さくらと会談が終わり、少しして
「ヤッホー、舞佳ちゃん! 居るー?」
セシリアと簪を連れて、さくらは水越舞佳の研究室に来ていた。すると、コーヒーを飲んでいたらしい水越女史が振り向いて
「あら、芳野博士……なにか、用ですか?」
「いや、この子のISにAIコアを搭載出来ないかなって相談かな?」
「……はい?」
さくらの言葉に要領が得られなかった水越女史は、思わず首を傾げた。そして、簪が説明すると
「貴女ねぇ……無茶苦茶するわね……医師の観点から見ても、あまりオススメしたくないわ……んー……ちょっと待ってね……イベール、三人分のお茶をお願い」
「分かりました」
イベールと呼ばれたμは、水越女史の研究室から退室し、そして水越女史はパソコンのキーボードを叩き始めた。そして、イベールが戻ってきたタイミングで
「よし、倉持側との調整は終わったわ……後は……」
と言って、簪を見た。その意図を察してか、簪は自分のISの待機形態のアクセサリーを握った。その直後、打鉄弐式を展開。そして、部屋の隅にあった整備用のハンガーに固定すると、降りた。それを確認した水越女史は、ハンガーの検査機能を使い始めた。
「ふむふむ……あー……なるほどねぇ……この予備PCの演算能力が全然足りてないんだ……それじゃあ……イベール、悪いんだけど倉庫からA87型のAIコア持ってきてくれる?」
「分かりました」
水越女史の指示を受けて、イベールは退室。そして、水越女史の言葉を聞いた簪が
「……演算能力が、足りてない?」
と言って、水越女史が見ていたパソコンを見た。すると、水越女史は画面の一ヶ所を指差して
「そそ、ここ見て? この予備PC、明らかに演算能力が追い付いてない。多分だけど、試験的に組み込まれたまま、忘れちゃったんじゃないかしら? 聞いた話だと、急に人員を減らされたみたいだし、引き継ぎが出来なかったんじゃないの?」
と予想混じりを口にした。それを聞きながら、簪はその数値を見て
「……確かに、明らかに追い付いてない……気付かなかった」
と呟いて、頭を掻いた。強引にだが機体を引き取り、暫くの間組み立てしていたのに、気付かなかったことに苦い思いらしい。
「仕方ないわよ。普通、こんな数値は中々確認しないからね……っと、来たわね」
水越女史は簪の頭を撫でると、イベールが戻ってきたことに気付いた。イベールのその手には、ハンドボールサイズの段ボールがあった。
イベールがそれを机に置くと、さくらが立ち上がり
「A87型ってことは、自衛隊向け用の高機能型だね」
「まあ、その方が確実かと思いまして」
二人で会話しながら、段ボールを開けた。
「自衛隊向け……?」
「……最近、自衛隊でも管制官や調理師、整備士とかにμを宛がうって聞いたから、それかも」
セシリアが首を傾げると、簪が小声で教えた。
ISが自衛隊に回されたとほぼ同時期に、女性権威主義者により一般隊員達に対する給与の削減や、一部の過激派の女性隊員により、相次いで隊員が除籍する事態になっている。それに伴い、一部では人員が足りないという悲鳴が挙がっていた。
しかし、有能な人材を入れても、不当な扱いに耐えきれずに除籍してしまうことと、人材の育成には時間が掛かることから、一時的な救済策として、専用にチューニングされたμが配備されることが、冬也と雪の努力で可決された。
それ向けに、高機能のAIコアが開発され、今回使用するのはその一つだ。
「さてさて、久しぶりの大仕事になりそうかなぁ……ま、その分の給料は期待しますよ、芳野博士」
「お任せあれだよ♪ 給与だけじゃなく、ボーナスも期待しててね」
軽い調子で会話しながら、二人は取り出したAIコアを部品台に置いた。そして、何故かハンガーから離れると
「よっと」
水越女史は、天井から釣り下がっていたケーブルに繋がっていた指輪を両手の全ての指に嵌めた。そこから
「オペレーション、開始」
そう呟いたかと思えば、水越女史は腕や指を動かし始めた。それと同時に、ハンガーが分割してロボットアームになり、打鉄弐式を分解し始めた。
「これは……」
「……ワンマンオペレーション型の、組み立て機……まさか、こんな機材があって、しかも使える人が居るなんて……」
ワンマンオペレーション型組み立て機。実はこれも、束が開発した発明品の一つである。
日本が国として束に与えた研究所。そこで束は、ISコアの開発の他に、様々な物を開発していた。
その内の一つが、ワンマンオペレーション型組み立て機である。
これは、オペレーターとなる人物の両腕と指の動きで、様々な物を一人で組み立てる事が出来るようになるという物だ。
しかしその分、オペレーターには酷く高度な負担が掛かるために、あまり広くは使われていない。
だがその分、使いこなせれば、一人で車の組み立てなんかも出来るようになる。
「天枷研究所でも、ボクと舞佳ちゃん位かな? 使えるのは」
いつの間にか戻っていたさくらは、出されていたお茶とさくら餅を食べていた。そしてさくらは
「あ、二人も食べていいからね? お店から直接買ってるものだから、味は保証するよ」
と言って、和菓子が乗せられてるお皿を指差した。どっちにしろ、終わるまで待つしかない二人は、お茶と和菓子を食べ始めたのだった。