「よく来てくれたわね」
「いらっしゃい、俺たちの研究室に」
見学に来た一夏を、麻耶と義之は優しく出迎えた。
一夏は、義之達が示した椅子に座った。すると、美秋がお茶を用意した。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
一夏がお礼を言うと、美秋は微笑んだ。
お茶を一口飲んでから、一夏は研究室を見回し
「……よく分からない機材ばっかりだな……」
「まあ、そうだろうな」
「分かったら、逆に凄いわ」
一夏の言葉に、義之と麻耶は笑った。
確かに、素人に機材が分かったら凄いだろう。
「ここで、天枷さんやμが作られたのか……」
「そうね。天枷さんは今から約50年前に」
「μは三年位前だな」
麻耶の説明に、一夏は美夏が約50年前のロボットだという事を思い出した。
「あんなロボットが、約50年前に造られたってのが、信じられないな……」
「当時の天才が製作したらしいからな……」
確かに、天才が居なければ造れなかっただろう。
特に、AIは今の技術でも同じ物は作れないだろう。人間にしか見えない感情に、人間と同じレベルの思考速度。どんな技術なのか、知りたい位だ。
「……けど、反ロボット団体からの妨害工作や誹謗中傷……それらにより、自殺に追い込まれたわ……私のお父さんも……」
「……え……?」
麻耶の言葉に、一夏は衝撃を受けた。
すると、義之が麻耶を優しく抱き締めて
「……ロボット排斥主義者……そいつらがあらぬ噂を流し、天枷研究所や家に誹謗中傷の手紙や電話が鳴り……追い込まれて自殺したそうだ……」
「誹謗中傷……」
誹謗中傷問題は、それこそ世界大戦時にもあったとされている問題だ。
特にSNSが発達してからは秘匿性が高まり、それこそ世界中から名前が伏せられた状態で届く。
それが、形の無い刃となり仲間や家族に牙を剥き、見えない傷を穿つ。
法の改正により、裁判所が許可すれば誹謗中傷した人物の名前を教えても良いとされたが、多く居たり海外の人となると、手が回らない事もある。
そうしている間に見つからないように逃げて、また誹謗中傷する輩も居るというのが最近分かっており、法改正で一定の監視と規制をすべき、という意見が出てきている。
「……ぶっちゃけ言えば、今も誹謗中傷はある」
「なに!?」
義之の言葉に、一夏は驚きで椅子を蹴倒す勢いで立った。そんな一夏に、義之が
「落ち着け。その全部に、さくらさんが対処してる。今のところ、実害は無い」
と説明した。確かに、束を抜いたら世界でもトップの天才と呼ばれるのが芳乃さくらだ。
しかも一夏が聞いた噂では、さくらは量子コンピューターを有しているとされていて、よく聞くハッカー集団も一切手出し出来ないと聞いた事がある。
しかも、天枷研究所の警備員は一夏が見た限り屈強な男達ばかりだった。
おいそれと、手出し出来ないだろう。
それこそ、ISでも投入されない限りは。
「……年下の俺が言う生意気かもしれないが……苦労したんだな、沢井さん……」
「ありがとう、織斑くん」
一夏の言葉に、麻耶は笑みを浮かべた。
その時、ドアが開き
「戻ったぞー! っと、織斑が来ていたか」
美夏が元気よく入ってきた。
「あら、お帰りなさい。天枷さん」
「お帰り、天枷」
「あ、どうも」
麻耶と義之は温かく出迎え、一夏は軽く会釈した。
「ほら、花より団子の今年の新作だそうだ」
「あら、公園に行ったのは知ってたけど」
「美秋さん、俺たちにもお茶を」
「はい、分かりました」
美夏は三人が居た机に近寄ると、机の上に風呂敷を置いた。どうやら、花より団子に行って買ってきた和菓子が入っているようだ。
「織斑も構わないぞ」
「え、良いのか?」
「うむ! 数の心配は要らないぞ!」
「天枷さん。私達で数日分は買ってくるのよ」
「むしろ、食べてくれ」
どうやら、美夏はかなりの量を買ってくるらしい。麻耶と義之は苦笑いを浮かべている。
いくら美味しい和菓子とはいっても、何日も同じ和菓子は飽きるかもしれない。
「はは……分かった、貰うよ」
「うむ!」
一夏の言葉に、美夏は満足そうに頷いた。