インフィニット・ストラトス・桜花舞う   作:京勇樹

59 / 110
見学

舞佳が打鉄弐式の改修を始めて、十数分後。

 

「ふぅ……終わったぁ……イベール、コーヒー持ってきてぇ」

 

と舞佳が疲労しながら、椅子に深く腰掛けた。それを見届けて、簪が

 

「……ありがとうございました、水越博士……改修してくださり」

 

「いいのいいの。医師の観点からしても、放っておけることじゃなかったからね……一応これで、山嵐はAIで機動するようになったわ……これ、倉持さん側に渡しておいてね。AIの詳細な仕様が書かれてあるから」

 

簪が頭を下げると、水越女史は手をヒラヒラとさせてから簪にUSBを差し出した。恐らくは、整備の際に役立てるようにする為にだろう。

 

「……分かりました、手渡しておきます」

 

簪は手渡されたUSBを大事に、置いていた鞄にしまった。すると、イベールが持ってきたコーヒーを飲んだ水越女史が

 

「芳野博士、ちょっと気になることがありまして」

 

「ん? なにかな?」

 

とさくらを手招きし、さくらは歩み寄った。その間に、簪は自身の愛機を待機形態に戻して所持し、セシリアは優雅に紅茶を飲んでいる。それを確認した水越女史は小声で

 

「これなんですが……どう見ます?」

 

とさくらに、一つの部品を見せた。それを見たさくらは、鋭い目付きで

 

「……見た目は、エネルギー回路だけど……データ送信機……だね……」

 

「ですよね……既に機能は壊してあります……それに、このマーク……」

 

水越女史がそう言って指差したのは、エネルギー回路の隅にある小さな刻印。そこに見えるのは、EMIという文字とドクロが合わさったような刻印。

 

「……亡国機業……」

 

「……もしかしてですが、倉持に……?」

 

「その可能性は高い……となると、倉持製のIS……特に試験機はそれがある可能性が高いね……」

 

さくらはそこまで言って、腕組みした。日本でも有数のIS開発企業の倉持技術研究所。通称で、倉持技研。簪や一夏のISの開発企業で、自衛隊やIS学園に今配備されている打鉄の開発をした企業。そこに、国際的テロ組織の亡国機業のスパイが居る。

 

「……僕からなんとか、神代君や五条院家に話を付けてみる……一応、ウチの研究所にも居る可能性が有るから……」

 

「そっちは、私が引き受けます。実家にちょっと頼んでみます」

 

「ん、お願い」

 

さくらは水越女史からその部品を受け取り、ポケットに仕舞った。後で、冬也に渡そうと考えている。

 

(子供を守り導くのが、大人の役割だもんね)

 

そう考えてから、簪とセシリアに視線を向けて

 

「それじゃあ、見学を再開しようか!」

 

と朗らかに提案した。その後、水越女史の研究室から出て見学に戻った一同。そして、ある部屋の前を通った時

 

「……芳野博士……あれ、μ……ですか?」

 

と一部骨格が剥き出しのロボットを指差した。その問い掛けに、さくらは

 

「あれは、まだμを基にしてるけど……試験機のロボット……型式はHMーA09型……名前はまだ決まってないけどね」

 

と説明した。しかし、天枷研究所の試験機は大体が四季に関する名前が与えられている。恐らく、季節に関する名前が与えられるだろう。

 

「μのコンセプトは、各パーツの組み合わせとソフトの変更での万能性だけど……確かこの試験機は、あらゆる状況への汎用性が主題だったね……主には、医療と介護向けらしいけど……」

 

医療と介護、そのどちらも万年人手不足が嘆かれている分野だ。何故かと言われたら、やはり重労働なのと命のやり取りが理由に挙げられるだろう。中にはその重責が心身に負担を掛けて、体を壊す人も少なからず出る程だ。

 

「今はあれを含めて、確か十数体が水越病院とその系列の介護施設で試験中の筈だね……後で、報告書読まないと」

 

「既に、実地試験中なのですか……」

 

「……本当に、凄い……」

 

さくらの話を聞いて、セシリアと簪は感心していた。μという人気ロボットで満足せず、既に新しいロボットを開発し、試験運用している天枷研究所の技師達を内心で賞賛していた。

決して現状で満足せず、絶えず先を見て歩み続ける。

一部の人間、特に女性権威主義者が忘れ掛けていることだろう。女性権威主義者は現状に満足し、先を見ていない。

 

「だから、セシリアちゃんからの投資の話は凄いありがたかったの。本当にありがとうね」

 

「お役に立てたなら、幸いですわ」

 

見学している間に、その試験機は少しずつ部品が取り付けられていく。簪は、それが興味深かった。

 

(何時か、ここで研究とかしてみたい)

 

簪がそう思っていると、電源が入れられたのか、その試験機と研究員が何やら会話を始めた。恐らくは、チェックも兼ねてるのだろう。それを見ていると、試験機が簪に気付いたようで微笑んできた。

簪は思わず頭を下げて、移動を始めたさくら達の後を追い掛けた。まだ、見学は続く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。