ゲイ・ボルクは勘弁してくれ!   作:かすかだよ

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感想欄で宝具について本文で補足するって宣っておきながらあんまり説明出来てません。ごめんなさい。


第九夜:戦士と王、力量は未だ底を知れず

 フェルディアはその場から跳んで、アイガが座っている御者台に舞い降りた。

 それをただ眺めていたアイガはもはや先ほどの怒りを露程も感じさせずに項垂れ、フェルディアにただ一言―――殺せ、とだけ呟いてそれ以降は黙りこくった。

 

 

「殺しゃしねぇよ」

「ひゃっ!?」

 

 

 その沈黙を破るためにフェルディアはアイガの隣に座り、躊躇うことなく彼女の背中に右手を回すのと並行して彼女の太ももの下に左手を通して即座に持ち上げ、自分の膝に彼女を乗せた。そして彼女の傍らに落ちていた手綱を空いた左腕で拾い、それを巧みに操ることで、戦車をオイフェ軍の方角に疾らせた。

 

 

 

 目の前で容赦なく五人を打ち斃したフェルディアに殺せ、と懇願したのにも関わらず、まさか抱きかかえられるとは思っていなかったのだろう。アイガは少女らしい悲鳴を上げて、咄嗟にフェルディアの胸元に抱き付いた。

 

 

「お、お前はまた私を辱める気か!?」

「ンな訳あるか。むしろ申し訳なく思ってるんだぞ」

 

 

 在りし日のフェルディア―――それはアイガの初恋だった。一世一代の覚悟を決めて臨んだ告白をあっさりと無碍にされたことに、彼女は怒り狂った。

 

 

 自分の『女』を捨ててでも憎きフェルディアを殺すと決意して―――オイフェの元に足を運ぶと家族に告げた。

 

 

 父に何を考えているんだ、と怒られた。母は泣きながら行かないで、と懇願した。敬愛する兄にも止められた。男なんて星の数ほどいる。だから割り切れと何度も言われた。

 

 

 それでも―――アイガにはフェルディアしか考えられなかった。

 

 

 絶対に後悔させてやる。ただそれだけの執念でオイフェの課した修行の日々を経て―――アイガはオイフェが誇る六人の勇士の一人に選ばれた。

 

 

 そして―――今日、あの日からアイガの心の中で渦巻いている感情に決着を付けるためにフェルディアを殺し、乏してやるのだ。

 

 

 それほどの覚悟で臨んだはずなのに。抱えられただけで廃れた心が満たされていき、鋼のような胸板に触れただけで、フェルディアを異性だと意識してしまう。

 

 

 頬は染まってしまっているが、その心中だけは悟られまいとアイガは吠えた。

 それに対してフェルディアは危ないから暴れんな、と穏やかに窘めてから口を開いた。

 

 

「このまま何もなければオイフェは負ける」

「だから、なんだ……」

 

 

 フェルディアは冷めた声音でオイフェ敗北を予言した。アイガはフェルディアに顔を見せまいと、そっぽを向きながらそう答えた。

 

 

「負けた女戦士の末路は悲惨だ」

「…覚悟の、上だ……」

 

 

 フェルディアは顔を顰めながら、この戦争が終わった後のアイガに降り懸かる悪意を口にした。

 それを聞いたアイガは気丈に振舞ってそう答えたものの、フェルディアを掴んでいる手は震えていた。

 

 

「女戦士の処遇はそいつに打ち勝った奴が決める」

「……何が、言いたい?」

 

 

 フェルディアはそっぽを向いていたアイガの顔を自分に向けさせた。もはや達観の域に達していたアイガは、特に抵抗することなくフェルディアにその身を任せていたので、それに従った。

 

 

「俺の所為でお前が戦士になったんなら―――その責任は俺にある訳だ」

「ま、まさかお前―――ッ!」

 

 

 フェルディアはアイガを更に自分に寄せ、フェルディアは自分なりのけじめの付け方を彼女に告げようとし―――アイガはそれを察して目を見開いた。

 

 

「お前は―――今日から俺のものだ。誰にも手なんて出させない」

 

 

 ―――俺がお前を、守ってやる。最後にそう付け加えたフェルディアは、アイガが返答を返すよりも先に戦車を加速させた。

 

 

「好きにしろ……。私は、勝者のお前に総てを委ねるだけだ……」

 

