一夏達のクラスの出し物も決まり、急ピッチで準備が始まった。何処からか来たメイドがクラスメイト達にメイドとしての動きかたを指導したり、一夏や義之、麻耶が調理担当に指導したりと、かなり忙しかったが
「なんとか、間に合いそうだな……」
「だな」
「お疲れ様」
疲れた様子の一夏を、義之と麻耶が労った。
義之と麻耶、美夏の三人は、ぶっちゃけ言えばイベント事には慣れており、準備もだが、クラスメイト達への指示出しも的確であった。
特に麻耶は、人員配置も的確にしており、それに関して義之は
「これは、初音島での経験の賜物だな」
と語った。
準備が一段落し、書類を纏めた一夏は生徒会室に向かった。その隣には、飛鳥の姿もある。
飛鳥だが、麻耶と並んで指示出しが見事で、短期間で一夏の補佐役としての位置付けを確立していた。
その事に箒は忸怩たる思いはあるようだが、箒は自身がコミュニケーション能力が低い事を自覚しているので、仕方ないと考えた。
それはさておき、二人は生徒会室に入ったのだが、楯無が座る机は凄まじい事になっていた。
机の右側に未決済という看板が置かれ、左側には決済済みと書かれた看板が置かれているのだが、見事に書類が机を埋め尽くしていた。楯無の姿が見えないほどに。
「わーお……」
「地獄ですね……」
光景を見た二人の口から、そんな言葉が出た程だ。
すると、横の机に居た虚が
「あら、どうしました?」
と二人に気付き、声を掛けた。
すると一夏は、脇に抱えていた書類を虚に差し出しながら
「えっと、文化祭の出し物の準備が完了したのと、ここまでで使った予算の表です」
と告げた。
「拝見しますね」
受け取った虚は、書類を軽く一読し
「書式、内容には問題ありませんね……」
と言って、右下に自身の判子を押した。
そして、先に確認と捺印が終わった書類と一緒に楯無の机の右側の端の一番上に乗せて
「お嬢様。今日中に終わらせてくださいね」
と告げた。
(鬼だ……)
(鬼ですね……)
二人は知らなかったが、書類の山は楯無が数日サボったのが原因だった。
今日楯無は捕まり、書類を終わらせる為に車椅子諸とも机に固定。お茶と食事、トイレ以外は書類を捌かせていた。
因みに楯無が使っている車椅子は本来電動なのだが、机に固定させる為にバッテリーを外し、ロック機能を虚が追加した。
それにより、楯無にはその場から動かせなくなってしまった。
時々机の向こうから、小さく
「虚ちゃん……トイレ行きたい……」
と聞こえてくる。
すると、時計を見た虚が
「お嬢様。30分前に行ったばかりです。頑張ってください」
と突き放した。
それを見た二人は、自分達にはどうする事も出来ないと考えて、生徒会室から出たのだった。
その後、廊下を歩いていると
「あら、織斑くんね」
「こんにちは」
カトレアとイングリッドの二人と遭遇した。
「あ、ホームズさんとワトソンさん」
一夏としては、あまり会話したことが無かった二人なので、姓の方で呼んだ。
すると、イングリッドがスルリと一夏に近寄り
「同い年なんだから、さん、とかは付けないでいいよ。私の事は、イングリッド。でいいよ」
と囁いた。
一夏と同じ位の身長に、長い銀髪に青い瞳にかなりのスタイルの良さから、クールな印象があったイングリッドだが、何処か子供っぽさがギャップからか可愛いと思った。
「そうよ、私の事もカトレアでいいわ」
気付けば、カトレアも近くに居た。
「……分かった。俺の事も一夏で」
「うん、分かった」
「分かったわ」
一夏の言葉に、イングリッドは満面の笑みを浮かべ、カトレアは満足そうに頷いた。
すると、飛鳥が
「それで、調査はどうでしたか?」
と二人に切り出した。
「……現時点で、7割位完成してる……一応妨害の陣は設置したけど、どれだけ出来るか分からないわね」
「そうだね……起点の陣を破壊出来れば、一番効果的なんだけど……」
カトレアの言葉に続けて、イングリッドが告げた。
それを聞いた飛鳥は、少し考えてから
「その破壊、私と彼なら出来るかと」
と発言した。