「花より団子の和菓子……凄く美味しいな」
「だろ?」
「初音島の老舗名店だからね」
一夏の言葉に、義之と麻耶が嬉しそうに説明した。
美夏も、美味しそうに食べている。なお美夏の話では、花より団子は50年以上前から営業しているらしい。
「だけど、義之と沢井さんは学生でありながら研究員か……凄いな」
「まあ、私たちは特例よ」
「だな……よほどの事がない限り、学生で研究員ってのはな」
確かに、かなり特例だろう。学生で研究員というのは、二足のわらじになり、かなりの高確率で中途半端になる可能性が高い。
しかし二人は学業も非常に優秀で、夏休み前の試験では学年一位と二位になっていて、研究員としては一夏にはよくわからないが、来た日にさくらの代わりに人工島建設の視察に行っていたのだから、優秀なのは間違いない。
「さて……お茶も済んだし……」
「そろそろ、見学始めるか」
和菓子を食べ終わり、湯飲みを机の上に置いた二人の言葉に、一夏も立ち上がった。
すると、麻耶が
「天枷さん。私たち、織斑くんを案内してくるわね」
「うむ! 美夏は、残ってるデータ収集を終わらせるぞ!」
美夏はそう言うと、美秋と呼んでから奥の部屋に向かった。どうやら、美秋と一緒にデータ収集をやるようだ。
そして一夏は、二人の先導で研究室から出た。
白を基調にした壁紙の廊下を歩き、暫く進むと
「おぉ……広い研究室だ……」
「ここは、μ用の新しい拡張部品やプログラムを開発してる部署だな」
「今のところ、この部署が一番広いし人員も多いわね」
広い窓ガラスから中学校位の体育館の広さの研究室が見え、中にはかなりの人数の研究員達が議論したり、一緒に何かを作っている。
「μか……確か、部品の組み換えやプログラムの交換で様々な用途に使えるんだっけ?」
「そうよ。最近だと、病院で試験運用してるわね」
「あと、介護施設向けに新しいのも作ってるな」
義之は語りながら、ある場所を指差した。そこでは、一人の研究員の脈拍を片手で計り、もう片方の手を伸ばして靴を履かせている。
どうやら、腕に様々な機能を内蔵して試験しているようだ。
「おぉー……凄いな……」
「ああやって常に、新しい拡張キットを作ってるわね」
「最近だと、自衛隊向けも開発してるが、それは機密の関係で別の区画だな」
「自衛隊か……」
一夏は、夏休み直前の福音事件の時の部隊を思い出した。一夏が後から聞いた話だと、腕利きの部隊だと聞いた。
「じゃあ、次に行きましょうか」
「あ、はい」
麻耶の先導で、更に廊下を進み、エレベーターに乗った。非常に静かなエレベーターで、地下に降りた。
「実は、このエレベーターにもセキュリティーの一種が有ってね」
「このエレベーターは監視カメラで中も見てるんだが、もし不穏な動きをしたらシャフトが閉鎖され、更に中に睡眠ガスが流し込まれる仕組みになってる」
「お、おぉ……捕まえる為か」
麻耶と義之の話を聞いた一夏は、思わず天井を見上げた。何気に凶悪なセキュリティーに、驚いているようだ。
「んで、地下一階だが……」
「ここでは、新しい骨組みや素材の開発をしてるわ」
窓から見ると、何やら骨組みにエネルギー回路を組み込んだのを開発しているようだ。しかし、どうやっているのかは一夏には分からない。
「おぉ……最先端の研究ってやつか……」
「そうだな。天枷研究所だけで、かなりの数の特許あるな」
「過半数が、さくらさんの研究なんだけどね」
流石は、束と並ぶ天才科学者と呼ばれるだけある。
束よりコミュニケーション能力が高く、恐らく議論も重ねた結果なのだろう。だがもし、束と一緒に研究したら、とんでもない物が開発されそうだ、と一夏は思った。
「一応ここ、カメラとかの機能は使えなくなるセキュリティが働いてるわ」
「特に、携帯は繋がらない」
それを聞いた一夏は、携帯を取り出して画面を見た。
確かに、電波は繋がらないし、なんなら操作出来ないようになっている。
「いや、本当に凄いな……」
「まあ、産業スパイ対策だな」
「ちょっと過剰かな、って思う事もあるわね」
だが、その位やった方が効果は確実だろう。
セキュリティは、やり過ぎかな、と思う位にやらないと意味を成さないだろう。
天枷研究所の研究内容を考えると、この位は必要なのだろう。
「この奥は量子力学の研究もやってるんだけど……」
「流石に、機密性が高いから見学も出来ないの……ごめんなさいね」
「ああ、いや。大丈夫」
そこで折り返し、再びエレベーターに乗った。