 

 静かに一筋の涙を流し、アイガはそう呟いた。そして絶え間なく流れ出てくる涙を誰にも見せぬように、彼女はフェルディアの軽鎧に顔を埋めた。

 

 

 時折漏れた嗚咽がフェルディアの耳だけに届き、戦車が駆ける音で掻き消えた。

 

 

 

 アイガの心を蝕んでいた狂気は―――もう、晴れていた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 クー・フーリンとオイフェが繰り広げる第二ラウンドは壮絶の一言に尽きた。

 

 

 両者が再度激突し、槍撃の応酬が三十を超えたあたりでクー・フーリンの興奮が頂点に達し―――理性が弾け飛んだ。

 

 

 髪の毛が逆上がり僅かに光を灯した。

 

 全身の筋肉が膨張し、体躯が数倍に膨れ上がった。

 

 青の戦装束の上からでも分かるほどに全身が赤黒く染まった。

 

 

 そしてを見たフェルグスが叫んだ。捻れの発作だ、と。

 それからの彼の行動は早かった。共に来させた戦士たちに城へ帰還し、大樽に水を汲んで持って来いと怒鳴り声で指示した。

 その様子から退っ引きならない事態だと悟ったのだろう。彼等はその場から弾けたように駆け出して王城へと向かった。

 

 

「……変身か。 だが―――それがどうした!」

 

 

 対してオイフェは怖じ気ることなく、クー・フーリンの懐に飛び込んだ。左手の黄槍で魔槍を牽制しながら突き進み、魔槍の刺突を―――心臓めがけて全力で放った。

 

 

 如何に模造品といえど、最強の魔槍であるゲイ・ボルクを原点に持つ槍だ。その強度は『軍神の剣』とさえ打ち合えるほどだ。

 そしてゲイ・ボルクのような呪詛は無くとも―――その刃には傷の治癒を遅らせる程度の呪いを持つ逸品だ。

 

 

 そんなものを心臓に突き刺したのだ。オイフェには殺した、という確信があった。

 

 

 だが、いざ魔槍を引き抜こうとして―――驚愕した。

 

 

「槍が抜けない、だと!?」

 

 

 オイフェが放った魔槍の刺突は、確とクー・フーリンを捉えていた。刃は胸に突き刺さり、傷口からは血が吹き出ていたが、数倍も膨張した上に血が止まって赤黒くなるほどに圧縮された筋肉の鎧が、魔槍の刃を締め付けていたのだ。

 

 

 驚愕しているオイフェはおろか、胸に突き刺っている魔槍すらも気にも留めずに、クー・フーリンは乱雑にオイフェの頬を打った。

 

 

 それだけでオイフェはゴム毬のように数度弾けながら地面を転がった。

 しかしオイフェも伊達に最強の一角に数えられていない。

 身体が地面から離れたタイミングで体勢を整え、鮭飛びの秘術を応用し、空気の壁を蹴ることで再度クー・フーリンへ黄槍での強襲を仕掛けた。

 

 

 それに対してクー・フーリンは癒えない傷など知ったことか、と防御を捨て、黄槍をその身で浴びながら肥大化した左手で剛拳を、右手で何もかもが先程とは比にならない魔槍を振り回した。

 

 

 オイフェが槍撃の合間に必滅の黄薔薇で与えた傷は、じわりじわりと少しずつではあったがクー・フーリンを削っていた。

 それでもクー・フーリンは歯牙にも掛けずに魔槍をオイフェに放ち続けた。それをオイフェは可能な限り躱し、無理だと判断したものを黄槍で逸らした。

 

 

 が、魔槍と黄槍では武器としての―――『格』が違った。

 

 

 魔槍ゲイ・ボルクは紅海でコインヘンに破れた波濤の獣クリードの頭蓋骨から造られた。

 対して黄槍ゲイ・ボウは、オイフェが妖精王マナナーン・マック・リールから一時的に借り受けたものだ。

 

 

 権能と言っても過言ではない因果逆転の呪いを宿したゲイ・ボルクと、強力とは言っても能力の範疇でしかないゲイ・ボウ。

 

 

 

 どちらが武器としてより多く神秘を宿しているのかなど、明白だった。

 

 

 

