は、カバンからバナナを取り出して食べている。実は美夏は、一日一回のゼンマイと定期的にバナナを食べる必要が有るのだ。
「……む?」
「どうした?」
そんな時、美夏が不意に視線をある方向に向けた。それに気付き、義之が問い掛けると
「いや……何やら、変な音が……」
「どんな音だ?」
「なんと言うか……甲高い金属音だったな……」
「えっと……ジェット音ってこと?」
「それだ」
麻耶の言葉に、美夏は指を鳴らした。それを聞いた義之は
「こんな所で、こんな時間にジェット音……?」
今居る場所は、主要な空路からは外れており、更には近くに自衛隊の基地もない。それなのに、ジェット音が聞こえたということは、何かしらのトラブルが起きたということになる。
「……ちょいと、歩いてくるわ」
「ええ、分かったわ」
「散財するなよー」
「するか」
美夏の気の抜けるような言葉を背で聞きながら、義之は部屋から出て美夏が顔を向けた方に歩き始めた。その先にあるのは、温泉のある別棟である。
しかし義之は、その別棟に行くための渡り廊下で予想外の代物を見つけた。
「……ニンジン?」
見事な日本庭園の庭のど真ん中に、デフォルメされた人間が一人入れるサイズのニンジンが突き刺さっていた。その少し廊下側に、一夏が尻餅を突いていた。
「なんだ、なにがあった?」
「あー……束さんが、あのニンジンに乗ってやってきたんだ……どうやら、箒に用事があったみたいだが……」
義之が助け起こすと、一夏は砂ぼこりを叩きながらそう説明した。それを聞いた義之は、空に消えていくニンジンを見送ってから
「……あ、アイシア? そこに、束さん居る?」
と携帯で実家に電話していた。そして、通話が終わると携帯を仕舞い
「……嵐の前兆かぁ……」
と頭を抱えたのだった。