ゲイ・ボルクは勘弁してくれ!   作:かすかだよ

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お久しぶりです(前科一犯)
気が付いたらこんな時期になってました…
取り敢えず前回が神話編だけだったので今回は聖杯戦争パートです。
キャラ崩壊を含みます。

キ ャ ラ 崩 壊 を含みます


第十四夜:黒騎士、始動

 冬木市ハイアットホテル最上階のスイートルームにて、一組の男女が向かい合うようにソファに腰を下ろし、身を沈めていた。

 

 

 一人は燃えるような赤い髪とは裏腹に、凛洌な氷を思わせる佇まいをした美女、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。普段はまるで女帝の風格を醸し出している彼女に似つかわしくないが、はしたなくない程度に息を切らしながら、その額から玉のような汗を滲ませていた。

 その対面に座るのは、時計塔の魔術師にして君主(ロード)。九代続く魔術の名門、アーチボルト家の頭首であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。

 ソラウの許嫁でもある彼は平然を粧おっているが、その手に刻まれた令呪を撫でながら疲弊を誤魔化すように深い息を一度吐いた。

 

 

「ねぇ、ケイネス。今日私たちがした事は意味があったのかしら?」

「ああ、当然さ。……ソラウ、君も昨夜の破壊痕を見ただろう?」

 

 

 辺りに乱雑と散らばった葉脈のような黒い筋が幾重にも絡みついた魔術礼装の残骸を横目で眺めながらソラウは口を開いた。ケイネスはその疑問を肯定しつつ、目を伏して昨夜に勃発した戦闘を想起する。

 

 

 

 待ちに待った第四次聖杯戦争の開幕。最高傑作の魔術礼装を懐に、神秘の隠匿など知ったことかと言わんばかりに魔力を垂れ流す不埒な輩を誅罰せんと臨んだ初陣。その結果はケイネスの認識を逆転させた。

 

 

 最優のクラスに恥じぬステータスを誇ったセイバーを捻るように圧倒したランサーのサーヴァント、フェルディア・マク・ダマン。

 そして続けざまに繰り広げられたフェルディアと黄金のアーチャーの激闘。異常な数の宝具を湯水の如く使ったアーチャーの絨毯爆撃と絶死の爆撃を無傷で過ごしたフェルディアの異常な頑健さ。

 

 

 それを間近で眺めていたケイネスは傍らにその二体のサーヴァントを凌駕するステータスを持ったバーサーカーが居たが、まるで生きた心地がしなかった。

 彼にとって第四次聖杯戦争は自らの箔付け程度に過ぎなかったが、あの激闘を見て、最早そんな悠長な事を言っている暇などないのだと嫌でも理解させられた。

 

 

 だからこそケイネスは可及的速やかに倉庫街から撤退し、拠点であるホテルに帰還した直後に君主(ロード)としての伝で時計塔に聖杯戦争の参加者についての情報を要求し、最後まで彼のプライドが許せなかったが、万が一の敗退を考えて、本国への切符を一つだけ用意させた。

 その後は時計塔から送られた情報に目を通しながらほぼ丸一日を費やしてバーサーカーの宝具の試運転を行っていた。

 

 

「この聖杯戦争で生き残るには魔術師同士の戦いに持ち込むしかない。…………本音を言えば、君の分の完成品(・・・)も用意したかったがね」

「それこそ無い物ねだりね。成功しただけでも充分よ。それよりもバーサーカーへの魔力供給は5:5じゃなくていいの?」

「今でも充分助かっているよ。…………それに、今はただでさえ疲れているんだ。今日はもう寝て、その話は明日にしないか?」

 

 

 ぎこちない笑みを浮かべながら休憩を提案したケイネスを見てソラウが笑った。ケイネスの拙い笑みがツボだったのか、軟化したケイネスの変化を感じたのかは定かではない。が、この日、ソラウは初めてケイネスに笑顔を見せた。

 

 

「──―そうねっ。おやすみなさい、ケイネス。また明日、ゆっくり話し合いましょう?」

 

 

 思わぬ不意打ち(笑顔)に頬を赤らめたケイネスを揶揄うようにソラウがソファから立ち上がった。

 気の抜けていたケイネスが堪らずビクッ、と肩を上げたのを横目で見ながらソラウが奥の寝室へと向かう。

 

 

「ねぇ、ケイネス。──―貴方、今みたいな方が素敵よ」

 

 