 槍の応酬が千を超え、オイフェが魔槍の防御に割いた回数が五十を超えた瞬間―――ゲイ・ボウが破壊された。

 

 

 目を剥くオイフェ。黄槍が破壊された為、クー・フーリンが負った怪我が(ベオーク)のルーンで回復した。

 得物を失ったオイフェが晒した隙を好機と見たクー・フーリンは、彼女の腹部に剛拳を叩き込んだ。

 

 

 

 あまりの威力にオイフェの身体がくの字に曲がり、口から血を吐き出し―――拳を振り抜かれ、地面に転がされた。

 

 

 足掻こうにも先の一撃で胸椎を砕かれた所為で、身動ぎをする度に激痛がオイフェを襲い、立つことさえままならなくなっていた。

 倒れ伏した彼女の元にクー・フーリンはゆっくりと歩み寄った。手にした魔槍に魔力を逆巻かせ、オイフェの息の根を絶たんと魔槍を振り翳した。

 

 

「俺の、勝ちだ……!」

 

 

 勝利を確信したクー・フーリンは、嗤いながら勝利宣言と共に魔槍を突き立てようとして――――――文字通り、冷水を浴びせられた。

 

 

 掛けられた冷水が―――即座に蒸発すると同時に、クー・フーリンは僅かに理性を取り戻した。

 

 

「――――――あ?」

 

 

 絶えず二杯目の冷水を浴びられた。

 それがクー・フーリンの血濡れた身体を洗い流しながら熱湯に変わり、彼は伏したオイフェと変貌している己の腕を見比べ、狼狽えた。

 

 

「なん、だ……? こりゃあ……!?」

 

 

 そして、狼狽えた隙に最後に三杯目の冷水を掛けられた。

 それがぬるま湯になり―――クー・フーリンは理性を完全に取り戻した。

 

 

「お、俺は……! 俺はこんな結末なんざ、望んでいねえのに―――!」

 

 

 如何に傷は治癒したといっても、失った血と消耗した体力は元には戻らなかったのだろう。その言葉を最後にクー・フーリンは地に膝をつき、倒れ込んだ。

 

 

 

 

 かくして、スカサハとオイフェの争いは幕を閉じた。

 

 

 

 一人の少女の心を救い、二人の英雄の心に遺恨を残して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェルディアは自らに向かって撃ち出された宝具の群れに怖じけず、躊躇うことなく一直線に、アーチャー目掛けて飛翔した。

 

 

 向かってくる宝具には剣や槍ばかりではなく、斧がある。槌も矛もある。さらには奇怪な形状をした武具もあった。

 そのどれもがフェルディアの身体と接触する度に、轟音が大気を揺るがし、夜空を吹き飛ばさんばかりの閃光が炸裂した。

 

 

 しかし、その宝具の絨毯爆撃と呼んでも差し支えない攻撃を浴びてなお、フェルディアは無傷で健在で、飛翔の速度を加速させた。

 

 

 アーチャーも宝具の弾幕を張り続け、フェルディアとの距離が縮まる度にその密度を増しているが、その悉くが槍撃によって防がれるか、フェルディアの身体に触れた瞬間に勢いを無くし(・・・・・・)、地へと落ちていった。

 

 

 そしてついにフェルディアはアーチャーの懐へと侵入し、長槍を金色の鎧―――の前に展開された大楯に叩き込み、その大楯ごとアーチャーを海上へと弾き飛ばした。

 

 

 水に濡れることを嫌ったアーチャーは、背後の空間に今までとは比較にならないほどの歪みを生じさせ、そこから姿を現した黄金の帆船―――天翔ける黄金の御座(ヴィマーナ)に着地した。アーチャーは舟に備わっている御座に腰を下ろし、アーチャーの思考を汲み取った輝舟は翡翠の両翼を唸らせ、思考速度でフェルディアへと駆けた。

 

 

 フェルディアは迫り来る輝舟に対して自らも向かうように飛翔。そして眼の前で僅かに上昇することで衝突を回避し、そのまま右足で輝舟を踏みしめ―――アーチャーへと跳んだ。

 

 

 それを見たアーチャーは、宝物庫にある膨大な財宝の中から『槍』にのみ焦点を絞り―――選出。そのまま該当したものだけを虚空に顕現させ、射出した。

 それでもフェルディアは足を止めることなく、殺到する槍を打ち払いながら前進し―――何百と射出される槍の中に紛れた数本に脅威を見出し、初めて(・・・・)回避を取り、左翼部に着地した。

