「……それが、君の選択なんだね? 織斑くん?」
さくらからの問い掛けに、一夏は頷き
「俺は……俺に出来る事で、仲間や千冬姉を助けたい」
と告げた。それを聞いたさくらは、一度目を閉じて
「……うん。君の決意の強さは分かった……ボクも教えるけど、それより適任が居るから……呼んでみるね」
「適任?」
一夏が首を傾げると、さくらは頷きながら電話を掛け始めた。
「……あ、久しぶり。ボクだけど、今大丈夫? ……え、本当に? だったら、風見学園の学園長室に来てくれる? うん、よろしくね」
通話が終わると、さくらは携帯を仕舞い
「今来るよ」
「今来るって……」
一夏の言葉の途中で、さくらの足下の影が大きく膨らみ、中から一夏と同年代らしい長い黒髪が特徴の美少女が現れた。
「お、影転位が出来るようになったんだ」
「はい。さくら先生の教導の賜物です」
どうやら、影転位という魔法らしい。そしてその影転位は、さくらが彼女に教えたようだ。
「それで、この少年は……」
「彼は織斑一夏。名前位は聞いた事あるんじゃないかな?」
「なるほど……彼が、義之さん以外に居たという……男性でISが使える人ですか」
少女は頷くと、一夏の前に立ち
「初めまして、織斑一夏くん。私は、
「五条院!?」
いくら一夏でも、五条院の名前は知っていた。
現政権で防衛省大臣を若いながら勤めている才女で、更に言えば日本国内でも五つある財閥の現党首である。
そして、五条院。
日本国内にある院の文字を冠する五つの大家。その内の一つが、五条院だ。
「どうやら、姉さんを知っているようですね。姉さんは歴代の党首でも、天才と呼ばれています」
「は、はあ……あ、えっと織斑一夏です」
そこで一夏は、ようやく自己紹介してから握手した。
「飛鳥ちゃんには、彼に魔法を教えてあげてほしいんだ。義之くんの見立てだと、破魔の力があるみたいだから」
「破魔の力……なるほど。それで私ですか……」
「えっと……どういう事ですか?」
一夏が混乱していると、飛鳥が右手を一度腰の後ろに持っていき
「私が、これを持っているからです」
と何かを、一夏に差し出した。それは、刀の柄だけの物だった。
「これは……」
「私が使う魔道具……魔力刀の柄です。私も破魔の力を使えるのですが、破魔の力は使える魔道具が非常に限られるんです」
飛鳥がそこまで言うと、柄から青白く光り輝く刀身が形成された。それはまるで、自身が纏うIS。白式の雪片弐型と酷似している。
「これが、破魔の刃です……理論上は、あらゆる魔法を切り裂く事ができます」
「あらゆる魔法を……」
飛鳥の説明を聞いて、一夏は改めて光り輝く刃を見た。
雪片弐型の濃厚は、自身のシールドエネルギーを消費して、相手のシールドエネルギーを大幅に掻き消す。
そして破魔の力は、自身の魔力を消費して相手の魔法を無効化する。
(……よく似てる……)
一夏がそう思っていると、飛鳥は刀身を消して
「これを握り、イメージしてください……」
「イメージ?」
飛鳥の言葉の意味が分からず、一夏は首を傾げた。
すると、飛鳥は
「はい。この魔道具は、使い手のイメージから刀身を形成する……つまり、使い手のイメージが確固たる物ならば様々な形にもなりえる」
と言って、一夏に柄を差し出した。
柄を受け取った一夏は、柄を握りしめて一度目を閉じて、頭の中でかつて篠ノ之道場で見た刀を思い出し、それを強くイメージした。
すると、自分の中から何かが流れるような感覚が柄に伝わっていくのを感じた。
「な……これは……」
「へえ……」
飛鳥とさくらの驚く声が聞こえて、一夏は目を開けた。すると見えたのは、柄から伸びる青白く光り輝く刀身だった。
「これが……」
「初めてで、ここまで見事に形成するのは、私は初めて見ました……」
「ISは展開するの、使い手のイメージが強く影響するみたいだから、それもあるかもしれないね」
一夏は驚きながらもその刀身を様々な角度から見て、飛鳥とさくらは何やら話し合っている。その時、一夏は足から力が抜けて両膝を突いた。
「……え……?」
「いけない! 柄を離してください!」
一夏が呆然としていると、飛鳥が駆け寄り、一夏の手から柄を奪い取った。すると、さくらが歩み寄り
「んー……どうやら、初めて魔力を使ったから、一時的に生命力が弱ったみたいだね」
と一夏の額に手を当てながら、そう診断した。
「生命力……?」
「ええ……魔力とは、生命力……つまりは、魂から溢れるエネルギーになります……魔力を初めて使ったから、最初から過剰な魔力を放出してしまったのです……すいません、私の落ち度です」
一夏が混乱していると、飛鳥が謝罪した。
どうやら、飛鳥は誠実な性格のようだ。
「いえ、教えてとお願いしたのは俺だから……」
「ですが、段階を踏むべきでした。今は、休んでください」
飛鳥はそう言って、一夏の頭を優しく座布団の方に誘導し、一夏を横たわらせた。その直後、猛烈な眠気に襲われて
「ゆっくり休んでください……」
飛鳥のその言葉を最後に、一夏の意識は沈んだ。