 そう言い残してソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは寝室にその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 灯り一つない部屋を夜天に輝く月が僅かに照らす中、ケイネス・エルメロイは全面ガラス張りの窓から冬木の街並みを見下ろしていた。

 

 

「──―出てこい。バーサーカー」

「…………」

 

 

 狂った素振りを一切見せずに狂戦士の枠に収められた英霊は打てば響く速やかさで、ケイネスの傍らに実体化した。

 

 

「ランスロット・デュ・ラック。私は貴様が嫌いだ」

 

 

 開口一番の悪態。仕える主人からの罵声に対してバーサーカーは躾けられた闘犬のように身動ぎ一つしない。それはまるで、ケイネスの罵声を受け入れているようにも見えた。

 

 

 

「高潔な騎士を謳いながら仕えた王の妃に手を出したその業の深さ──―召喚した時、貴様が狂っていて私は安堵した」

 

 

 サー・ランスロット。彼はブリテンの最強の騎士、円卓の騎士の中で最強と謳われ、アーサー王の妃、グネヴィアに不貞を働いたブリテン崩壊の片棒を担いだ裏切りの騎士。

 正常な価値観を持つ人間ならば好意的な印象を抱くことはないだろう。ケイネスもその一人だ。

 

 

「貴様の実力は認めよう。だが、私は獣を傍らに侍らす趣味はない」

 

 

 ケイネスは口を動かしながら懐に手を伸ばし、一枚の紙を取り出した。そして、マスターとしての特権である透視能力を使い、バーサーカーを視た。

 そこには幸運を除いたステータスが軒並みAという規格外な能力値と無窮の武練と文字が浮かんでいた。

 

 

「そう言えば貴様、やけにセイバーに執着していたな」

「ah…………」

 

 

 ケイネスの問い掛けに、静かにバーサーカーが呻いたが、それに頓着せずケイネスが持っていた紙がぐしゃり、と握り潰された。

 その紙に記された情報をソラウは知らない。昨夜から密かにケイネスが隠し持っていたそれには、聖杯戦争に参加している一人の男の来歴が事細やかに記されていた。

 

 

 

 その男の名は──────衛宮 切嗣。通称、魔術師殺し(メイガス・マーダー)と呼ばれる魔術使いにして、アインツベルンに雇われた傭兵だ。

 

 

 

 これまでに多くの魔術師を殺害してきた暗殺者である彼の魔の手に掛かった魔術師の死体は魔術回路がズタズタに引き裂かれている、という共通点がある危険人物だ。

 ただでさえ明確な脅威が矢面に二体も存在しているというのに、これ以上ソラウを怯えさせたくが無いためにケイネスは敢えてこの情報を伏せていた。

 

 

「自儘に連れて来た彼女が傷付いたら、私は──―自責の念で死んでも死に切れんッ」

 

 

 紙を握り潰していた手から血が垂れた。紙が血に染まっていくのを気にする事なく、ケイネスは拳を握る力を強めていくのを止められなかった。

 

 

「バーサーカー。お前の中に騎士としての誇りが生きているのなら、ソラウを助けてくれッ。私だけでは彼女を庇う事すら──―ッ」

 

 

 ケイネスの手に、漆黒の籠手が添えられた。その無骨な籠手には似つかわしくない、労わるように手を包まれてケイネスの篭っていた力がゆっくりと霧散していく。

 それを理解したのか黒騎士はケイネスから離れ、失敗作の中から剣状の魔術礼装を拾い、それをケイネスに手渡した。

 バーサーカーの行動に目をパチクリしていたケイネスだったが、黒騎士が己の前に静かに傅いた事で全てを理解した。

 

 

「まさか、叙任式のつもりか……?」

 

 

 バーサーカーは動かない。構えを解く事はなく、呻きすらしない。その微動だにしない姿にケイネスは絶対に動かない、という鉄の意志を感じた。

 

 

「馬鹿者が。こんなガラクタでは、みっともないだろう」

 

 

 そう言いながらケイネスは傅いたランスロットの左肩の上に剣の腹を当てた。

 伏していた黒騎士の面が主人の許しを得て上がる。その漆黒の甲冑から覗く赤い眼光が黒騎士を見据えるケイネスの視線と交差する。

 

 

「サー・ランスロット。私に今生のみ騎士としての忠誠を誓うか?」

「ye……s」

 

 