 

 

「押し切れると思ったが―――そうは問屋が卸さねえか、英雄王(・・・)

「漸く我が御名に辿り着いたか。だが、貴様の武勲に免じ、その不敬を赦そう」

 

 

 フェルディアは一頻り愛槍を振り回し(・・・・)―――その切っ先をギルガメッシュへと向けた。

 

 

「俺の身体(宝具)―――妖精の鉄甲花(フィル・キャルス)を打ち破る算段はついたか?ギルガメッシュ」

「戦士ながら豪勢な奴よな。ゲイ・ボルク、或いは生物を由来にする宝具でなければ傷さえ与えられんとはな」

 

 

 ギルガメッシュに準備が整うまで待ってやろうか、と告げるフェルディア。

 それに対しギルガメッシュは笑いながらフェルディアの宝具―――その攻略法を口にした。そしてどうだ、と言わんばかりの態度で答えを催促した。

 フェルディアが粗方は合っている、と返せば、彼は笑みを深くした。

 

 

 そして、ギルガメッシュは傍らに黄金の波紋を波打たせ、一振りの剣を出現させるとその剣を引き抜いた。

 その剣の銘は―――原罪(メロダック)

 それは世界各地に伝わる選定の剣の原点だ。

 

 

「これよりは―――本気の貴様が、エアを拝謁するに値する強者か見定めてやろう」

 

 

 ギルガメッシュはその剣で文字通りフェルディアを選定しようとしているのだ。

 自らの象徴である乖離剣エアを抜くに値する相手であるかどうかを。

 

 

「……舐めやがって。王が戦士に張り合うつもりか……?」

 

 

 ピキリ、と、フェルディアの側頭部から音がした。

 先ほどのまでの飄々とした空気は消え失せ―――目を見開き、フェルディアの心情を表すように朱色の魔力が吹き荒れ、背中のマントをはためかせていた。

 

 

「お前が剣で挑むなら―――俺も同じ土俵で相手してやるよ……!」

 

 

 フェルディアはそう言うと、自らをランサーたらしめる愛槍を消すと、空いた右手に黄金の剣を顕現させ、踏み込みで輝舟を揺らしながら駆けて―――剣を振り下ろした。

 

 

「どうした英雄王!俺を見極めるんじゃなかったのか!」

 

 

 フェルディアとギルガメッシュの剣戟は、終始フェルディアが主導権を握りながら展開していた。

 けれど、それは当然のことだった。フェルディアはアルスター・サイクルという一つの神話で頂点に立った生粋の戦士だが、対してギルガメッシュとて武勲はあるが―――彼の本質は王だ。戦士ではない。

 

 

 しかし、ギルガメッシュをただの王と侮るなかれ。

 

 

 彼は人類史上最古の純正の英雄であり、彼にとって後世の英雄など自らの活躍と伝承から派生・発展した、自らの後塵を拝する贋作に過ぎないのだ。

 英霊にして、対英霊戦における絶対強者。‘‘全ての英雄たちの王’’の名をいただくのは、この世界のどこを見渡しても、天地をおいてこの我ギルガメッシュただ一人!

 この聖杯戦争では白兵戦に不得手とされる弓兵として召喚されたが―――それ以前に、後続者に遅れを取っているという事実が彼には赦せなかった。

 それに―――逆境で打ち勝ってこその英雄。それが出来ずして何が英雄王か!

 

 

「エヌルタの灰油よ!」

 

 

 天候と嵐の神から与えられた加護が、ギルガメッシュの膂力を上昇させた。それは一瞬とはいえフェルディアの筋力値に迫るほどで、瞬間的に押し負けたフェルディアに僅かにたたらを踏ませた。

 

 

「て、テメェ―――ッ!」

「天の鎖よ!」

 

 

 フェルディアが屈辱だと顔を歪めると鍔迫り合っていたギルガメッシュは笑みを浮かべながら後方に跳び、その傍らから金を主体に黒い模様が描かれた鎖標が先端に通してある鎖がフェルディアの左手に絡み付き、まるで鎖そのものが意思を持っているかのようにフェルディアを引っ張り、強引に船外へと落とした。

 

 

