打鉄弐型の改修が終わった後、セシリアと簪は再びさくらの案内で天枷研究所の見学に回った。主にはロボット工学が中心だが、今や金属工学、機械工学等幅広く研究が行われている。
その研究をしている研究者達は、今や過半数が女性権威主義者により不当に前の研究所を追い出された人達ばかりだ。
だが、初音島という安息の地を見つけ、自分がしたい研究をしている。
それに、ここに来れた研究者達はまだ運が良い人達だ。中には一家離散し、自殺に追い込まれた研究者も居る。
「さて……スパイか……」
さくらは呟いてから、端末を操作。本当ならば、仲間達を疑うようなことはしたくないが、大事な子供。特に義之達を護るためなら躊躇う理由は無い。
水越女史とは別に、さくらも動くことにした。
それはさておき、見学が一段落した時
「悪い、遅くなった」
「ごめんなさいね」
義之と麻耶が戻ってきた。どうやら、そちらも一段落したようだ。二人を見たさくらは、笑みを浮かべ
「ん! 二人が戻ってきたなら、ボクはここまでだね! 後は、義之君と麻耶ちゃんにバトンタッチするね!」
と朗らかに告げた。
「あ、はい。ありがとうございました」
「ここからは、私達がしますね」
義之と麻耶が頷くと、さくらはセシリアと簪に
「それじゃあ、またねー!」
と言って、駆けていった。その姿は、やはり子供のように見えてしまう。そんなさくらを見送り、義之は
「とはいえ、時間的にはもう大分見たんじゃないか?」
とセシリアと簪を見た。確かに、四階まで見て回っており、恐らくは殆どの研究室は見ただろう。
「あとは地下だけど……」
「そっちは、本当に最先端技術で、部外秘なの……見せられなくて、ごめんなさいね」
どうやら地下にも研究室が有るようだが、そちらは機密性が高い区画らしく入れないようだ。勿論セシリアと簪は、機密を十分に理解しているから無理強いするつもりは毛頭無い。
「それでなんだが、俺達の研究室に来るか?」
義之の問い掛けに、簪が
「……いいの?」
と興味深げな様子で首を傾げた。
「まあ、地下よりかは機密性も低いしな。俺達がやってるのは、主に天枷のアップデート用部品とキットの開発で、それが時々μに転用される位だな」
義之は軽く言っているが、かなりの事である。現代兵器でも旧式のアップデートキットは開発されるが、それは少なくとも年単位の開発期間と莫大な予算があり、更には様々な研究者達の意見交換があって実現している。
それを、一介の学生が行っていて、しかも既に採用実績がある。
「確か、私達が開発してμで採用されたのは……バランサーシステムと介護用のシステム……後は……」
「最近、パワーシリンダーが採用されたな」
実を言うと、義之と麻耶の口座には学生が持つには分不相応な金額が振り込まれている。その額、千万単位。
「……十分凄い」
「……お二人にも、個人的に投資するべきですわね……」
簪は感嘆し、セシリアは何やら考え始めた。簪は違うクラスなので知らないが、夏休み前に行われた定期考査の義之と麻耶のクラス内ランキングは堂々の一位と二位。そして、学年別でも一位と二位である。
「と、ここだ」
どうやらいつの間にか到着したようで、義之と麻耶は入口横の機械にIDカードを翳した。すると、機械音声で
『お名前をどうぞ』
「桜内義之」
「沢井麻耶」
と名乗った。その直後、カチャリという音が聞こえたので、義之がドアを開けて
「ほれ、中に入れ」
とセシリアと簪を手招きした。手招きされた二人が中に入ると、義之と麻耶が後に入り、ドアを閉めた。
「……声紋認証式……」
「一応言っておくと、機械の録音とかじゃあ開かないやつでな。今まで中に入られた事は無いな」
やはり最先端技術の研究をしてるだけあり、セキュリティーもかなりの物が採用されている。研究スパイとかも侵入するには苦労することだろう。
「というわけで、私達の研究室にようこそ」
「歓迎するぞ、盛大にな」
改めて来た義之と麻耶の研究室は、二人という研究者の人数を考えると、かなり広く様々な機器が設置されている。それだけ、二人が精力的に研究を頑張っている証拠だ。
「まあ、流石に研究データは見せられないが……」
「ううん……見れるだけでもありがたい……!」
どうやら、簪からしたらかなりの物らしく、目が輝いている。セシリアは研究室を珍しげに見回している。
美夏が居た台には、美夏の姿はない。終わった後、恐らくは食堂に行ってお茶でも飲んでいるのだろう。
「さて、何か質問があるなら聞くが?」
セシリアと簪が座り、そこに四人分のお茶を持って戻ってきた義之は、セシリアと簪にそう問い掛けた。