 ケイネスの口上に、拙いながらもバーサーカーは応えた。添えられていた剣が上げられ、ケイネスの懐に収納された。

 バーサーカーは立ち上がり、ケイネスは黒騎士に背を向けて歩き出す。

 

 

「──―付いて来い、我が騎士。お前の実力、知らしめてやれ」

 

 

 その言葉を聞いた黒騎士は何も言わずに霊体化を開始した。

 裏切り者の烙印を押された不忠な己を、狂気に染まる事で目を背けた己に機会を与えてくれた今生の主人に報うとしよう。

 千載一遇の好機だったが、我が望みは後回しだ。この身の願望は正当な手段で得るとしよう。

 

 

 

 

 

 ただ、この夢幻の結末がどうであろうが──―消える間際に聞いたその言葉を、黒騎士()は忘れる事は無いでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、青髭の旦那ぁ。もう二日になっちゃうよ。いい加減、動き出さねぇ?」

 

 

 悪臭が漂う真っ暗な下水道で、ナイフを弄びながら殺人鬼、雨生 龍之介が不満の声を漏らした。

 アインツベルンの森でキャスターがフェルディアから命からがら逃げ出して既に二日が経っていた。キャスターは隻腕となり、魔導書が半分焼かれるという痛手を被ったが、肝心の魔導書はほぼ再生を終えつつあった。あと半日も経たずに魔導書は完全復活を遂げるだろう。

 

 

 取り敢えずは幸先の良いキャスターと打って変わり、龍之介の心情は不満しかなかった。

 彼とて何日も警察から逃げ続けているから馬鹿じゃない。キャスターの言い分は理解できるし、納得している。しかし、理性では理解できても本能が我慢できないのだ。

 

 

 以前の彼だったら一日や二日程度、我慢できていた。寧ろ何日も続けて『作品』作りを決行していたら既に彼は警察に捕まり、投獄されているだろう。

 だが、彼は劇毒(キャスター)と出逢ってしまった。

 キャスターのお陰(所為)で生きるか死ぬかの瀬戸際を易々と犯せるようになってしまった。

 そのため、今までは出来なかった事が出来るようになった事でインスピレーションが湯水のように湧いて湧いて悶々とならざるを得なかったのだ。

 

 

 せめて手元に『作品』があれば慰めになったであろうに沢山あった『作品』たちは何処ぞの誰かにアトリエごと燃やされてしまった。

 以前の下水道と異なって何一つない殺風景な場所にいる所為で余計寂しく感じてしまう。

 

 

「耐えるのです、リュウノスケ。今は雌伏の時。あと一夜過ぎれば、思う存分に最ッ高のCOOLを楽しめるのですから」

「けどさぁ、昨日から旦那はそればっかじゃん。なら、俺にも片棒担がせてよ」

「それもそうですね。では、リュウノスケ。耳を拝借しますよ」

 

 

 

 キャスターがおどろおどろしい笑みを浮かべながら龍之介を諭すも、不満が溜まっているのか龍之介は身を乗り出してキャスターに躙り寄り、肩を組んで構うように呟いた。

 龍之介の言い分に納得したのか、キャスターは親友と悪戯を企む悪ガキのように笑みを深くしながら龍之介の耳元で囁いた。彼の脳裏に描かれた邪悪で、醜悪な一端を。

 

 

 

「それ──―すげえCOOLだよ旦那! 俺、そんな事浮かびもしなかった!!」

「そうでしょうそうでしょう! 今、耐えた後に聞く凄惨な悲鳴や歪む聖処女の顔は──―この世の何よりも甘露な喜悦を我等に与えてくれる事でしょう!!」

 

 

 

 

 

 下水道に悪魔の哄笑が木霊する。

 人々の平穏の水面下で彼等の凄惨な計画は胎動を始めた。

 それに人々は気付かない、気付けない。

 

 

 

 

 

 

 何故なら、幸せが壊れる時はいつだって血の匂いが伴うからだ。そして皮肉な事に血の匂いが漂ってから人々は幸せの倒壊に勘付くのだから──―。

 

 

 

 

 一人の男の覚悟や悪魔たちの邪悪を引っ提げて第四次聖杯戦争四日目の夜が幕を開く。

 

 

 

 

 

 




愛に目覚めたケイネス。ベジータかな?
久し振りの執筆なので拙いのはご了承下さいm(_ _)m
リハビリがてらに投稿した小説もございますのでよかったら其方も是非。
余談ですが、嫁鯖のエルキドゥが宝具3になったので僕は幸せです。
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