福音が撃破されてから、数十分後。
作戦に参加した一同が、旅館裏手の砂浜に着地した。その一同を出迎えたのは、腕組みした千冬と心配そうな表情の山田先生と麻耶だった。
「お前達、よく戻った……無断出撃だったのは、頂けんがな……」
千冬の言葉には、怒りが感じられる。
まあ、仕方ないだろう。先に専用機持ち達が独断出撃したと思ったら、重傷で動けない筈の一夏と義之も出撃し、福音と交戦したのだから。
「お久しぶりです、織斑さん。私を覚えていますか?」
そう言って千冬の前に出たのは、ケストレル中隊隊長の駒木綾一尉だった。そんな綾を、千冬はジッと見つめてから
「……お前か、駒木……少し印象が変わったから、気付かなかったぞ」
と言った。実は綾と千冬は、最初のIS最強決定戦。モンド・グロッソ出場予定の片割れだったのだ。
千冬は格闘特化だったが、それに対して綾は、バランスの良さが売りだった。機動、格闘、射撃、その何れもが高いバランスで纏まっていた。
実は一度は綾に決まりかけたが、最後の最後に綾が
『あ、私、あんまり注目とかされたくないんで、パス』
と千冬に押し付けたのだ。はっきり言えば、千冬としても目立ちたくなかったのだが、その時は千冬か綾しか出場候補が居なかったために、千冬に決まったのだ。
その後綾は、その腕を腐らせるのは惜しいと判断されて、自衛隊に新しく設置されたIS技術を含めた最先端技術を研究する部署。特殊技術研究厰の中隊隊長として招かれ、それを受諾したのだ。
以後はその面倒見の良さと腕前で、その地位を確立したのだ。
なおこれは余談だが、千冬が電撃引退した後、一部の女性権威主義者により一度はモンド・グロッソに出されそうになったが、それはその相手を《検閲により削除されました》することで、事なきを得た。
「いやぁ、久しぶり。えっと……6年振り位?」
「そうなるか……最後に会ったのは、第二回モンド・グロッソになるか」
「その位かな? いやぁ、あの時より少し体がガッシリしたからね。印象が変わるのも、仕方ないかな?」
やはり知り合いだからか、千冬とも何処か気心が知れた様子である。
「っと、再会の会話はここまでにして……三尉」
「はっ!」
綾に呼ばれ、そのナンバーから副官らしい女性がナターシャを横抱きにしながら、前に出てきた。
「確か……アメリカの代表だったか……」
「はい、間違いありません。福音のパイロットだったようです……今は意識を失っていますが、体調面に関しましては、問題ありません。むしろ、そちらの生徒さん達の方が怪我としては重いくらいです。ですので、教師としての説教は後程にして、今は治療に専念すべきかと判断します」
綾の言葉を聞いた千冬は、暫くの間専用機持ち達を睨み付けて
「仕方あるまい……確かに、何人かは怪我しているようだ……説教は後回しにしてやる」
そう言うと、深々とタメ息を吐いた。
それを聞いた綾は、山田先生が運んできたらしいストレッチャーにナターシャを寝かせると、副官と共に部隊の横に並び
「この度は、極一部の者達とはいえども、防衛省の者がご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!」
そう言って、深々と頭を下げた。その後に続き、隊員達も深々と頭を下げた。そして、少しすると頭を上げて
「後程、議員の方が正式に謝罪に向かうと思われます……ですが、上層部のミスは我々のミスでもあります……批判や罵倒もあるかと思います……許してほしいとは言いませんが、誠に申し訳ありませんでした」
そう言うと、再び頭を下げた。その行動から、真摯に謝ってきているのが分かる。自衛隊隊員として、本来守るべき学生に戦わせたことを相当に恥じているようだ。
突然の謝罪に、殆どが困惑していると千冬が
「それで、命令を出してきたバカはどうした?」
と綾に問い掛けた。
「は、聞いた話に依りますと、議員としての全ての権限を剥奪され、勾留されているそうです。今は恐らくですが、アメリカとイスラエルの相手を探っているかと思われます」
綾がそう説明すると、千冬は鼻を鳴らし
「もし、そいつに伝わるならばこう言っておけ……私を敵にしたことを、後悔しておけ……とな」
「は、承りました」
千冬の言葉を聞いた綾は、敬礼した。
そして綾は、今度は一夏と義之に近づき
「お二人共……今回は、本当にごめんなさい。重傷を負ったって聞いたけれど……」
と二人を見た。確かに、二人は重傷を負って気絶していた。が今は、普通に動いている。
「確かに……俺は激しい爆発に巻き込まれたのを覚えてる……」
「俺は、クローで思い切り斬られた筈なんだがな……気付いたら、治ってたんだよな」
二人はそう話すと、顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。確かに、不思議としか言い様が無いだろう。
そうして、二人して何となく夢を見たのを覚えているのだが、内容は覚えていない。
夢に関して、義之は
(俺が夢の内容を忘れるなんてなぁ……そうそう無いんだが……)
と不思議に思っていた。義之は夢を見せられる魔法の影響なのか、自分が見た夢は中々忘れないのだ。
それを覚えていないというのは、何らかの外的要因が働いたと考えている。
「とりあえず、無事で何よりです」
「はい、ありがとうございます」
「貴女達も、救援感謝します」
二人は綾と握手すると、隊員達の方に向き
「では、我々は基地に帰投する!」
『はっ!』
指示すると、隊員達と一緒に飛燕を展開し、飛び立った。
それを見送った一同は、花月荘に入っていった。
こうして、福音事件は幕を下ろした。