初音島、人工島開発区域
そこに、義之と麻耶は居た。
「では、ここはこのような形でお願いします」
「分かりました。お任せください」
まだ若い義之の話を、白髪交じりの男性は素直に受け入れて、施工図を丸めて会議室から去った。そして義之と麻耶は会議室とされていたプレハブ小屋から出ると、近くに居た作業者に
「すいません。あそこに行きたいんですが」
とクレーン船の方を指差した。すると、その作業者は肩の無線機に手を伸ばし
「分かりました。少々お待ちください」
と言って、無線機で通信を始めた。その時義之は、携帯を取り出して
「お。一夏、風見学園に居るみたいだぞ」
と麻耶に教えた。
「え、本当に?」
「ああ。由夢からメールが来てる。どうやら、夏祭りを回ってるみたいだ」
義之はそう言って、携帯画面に表示されているメールを見せた。それを見た麻耶は
「ふふ。楽しんでるかしらね」
「さあなぁ……もしかしたら、杉並が要らんアクシデントを起こしてる可能性もあるな」
麻耶は純粋に一夏が楽しんでるかと考え、義之は悪友の杉並の行動力を思い出した。
そこに、先ほどの作業者と右肩に船舶管理と書かれた腕章を着けた男性が来て
「お待たせしました。こちらの者が、今から船を出します」
「よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
「お願いします」
義之と麻耶はその船舶管理者の後に続いて、小型の船に乗ってクレーン船に向かった。
クレーン船に到着すると、船の側面にあった階段で甲板まで上がっていき
「えっと……あ、すいません。こちらの責任者の方はどちらでしょうか?」
と近くで作業していた作業者に声を掛けた。義之と麻耶の右肩辺りには、天枷研究所という腕章が有り、それを見た作業者は
「あ、天枷研究所の方ですか! 少々お待ちください」
と言って、無線機を取り出して通信を始めた。そして、少しすると
「当船の責任者は、あちらの艦橋に居ます」
と甲板後方の艦橋を指差した。
「分かりました。ありがとうございます」
「怪我しないよう、気をつけてください」
義之と麻耶はそう言うと、艦橋の方に向かった。
途中に居た他の作業者を見ながら義之と麻耶は、
水密隔壁を開き、階段を上がっていって艦橋手前に居た警備員に
「お疲れ様です。天枷研究所から来ました、桜内義之です」
「同じく、沢井麻耶です」
「お待ちしていました。お話は聞いています。どうぞ、こちらへ」
警備員はそう言って、艦橋に入る為の水密隔壁を開けた。そして、先に中に入り
「天枷研究所の研究員の方々、入ります!」
と告げた。義之と麻耶が入ると、二人居た白髪の男性が振り向いて
「当船にようこそ。私が当船の船長の
「私が作業責任者の
船長と作業責任者は名乗りますながら、義之と麻耶にそれぞれ名刺を差し出した。それを受け取ってから、義之と麻耶は懐から名刺入れを取り出して
「自分は、天枷研究所の研究員の桜内義之です」
「同じく、沢井麻耶です」
と返礼の名刺を差し出した。船長と作業責任者はそれを受け取り
「いやはや。若いのに、中々出来たお二人ですな」
「全くで……本日は、査察ですかな?」
「そんな堅苦しい事ではないですよ。まず、こちらを。天枷研究所所長の芳乃さくらからの書状をお持ちしました」
麻耶はそう言って、鞄から一通の封筒を作業責任者に手渡した。それを受け取り、作業責任者は軽く一読し
「これはご丁寧に……こちらは、芳乃博士のおかげで久方ぶりに大きな仕事が入り、感謝しています」
「ですな……最近は女性優遇制度の影響で、肩身の狭い思いをしてました」
と語った。それを聞いた義之は
「次に、こちらを……足りないでしょうが、お菓子をお持ちしました。後、港にまだコンテナが用意されてまして、そちらにもお菓子やお茶があります」
と説明しながら、大きな箱が入った紙袋を近くの机に置いた。それを聞いた作業責任者と船長が
「おお、これはありがたい! このような場所では、中々甘味が得られないのでな」
「後程、そのコンテナも回収に行きましょう。船員も喜びます」
と感謝していた。そうして、義之は
「芳乃博士は、皆さんに感謝していました。今回のような前代未聞の大規模プロジェクトに参加していただき、ありがとうございますと。それだけでなく、初音島の島民も積極的に雇用し、経済発展にも協力していただいて、ありがとうございますと」
とさくらから聞いた伝言を告げた。
それを聞いた二人は
「いやいや。こちらも、我々の腕が振るえて更には新しい技術をしれた」
「それに何より、社員達に給料を払える。それが、我々は嬉しいのです。こちらこそ、ありがとうございます」
と頭を下げた。
女性優遇政策により、この10年の間に幾つかの企業は衰退し、倒産してきた。その中には、女性権利主義者が干渉した事例も確認されている。もしかしたら、彼らもそうなのかもしれない。
「まだ工事は続きますが、怪我のないようにお願いします」
「最後まで、職務を全うします」
義之は船長と作業責任者と握手した。