一夏が目覚めたのは、数時間後だった。
少しぼんやりとしていたが
「あ、起きましたね」
と飛鳥が、一夏の顔を覗き込んだ。
その体勢は、いわゆる膝枕だった。
「あー……」
一夏はゆっくりと起き上がると、少し頭を振って
「確か、魔法を使って……」
「初めての魔法で極度に疲労し、寝たんです。大丈夫ですか?」
飛鳥が問いかけると、一夏は思い出したようだ。そして、先ほどまで飛鳥にされていた膝枕に気付き
「あー……さっきはありがとう……」
僅かに顔を赤くしながら、頭を下げた。すると飛鳥は、朗らかに
「いえいえ」
とだけ返答した。そして、一夏に湯呑みを差し出し
「これを飲んでください。薬湯です」
と告げた。そこに、さくらが
「一応、君の生命力を強くする薬だから。飲んでおいた方が良いよ」
と教えた。
「は、はい……では……」
湯呑みを受け取った一夏は、一口飲んで
「うぉ……なんだ、この味……」
と呟いてしまった。
「まあ、味はね」
「良薬口に苦し、と言いますから……ゆっくりで構いませんよ」
さくらと飛鳥は一夏の呟きを聞いて、半ば同意するように頷いた。まあ、薬に関しては大体が苦いか言葉で言い表せない味である。
それはさておき、一夏は少しずつ薬湯を飲んでいく。
すると、さくらと飛鳥が
「それで、彼の力はどう?」
「……はっきり言ってしまえば、私を超える力を有しています」
と一夏に聞こえない声量で、会話を始めた。
「……本当に?」
「はい……これを見てください」
飛鳥はそう言って、さくらに一夏に貸した柄を差し出したのだが、さくらは即座に気付いた。柄に、大きくヒビが入っていた。
さくらは、その破損の仕方を見て
「この壊れかたは、魔力のオーバーロード……つまり、彼の魔力出力は、飛鳥ちゃんを上回ってるってことだね……」
「それも、かなり上です……一応これは特注品で、私の普段の魔力出力の二倍までは耐えられるように作ってもらいました……」
「つまり、二倍以上は確実ってことか……それ、相当だね?」
さくらの言葉に、飛鳥は頷いた。
人の魔力出力は、各個人で決まっており、その魔力出力を上手く調整して魔法を行使し、長時間の戦闘や結界強度等を調節する。
飛鳥の最大魔力出力を10段階で表現すると、大体4から5位で、普段は3辺りで魔法を行使している。
つまり、一夏の魔力出力は6以上は確実に有るのだ。
「そんな魔力出力、昔の各家の当主位か……それこそ、伝説に出てくる魔導戦士位しか……」
「魔導戦士……魔法最盛期……約400年前か……」
魔導戦士
今から約400年前、まだ魔法が一般にも信じられていた時代に存在した戦士で、要するに魔法使いのエリート達になる。
魔法だけでなく近接戦闘もこなし、一説には魔導戦士1人で騎士100人に匹敵するとさえされている。
すると、さくらが
「実は、彼が寝てる時に少し探査魔法を使ったんだけど……彼、遺伝子に普通とは違う痕跡があった」
「遺伝子に?」
さくらは人体工学博士号も持っている為に、遺伝子の塩基配列も知っている。探査魔法を使った際、一夏の塩基配列に違和感を覚えたようだ。
「まだ確信は無いけど……もしかしたら、彼は……」
「お、これ飲んだら体が暖かい」
どうやら、一夏は薬湯を飲み終わったようだ。
「あ、飲み終わりましたか。体が暖かくなるのは、生命力を強くしたからです」
飛鳥はそう教えながら、一夏から湯呑みを受け取った。
さくらは一夏に近づき
「もう夕方になるから、帰った方がいいよ」
と告げた。それを聞いた一夏は、時計を見た。
確かに、午後5時を指し示していた。
「うわ!? もうこんな時間だ!」
一夏が急いで荷物を回収していると
「夏祭りは明日もやってるから、来てねー♪」
とさくらは朗らかに、一夏に声を掛けて見送った。
そして、一夏が居なくなると
「……さくらさん。彼は……」
「……もしかしたら、遺伝子調整された子かもしれない……」
とさくらは、神妙な表情で告げた。