『ほら、直線的に動くと、ただの的よ!』
楯無はそう言いながら、新たに展開した蛇腹剣、ラスティーネイルを振るった。
義之は、自身に迫ってきていた刃を機関銃で単発迎撃し、弾いた。
自身に迫ってくる不規則に動く刃を、単発で軌道を反らさせたのだ。
しかも、楯無本人に向けて、瞬時に弾幕を形成した。
まさか、単発で弾かれるとは予想しなかったが、楯無はその機銃弾を水の膜を使って防いだ。
『水? いや、これが……その機体の第三世代としての機能か……』
『……流石に、気づくわよね……そう、この水がミステリアス・レイディの第三世代機能……アクアヴェールよ』
第三世代機能。それは第三世代ISから与えられた特殊装備で、開発した各国によりその機能は違う。
そして、ミステリアス・レイディの場合は水を操る能力なのだ。
ちなみに、義之が使っているラファール・リヴァイヴは第二世代と呼ばれる機体になり、汎用性が高められた機体になる。
『じゃあ……少し本気出すわよ!』
楯無はそう言って蒼流閃を構え、義之は咄嗟に直線上から退いた。
『その槍……複合武装ってやつか……』
『あら、よく気付いたわね』
楯無は軽く流すと、蒼流閃内蔵のガトリング砲を撃った。
複合武装、蒼流閃。槍と射撃武装が合わさっており、遠近両用の武装になる。
しかも、槍の表面にアクアヴェールを螺旋状に纏わせて高速で動かせることにより、ドリルのように扱うことも可能という。
義之は機体を縦横無尽に動かして回避したり、腕の盾で防いだりしながら観察した。
(多分、空気中の水分を集めて使ってるんだろうが……それを集めるのに使ってるのは、十中八九ナノマシンで、それを制御するユニットがあるはず……)
そう判断した義之は、視界フィルターを起動。エネルギーの流れを表示させて、見つけた。
(あれか!)
義之が見つけたのは、水色の掌サイズの物体だ。
正式名称、アクアクリスタル。
ナノマシンの生産と制御を司るユニットで、それがなければ水を操ることは出来ない。
(そういえば、確か特殊徹甲弾を撃てる武器が……)
と義之が思うと、即座にその武器のデータが頭の中に出てきた。
すると義之は、まず左手に持っていたナイフを収納し、即座に新しい武器を展開させた。
それは、長い銃身が特徴の射撃武装。
スナイパーライフル、ファイア・バレット。しかもそのファイア・バレットは、改修した後期型で前期型と比べて、大口径化と総弾数の増加が図られている。
義之はそれを構えると、右手の重機関銃による弾幕を形成、気を引いた。
そして楯無は、義之の思惑通りにアクアヴェールで重機関銃の弾を防いだ。
その直後、義之はファイア・バレットを撃った。
響き渡る轟音、20mmという大口径特殊徹甲弾が、一瞬にして音速を越えた速度で、楯無に迫る。
楯無はその狙撃を、アクアヴェールで防ごうとしたが、その弾が自身への直撃コースではないことに気付いた。
(何処を狙って……しまっ!?)
楯無は義之の狙いに気付いたが、遅かった。20mm特殊徹甲弾は義之の狙い通りはアクアクリスタルを破砕した。
アクアクリスタルは一つだけではないが、一つ減ったことで制御出来るナノマシンの数が激減。
一部の水が落下し、アリーナの地面に染みを作った。
『……恐ろしいわね……まさか、高速機動中に精密狙撃だなんて……』
『ISのハイパーセンサーって、便利だよな。普通だったら見えないのが、余裕で見えた』
まさか当てるとは思わず、楯無は驚愕した。
普通、高速機動中というのは姿勢の安定性を欠いていて、精密照準には向かない。
だが義之は、精密照準を成し遂げ、命中させた。
『……流石に、これ以上壊されたら、私が虚ちゃんに怒られるわね……だから……』
楯無はそう言って、義之を見ながら指を鳴らした。
その直後、義之の持っていた重機関銃が爆発を起こした。
『ぐうっ!?』
『クリアパッション……見えない爆撃、回避出来るかしら?』
そう宣言した楯無は、両手で指を鳴らし続けた。
その度に起こる爆発に、義之は翻弄される。
だが
(水を使う爆撃……考えられるのは……水蒸気爆発!)
と楯無の技の正体を看破し、視界フィルターを熱量測定に変更した。
その数瞬後、周囲が真っ赤に染まった。
(ヤバっ!?)
