舞佳が打鉄弐式の改修を始めて、十数分後。
「ふぅ……終わったぁ……イベール、コーヒー持ってきてぇ」
と舞佳が疲労しながら、椅子に深く腰掛けた。それを見届けて、簪が
「……ありがとうございました、水越博士……改修してくださり」
「いいのいいの。医師の観点からしても、放っておけることじゃなかったからね……一応これで、山嵐はAIで機動するようになったわ……これ、倉持さん側に渡しておいてね。AIの詳細な仕様が書かれてあるから」
簪が頭を下げると、水越女史は手をヒラヒラとさせてから簪にUSBを差し出した。恐らくは、整備の際に役立てるようにする為にだろう。
「……分かりました、手渡しておきます」
簪は手渡されたUSBを大事に、置いていた鞄にしまった。すると、イベールが持ってきたコーヒーを飲んだ水越女史が
「芳野博士、ちょっと気になることがありまして」
「ん? なにかな?」
とさくらを手招きし、さくらは歩み寄った。その間に、簪は自身の愛機を待機形態に戻して所持し、セシリアは優雅に紅茶を飲んでいる。それを確認した水越女史は小声で
「これなんですが……どう見ます?」
とさくらに、一つの部品を見せた。それを見たさくらは、鋭い目付きで
「……見た目は、エネルギー回路だけど……データ送信機……だね……」
「ですよね……既に機能は壊してあります……それに、このマーク……」
水越女史がそう言って指差したのは、エネルギー回路の隅にある小さな刻印。そこに見えるのは、EMIという文字とドクロが合わさったような刻印。
「……亡国機業……」
「……もしかしてですが、倉持に……?」
「その可能性は高い……となると、倉持製のIS……特に試験機はそれがある可能性が高いね……」
さくらはそこまで言って、腕組みした。日本でも有数のIS開発企業の倉持技術研究所。通称で、倉持技研。簪や一夏のISの開発企業で、自衛隊やIS学園に今配備されている打鉄の開発をした企業。そこに、国際的テロ組織の亡国機業のスパイが居る。
「……僕からなんとか、神代君や五条院家に話を付けてみる……一応、ウチの研究所にも居る可能性が有るから……」
「そっちは、私が引き受けます。実家にちょっと頼んでみます」
「ん、お願い」
さくらは水越女史からその部品を受け取り、ポケットに仕舞った。後で、冬也に渡そうと考えている。
(子供を守り導くのが、大人の役割だもんね)
そう考えてから、簪とセシリアに視線を向けて
「それじゃあ、見学を再開しようか!」
と朗らかに提案した。その後、水越女史の研究室から出て見学に戻った一同。そして、ある部屋の前を通った時
「……芳野博士……あれ、μ……ですか?」
と一部骨格が剥き出しのロボットを指差した。その問い掛けに、さくらは
「あれは、まだμを基にしてるけど……試験機のロボット……型式はHMーA09型……名前はまだ決まってないけどね」
と説明した。しかし、天枷研究所の試験機は大体が四季に関する名前が与えられている。恐らく、季節に関する名前が与えられるだろう。
「μのコンセプトは、各パーツの組み合わせとソフトの変更での万能性だけど……確かこの試験機は、あらゆる状況への汎用性が主題だったね……主には、医療と介護向けらしいけど……」
医療と介護、そのどちらも万年人手不足が嘆かれている分野だ。何故かと言われたら、やはり重労働なのと命のやり取りが理由に挙げられるだろう。中にはその重責が心身に負担を掛けて、体を壊す人も少なからず出る程だ。
「今はあれを含めて、確か十数体が水越病院とその系列の介護施設で試験中の筈だね……後で、報告書読まないと」
「既に、実地試験中なのですか……」
「……本当に、凄い……」
さくらの話を聞いて、セシリアと簪は感心していた。μという人気ロボットで満足せず、既に新しいロボットを開発し、試験運用している天枷研究所の技師達を内心で賞賛していた。
決して現状で満足せず、絶えず先を見て歩み続ける。
一部の人間、特に女性権威主義者が忘れ掛けていることだろう。女性権威主義者は現状に満足し、先を見ていない。
「だから、セシリアちゃんからの投資の話は凄いありがたかったの。本当にありがとうね」
「お役に立てたなら、幸いですわ」
見学している間に、その試験機は少しずつ部品が取り付けられていく。簪は、それが興味深かった。
(何時か、ここで研究とかしてみたい)
簪がそう思っていると、電源が入れられたのか、その試験機と研究員が何やら会話を始めた。恐らくは、チェックも兼ねてるのだろう。それを見ていると、試験機が簪に気付いたようで微笑んできた。
簪は思わず頭を下げて、移動を始めたさくら達の後を追い掛けた。まだ、見学は続く。