セシリアとの話し合いが終わり、四人は天枷研究所から出た後は商店街の方に向かって、和菓子を楽しめるお店。花より団子に来た。
この花より団子は、50年以上の歴史を誇る老舗で、特に桜餅が名物である。
「お待たせしました、桜餅セットです。ごゆっくり」
和服を着た女性店員は恭しく一礼すると、静かに去っていった。その所作からも、慣れているのがよく分かる。
そんな女性店員を見送ってから、セシリアが
「これが和菓子ですか……この葉っぱは……?」
「それは、桜の葉っぱを塩漬けしたもの……一応、食べられる」
桜餅を珍しそうに見ていると、簪が説明した。すると、義之が続けて
「とはいえ、無理に食べる必要は無いからな? 一緒に食べるって人が居る位だからな」
と苦笑しながら説明した。そして、義之は慣れた手つきで葉っぱを外してから食べ始めて、僅かに遅れて麻耶と簪。最後に、セシリアが恐る恐るといった様子で食べ始めた。葉っぱを外し、一口食べると
「これは……口の中に、桜の香りが広がって……そこに、仄かな甘さが合わさって美味しいですわね」
「気に入ってくれたなら、何よりね」
セシリアの評価を聞いて、麻耶は微笑みを浮かべた。そして、四人でのんびりとしていると
「これが、風流というものなのかもしれませんわね……季節外れですが、咲き乱れる桜……その中で食べる和菓子……何とも言えない感覚ですわ……」
とセシリアが呟いた。すると、簪が
「それが分かっただけ、凄いよ……日本人でも、風流がわからない人が多いよ……」
と告げてから、お茶を一口飲んだ。その飲み方から、湯呑みで飲むのに慣れているのが分かる。
「まあ、初音島の桜は狂い咲いてるわね」
「枯れない桜……おかげで、桜餅の葉っぱには困らないらしいがな」
麻耶と義之はそう会話し、乱れ散る桜の花びらを眺めている。世界でも唯一、桜が一年中咲く初音島。何故一年中咲くのかは、誰にも分かっておらず、なかには魔法が理由だ、と声高に言う者も居る程だ。
「しかし、話には聞いてましたが……本当に、男女平等なんですわね……」
「ああ。何故か、初音島には浸透しなかったな。女尊男卑……まあ、楽で良かったが」
セシリアの呟きを聞いて、義之は頭の後ろで手を組ながら言った。桜もだが、初音島は世界で唯一女尊男卑が浸透しなかった地でもあるのだ。
「……忘れられた男女平等……そして、残された最後の楽園……それが、初音島……」
「最後の楽園は、言い過ぎじゃないかしら?」
簪の言葉を聞いて、麻耶が苦笑を浮かべた。麻耶はそう言うが、強ち間違いではないのだ。女尊男卑に馴染めない女性も、理不尽な理由で職を失ってしまった男性にとって居心地が良く、普通に過ごせる場所。それが、初音島だ。
「さて、この花より団子は桜餅が名物だけど、他の和菓子も十分に美味しいぞ?」
「あら……それなら、他の和菓子も食べてみたいですわね」
義之の話を聞いて、セシリアが興味深いという様子で自身の考えを告げた。それを聞いて、義之が
「それじゃあ、幾つか食べてみるか。すいませーん! 三色団子とおはぎセットを四人分お願いします!」
と店員に注文した。そこから四人は、和菓子を楽しんだのだった。その後、セシリアは初音島唯一のホテルに向かい、簪はフェリーに乗って本島に帰っていった。
そして、夜。芳野家の縁側に、義之と麻耶の姿があった。
「改めて考えてみると、予想外なことばかりだなぁ……」
「そうね……義之がISを動かせるのもだけど、私たちがISに関わるのもね……」
義之の呟きに、麻耶は同意した。確かに、予想のしようがないだろう。いくら、ISの開発者たる束が身近に居ようが、ISの思考能力や自己進化能力はその束にも予想が出来ないらしい。
つまり、何らかの理由で男性がISを使えるようになっても不思議ではない、ということである。
「とはいえ……入ってからトラブル続き……まだ、何か起きそうだなぁ……」
「今度は、無茶しないでね……?」
「おう」
麻耶の願いを聞いて、義之は麻耶の頭を撫でたのだった。そうして、夜は更けていく。