「我は貴様を認めているが―――しかし、墜ちよ!」

 

 

 輝舟から振り落とされると同時に鎖が宝物庫に収められ、フェルディアの上空に波紋が揺らめき―――大楯が射出され、それを受けたフェルディアは、飛翔する間も無く倉庫街へと叩き落とされた。

 

 

「はッ!墜ちるのは―――お前もだ!」

「なんだと?」

 

 

 その言葉に合わせたかのように、輝舟の左翼部が根元から爆ぜた。

 如何に神代に生み出された空中戦艦と言えども、主翼を失えば墜落は必至。

 ギルガメッシュの脳裏に先ほど愛槍を振り回していたフェルディアが浮かび上がり―――その際にルーンを描かれたと悟り、歯嚙みするも天翔ける王の御座(ヴィマーナ)の即時修復は不可能と判断し、躊躇うことなく空中にその身を躍らせた。

 

 

 そして、フェルディアは倉庫群の中に消え、ギルガメッシュは初戦の広場に着地した。

 

 

 ギルガメッシュは後方に王の財宝を展開し、姿を現わすであろうフェルディアに備えた。

 それから数秒たった瞬間、ギルガメッシュ目掛けて光に包まれた四つのコンテナが擲たれた。

 それに反応して無数の宝具が射出され、コンテナは何度か耐えたものの、爆散し―――爆炎と宝具を縫うような精度で放たれた一振りの宝剣が、ギルガメッシュの頬を裂いた。

 

 

「……なんだ。掠っただけか」

 

 

 ギルガメッシュが血を拭っていると、フェルディアが広場に姿を現わした。軽鎧が砂埃で僅かに汚れているが、それでも怪我を負った様子はなかった。

 そのことにギルガメッシュが背後にこれまで以上の宝具を出現させ、いざ放とうとした瞬間―――こめかみに青筋を浮かびさせ、その美貌を凶相に変えた。

 その怒りは四騎の英霊が集っていた時以上で。文字通りの怒髪天を衝く、を体現していた。

 

「祭が佳境を迎えるというのに―――この我に退けと申すか……!身の程を弁えろよ、時臣……!」

 

 

 おそらく令呪を使われたのだろう。だが、ギルガメッシュにとって令呪など歯牙にもかけない代物だ。宝物庫にはそういった呪いに対する宝具も山のようにある。現に彼は令呪による命令を破却しようとしていた。

 それでもギルガメッシュが攻撃を取り止めたのは、彼が自らの在り方を誇りに思っているからだ。

 ギルガメッシュにとって、マスターは魔力という供物を捧げる臣下に位置している。王が臣下の諫言に耳を傾けるのは摂理。だからこそ彼は遠坂時臣の念話を傍受し、彼の意見を聞いていた。

 それでも臣下の領分を履き違えた分不相応の態度を取られたら、ギルガメッシュとて不快に感じるものだ。故に彼はこの戦闘が終わった後に何らかの形で時臣を罰する、と決め、念話をシャットアウトしようとして―――

 

 

「怒りに塗れたお前と争っても、先の焼き直しより酷い茶番になるだけだ。今日は手打ちにしようぜ」

 

 

 横から掛けられたフェルディアの言葉で冷静さを取り戻し、時臣からの諫言を受け入れた。

 

 

「……よかろう。それは我とて望まぬところだ。……命拾いしたな、時臣」

 

 

 多少溜飲を下げたのか、ギルガメッシュはフェルディアに背を向け、黄金の粒子を発しながら霊体化を開始した。

 

 

「次に我等が牙を交えるのは、有象無象共を残らず間引いた後だ。……それまでに現世に浸かって鈍った精神の錆を落としておくがいい」

「ああ。肝に銘じておく」

 

 

 その言葉を最後にギルガメッシュは倉庫街から完全に姿を消した。

 それを知覚したフェルディアもまた、霊体化を行い倉庫街を後にした。

 

 

 

 

 倉庫街に刻まれた損傷が、両者の隔絶した力量を雄弁に物語っていた。―――聖杯戦争はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 




Q:英雄王、選定はどうした?

A:たわけ。サービスタイムは終わったのだ。

Q:ヴィマーナはどうなったん?

A:倉庫街に墜落。被害の皺寄せはガス会社に。

六千文字を全選択→ペーストで消した時は発狂するかと思いました。


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