夜、IS学園
その敷地の外れに、一機の飛行機からムササビスーツとパラシュートを使って十数人の部隊が降下した。
ロシア軍
彼らは使っていたムササビスーツとパラシュートを纏めてから処分すると、端末を使って標的たる一夏の顔写真を確認し、ハンドサインで会話した後に動き出した。
IS学園は各国の重要機密の塊たる先進ISを扱っている為、様々なセキュリティが導入されている。
その全てを、道具や武器を使って無力化しながら一夏が居る寮に進んでいく。
そして寮の一角、非常階段の出入口に到着すると、バーナーを取り出して、鍵部分の破壊工作を始めた。
特殊工作用のバーナーにより鍵部分は容易に破壊されて、特殊工作部隊は階段を登り始めた。
そして、一夏が住んでる部屋の階段に到着すると、ピッキングで鍵を開けて、ゆっくりと静かに中に入った。
ここまでは、順調に来れた。
一夏が住んでる部屋は、まだ先にある。
誰にも気付かれないようにと進み始めたのだが、隊長は違和感を覚えて足を止めた。
「……静か過ぎる……」
今は夏休みで、確かに大部分の生徒は帰省しているのは確認済みである。しかしそれでも、かなりの人数が各寮に居て、夏休みの為に夜更かししている生徒も居ても良い筈なのに、通り過ぎた部屋からは物音一つせず、思い出してみれば寮の裏手を通った時も、各部屋には明かりも一つも点いた様子はなかった。
「隊長、どうしました?」
「……誰か、今まで通った部屋から声や物音を聞いた奴は居るか?」
隊長が問い掛けるが、聞いた、と答える隊員は一人も居ない。それに嫌な予感を覚えて、後退の指示を出そうと手を振り上げた時、その手に赤い光が当たり
「つっ!?」
隊長がしまった、と思った直後に廊下は白煙に包まれた。
最初はただの
(催涙弾か!?)
直ぐにその煙が催涙弾を使っていると気付いた隊長は、何とか防毒マスクを装着し、内蔵されている無線で
『装面しろ! 急げ!』
と指示を出して、構えた。隊長は催涙弾が効いてる間に、迎撃されると予想したからだ。
そして、その予想は当たった。
後ろから、連続してドサドサと音が聞こえた。
『何があった! 報告しろ!』
隊長が報告を促すが、一切返事が無い。
まさか、と思いながらも振り向きながら銃撃した。
サプレッサーを装着している為、銃声はほぼ無い。空気が抜けるような音が数秒間続き、弾が切れた弾倉を落として新しい弾倉を装填しようとした。
だが
『……遅いよ……』
という少女の声が聞こえて、隊長の意識はそこで無くなった。
少しすると、機械の駆動音がして煙が消えた。その中で立っていたのは、内側に跳ねた水色の髪の少女。
簪だった。簪は防毒マスクを外すと、倒れ伏している隊員達が死んでいる事を確認し
「……お姉ちゃん、侵入してきた部隊は殲滅したよ……」
と無線を始めた。
『ありがとう簪ちゃん……ごめんね、侵入した部隊を任せちゃって……』
「……いいよ……罠は本音や虚さんが仕掛けてくれたから……私が仕掛けておいた、ISレーダーはどう?」
『大助かりよ。ロシアが投入したISを捕捉したから……同型機を投入してきたわね……1号機かしら』
今楯無が使っているミステリアス・レイディーは元々、ロシア軍のモスクワの深い霧の改修機に当たる。
楯無が知る限りだが、モスクワの深い霧は全部で三機製造され、楯無が受領したのは2号機である。
そしてこれは、モスクワの深い霧の予想外な機能なのだが、アクア・ヴェールを全体を包むように展開すると、レーダーに反応しづらいのだ。
恐らくだが、水がレーダーの電波を吸収しているのではないか、というのがロシア軍技術者達の見解だった。
楯無はそのモスクワの深い霧による侵入を考え、簪と解決策を考えていたら、簪がレーダーだけでなく、光学カメラを用いた複合型索敵機を考案し、即興で作ったのだ。
そして、それを複数箇所に設置したところ、はっきりとモスクワの深い霧を捕捉したのである。
『ありがとうね、簪ちゃん……簪ちゃん。簪ちゃんは、無能なんかじゃないわ……』
「お姉ちゃん……?」
『簪ちゃんの開発能力……それは、確実に私を超えてる……自信を持ってね』
「お姉ちゃん!?」
そこで、通信は切れた。
嫌な予感を覚えた簪は、急いで楯無が居る筈の場所に向かって駆け出した。