義之と麻耶による研究所の案内が始まって少し、セシリアが
「これ程の研究所……イギリスでも中々無いですわね……」
「……特に、ロボット分野に関してはやはりここが最先端」
数台の自販機が置かれた休憩所で、セシリアと簪は飲み物を手に持ち、素直に感嘆していた。
そう語っていた二人のすぐ近くを、一台の台車を押したμが通ったのだが
「こんにちは」
と挨拶してから、通り過ぎた。セシリアと簪は、そのμの余りにも自然な挨拶に驚いた表情で
「今の方……μですよね?」
「機械的じゃ、なかった……」
と呟いた。すると、麻耶が
「今の子は、二番目に作られた水色のプロトタイプの子なの。それに伴って、感情エミュレーションにリミッターが掛けられてないの」
と説明した。つまり、稼働年数が長いだけでなく感情の設定は模した人と同じということになる。
AI研究も、かなりのものだと分かる。
そもそも、美夏のようなAIがあるというのが信じられないのだが。
「……凄い技術……」
簪は期待に目を輝かせながら、小さく呟いた。やはり科学者気質な面が強いために、興味があるようだ。
「まあ、AIに関しては天枷さんのを真似しただけなのよ……」
「つまりは、50年前には既に出来ていた……?」
「……時代の先取りにも、程がある」
麻耶の言葉に、セシリアと簪は衝撃を受けた。世界中でも、50年前にAIをまるで人間と思えるレベルで作ったというのは、間違いなく天枷研究所だけだろう。
「ただ、そのAIを研究していた人は、反ロボット派の奴に殺されてしまったらしくな……一時期は、AI研究は大幅に停滞。または、後退しちまったらしい……」
「なんと浅はかな……」
「……短絡的過ぎる」
義之の話を聞いて、セシリアと簪は嘆いた。それほどのAIを開発した人物が殺されたというのは、人類全体で見ても大きなマイナスだろう。もし存命のまま研究出来ていたら、どれだけのAIが完成していたか想像すら出来なかった。
もしかしたら、途中から停滞してしまい、今やISに資金を奪われた宇宙開発の大きな助けになっていたかもしれない。
そう考えたら、短絡的にロボットを否定し、研究者を殺害した犯人に怒りすら覚えた。
そこまで考えたセシリアと簪は、ISが開発された表向きの理由を思い出した。
それは、宇宙開発。束博士は宇宙開発のためにISを開発したのだが、そのISは今や女性権威主義者達の道具となっている。
それは、姿を消したくなるのも道理だと思った。
そこに、トトトッという小さい足音が聞こえて
「あ、義之くん。麻耶ちゃん! 久し振り!」
と金髪碧眼の少女、に見える大人。芳野さくらが現れた。
「さくらさん」
「お久しぶりです」
義之と麻耶は慣れた様子で挨拶するが、セシリアと簪は緊張した表情でさくらを見た。知らない人が見たら、子供にしか見えないさくらだが、世界的な科学者であり、更には日本が誇る教育者でもある。
さくらが教育した人物は、今や各分野で大成し代表する人材になっている。
政治、医療、財界、産業。その何れでも、トップを走っている。
なお義之と麻耶は、さくらとはIS学園に入る際以来に直接会った。
「あ、セシリアちゃんに簪ちゃんだね。見学はどうかな?」
「素晴らしい研究所ですわ」
「……誰もが、イキイキと研究してる……」
セシリアと簪が感想を言うと、さくらは満面の笑みを浮かべて
「良かった! 皆が楽しそうなら、ボクは大満足だよ! ここに来た子達は、居場所が無くなった子ばっかりだからね。出来る限り、希望は叶えてあげたいんだ!」
と語った。研究者達も大人ばかりだが、さくらからしたら子供に等しい。そんな子供達の希望を叶える為に、さくらは全力を尽くした。
すると、さくらは義之を見て
「そうだ、義之くん。アイシアが探してたよ? 聞きたいことがあるんだって」
「アイシアが? 分かりました」
さくらの言葉を聞いて、義之は一言断ってからそこを離れた。そして、次に麻耶を見て
「麻耶ちゃん、舞佳ちゃんが新しいエネルギーユニットについて聞きたいって言ってたよ」
「水越先生がですか? 分かりました……あ、でも、見学の案内……」
「それは、ボクが引き受けるよ。ボクの研究、一段落したからね」
麻耶が躊躇っていると、さくらがニコニコしながらそう提案してきた。それを聞いて、麻耶は少し黙考してから
「では、すいません。学園長、お願いします」
と言って、離れた。麻耶を見送ったさくらは、セシリアと簪を見て
「ちょっと、ボクの部屋に来てもらえるかな? 大事な話があるんだ」
と切り出した。