そう思った直後、凄まじい爆撃が義之を襲った。
『あ、やり過ぎた……』
爆発の規模を見た楯無は、思わずそう呟いた。
楯無は半ば忘れていたが、義之はまだISに関しては素人で、楯無は国家代表だ。その実力差は歴然。
その証拠に、義之が纏っていたラファール・リヴァイヴは装甲がボロボロになり、内部機構が見えてしまっている。
どう見ても、大規模修理が必要なレベルで、後のことを考えた楯無は頭を抱えそうになった。
だがその時、義之が新しい武装たる連装式散弾銃と輪胴弾倉式のグレネードランチャーを展開。
落下しながらも、全弾撃った。
『なっ!?』
まさかそんな態勢から攻撃してくるとは思わず、楯無は回避も防御も忘れた。
しかし、やはり落下しながらだっただろう、幾らか外れた。だが、楯無に次々と命中した。
そして、地面に落下した直後にラファール・リヴァイヴは煙を上げて機能停止になった。
その直後
『お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁ!?』
と虚の怒号が、楯無の耳に響いた。
『ごめーん!!』
謝罪しながら楯無は、気絶したらしく身動ぎ一つしない義之の救助に向かったのだった。
それからどれ程経ったのか
「……んあ?」
義之は待機部屋らしい場所の、ソファーの上で目覚めた。すると
「お~? 起きた~?」
と本音の顔が、義之の視界に見えた。
「……のほほん?」
「そだよ~。いや~、良かったよ~よしよしが起きて~」
義之があだ名を呼ぶと、本音はそう言いながら義之の頭を撫でた。
その時義之は、自身が本音に膝枕されていることに気付いた。
(のほほん、意外と着痩せするタイプか……こりゃ、茜並か?)
義之がボーっとする頭をなんとか動員していると、横から新たな顔が現れて
「……大丈夫、ですか?」
と問い掛けてきた。
「……君は?」
と義之が問い掛けると、その少女は
「私の名前は……
と名乗ってから、頭を下げた。
更識簪、その名前から義之は、楯無の妹だと気付いた。
楯無と違うのは、気弱そうな目と眼鏡。癖っ毛が内に向いていること位だろう。
顔立ちはよく似ている。
「あー……どれくらい、落ちてた?」
と義之が問い掛けると、簪が
「大体、約一時間位……あまり動かないで……ナノマシンで回復促進してるけど、全身打撲みたいな症状だから……」
と答えた。
義之は一度起き上がろうとしたが、激しい痛みに起き上がれなかった。
そこに
「いいですか!? お嬢様も御存知でしょうが、各国の支援があるとは言っても、お金や部品は有限なんです! 損傷レベルCプラス! 大破です! 一度解体しないと、直せないレベルなんですよ!?」
と虚の怒鳴り声が聞こえた。
顔を向けてみれば、正座している楯無の前で虚が顔を真っ赤にして怒っている。
「はい……仰る通りです……」
「でしたら、あれはやり過ぎだとお分かりですか!?」
中々に、上下関係が分からなくなる構図である。
「……もしかして、ずっと?」
「お姉ちゃんの自業自得」
中々に辛辣な妹である。
今回は本気で呆れているらしく、楯無に向ける視線に容赦が感じられない。
「お姉ちゃ~ん、そろそろ落ち着いて~。よしよしが起きたよ~」
と本音が声を掛けると、虚が義之に視線を向けて
「ああ、お目覚めになられたのですね。良かったです」
と安堵した表情を浮かべた。すると楯無が
「本当に良かったわ」
と言って、立ち上がろうとした。だが
「お嬢様、正座のままです」
という虚の強い語気に、正座せざるを得なかった。
はっきり言って、義之ですら恐怖を覚えた。
「お体は大丈夫ですか?」
「まあ、痛みますが……」
虚の問い掛けに、義之はそう答えた。
そして義之は
「あー……俺は平気なんで、楯無さんを許してあげてくれません?」
と言った。
すると虚が
「しかし、お嬢様は……」
と反論しようとした。
だが、義之は
「今回、鍛えてもらうように頼んだのは俺ですし、楯無さんはそれに応えてくれただけです……まあ、あそこまでになるのは予想外だったけども……けどつまり、本気にならないといけなくなる程、俺はISを使えてたってこと……それは、俺の目的に沿ってます」
と告げた。
今回の成果に、義之は完全ではないが、満足感を覚えている。
「まあ、それでも満足出来ないなら、壊した機体の修理を手伝わせる……ってことで、落としどころに」
義之のその提案に、虚はしばらく黙ってから
「分かりました……そこまで言うのであれば」
と頷いた。
そして、楯無に視線を向けて
「お嬢様、正座を解いてかまいませんよ」
と言った。
すると楯無は、グデーと伸びた。
やはり、約一時間の正座は堪えたようだ。
「とりあえず、桜内君は休んでいてください。ラファール・リヴァイヴは、私達が直してきますので」
虚はそう言うと、楯無の首根っこを掴んで引き摺っていったのだった。