飛鳥、カトレア、イングリッドの三人が魔力をほぼ使い果たした一夏に、上半身の制服を脱いだ状態で抱き付いた時、義之は
「……さて、どうするか……これ」
と一つの魔法陣を見ていた。
それは、一夏達が壊した魔法陣と同じ陣で、義之は歩いていて、踏んで気付いたのだ。
「とりあえず、音姉呼んだが……」
義之はとりあえず携帯で音姫を呼んで待っていたのだが、自分でもどうにか出来ないかな、と考えていた。
とはいっても、義之には魔法陣に関する知識はまだ無い。最近は少しずつ覚えてきているが、それでもまだまだ素人同然だ。
「下手に手出しして、最悪な事態になるのは避けたいところだしな……」
義之はそう呟きながら、頭を掻いた。
ちなみに義之が見つけた場所は、一年生寮に続く道のマンホールだ。
そのマンホールに重なるように、魔法陣があったのだ。
そして、どうするか、と考えていたら
「弟くん!」
と音姫が駆け付けた。
「音姉、こっち」
「このマンホールが?」
義之が手招きして近付いた音姫が義之に問い掛けると、義之は頷いた。すると音姫は
「念のために、認識阻害と人払いの結界を展開するね」
と言って、指を鳴らした。
「人払いは分かるけど、認識阻害?」
「認識阻害は、私たちがここに居るっていうのを妨害するの」
義之に説明しながら音姫は、マンホールを中心にして新たに魔法陣を展開していく。
「無効化出来れば最善だけど、無理だったら、妨害しないと……」
音姫は呟きながら、魔法陣を展開。そして、意識を集中させ始めた。
その間、義之は周囲を見回していた。
すると、セシリアとヴィシュヌの二人が駆け寄ってきている事に気付いた。
「セシリアにヴィシュヌ」
「桜内さん!」
「近くで魔法が使われたから……何があったんですか?」
どうやら二人は、音姫が展開した結界の発動に気付いて駆け付けたようだ。そんな二人に、義之は
「いや、このマンホールに魔法陣を見つけてな……それを音姉に電話して、今対処してもらってるんだ」
と説明。それを聞いて、セシリアが
「それが懸命かと。朝倉先輩なら解呪が得意ですから、並み大抵の術は消せますわ」
と語った。セシリアも王立魔法学園で一時期は音姫の後輩だったから、音姫の得意分野は知っている。
「しかし、こんな人目につく位置に仕掛けるなんて……」
セシリアは道のど真ん中のマンホールに仕掛ける相手に、驚いているようだ。
義之は知らなかったが、一般人の中には時々、勘が鋭く、魔法陣が見える者が現れる事がある。
そういった人物には、時々魔法陣が反応し、発動してしまう事が過去に何回かあった。
以後、暗黙の了解として人の往来が激しい場所には展開しなくなった。
しかし今回の敵は、それを無視している。
それを考えると、相手は無作為かつ無差別に展開している。どんな種類の魔法かは分からないが、下手したらIS学園に甚大な被害が出る。
それだけは阻止しないといけない。
音姫も同じ考えだから、一生懸命に魔法陣を無効化しようとしていた。凄い集中しているからか、音姫の測頭部から汗が流れ落ちる。
それに気付いた義之は、ポケットからハンカチを取り出して、汗を拭いた。
音姫は集中してるからか、それに気付かずに無効化を続行した。
そして、どれ程経ったのか
「はぁ……何とか無効化出来た……」
と音姫が、疲労困憊という様子で座り込んだ。
「お疲れ様ですわ、朝倉先輩」
「これをどうぞ」
義之が音姫が倒れないように支えると、セシリアが飲み物、ヴィシュヌがタオルを差し出した。
「ありがとう……弟くんも、ありがとうね」
「いや、大したことしてない……で、無効化出来た?」
義之の問い掛けに、音姫は親指を立てた。
「何とか出来たよ……かなり複雑な術式だったから、解除に時間掛かったけどね」
「複雑ですか……朝倉先輩が言うなら、相当ですわね」
音姫の言葉を聞いて、セシリアは唾を飲んだ。
セシリアは魔法学園在籍時に音姫の後輩だったので、音姫の力量は義之やヴィシュヌより知っている。
音姫は元々の頭の良さと回転の早さから、解析と解除。そして反対呪文の構築を得意とする。
その音姫が、複雑と告げた。
セシリアからしたら、その事実だけでも恐ろしかった。
「それで、朝倉先生。どういった魔法か分かりますか?」
「……私の解析だと、地系と炎。それと雷を使った広範囲攻撃系……」
「三重属性……それ程の魔法を、あのサイズの魔法陣に……」
音姫の考察を聞いて、セシリアは苦々しい表情を浮かべた。基本、魔法陣というのは使う属性が増え、威力が増えるだけ大きくなる。
例外的なのは、以前にさくらとアイシアが使った星を使った魔法だ。
その時は、半径1kmという広範囲だ。
しかし、今回の魔法陣はマンホールと同じサイズにまで縮小されていた。
セシリアが知る三属性の魔法陣のサイズは、半径100m程だ。それをマンホールサイズにまで小さくしたのだから、相手の力量はセシリアには予想出来なかった。
「……今回の魔法陣から得られた情報、セシリアちゃんにも共有するから、セシリアちゃんから直接女王陛下に伝えてくれる?」
「それは構いませんが、朝倉先輩は?」
セシリアからの問い掛けに、音姫は立ちながら
「私は、さくらさんに伝える」
と答えた。