ゲイ・ボルクは勘弁してくれ!   作:かすかだよ

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第十五夜:黒騎士の暴威

 

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは知る由も無いが、昨夜にアインツベルンの森で起きた戦闘は、まったくの僥倖だった。

 普段はアインツベルン城を中心に森を囲むように張られている結界は、キャスターによって緩められ、その後、追い打ちのように放たれたフェルディアの宝具によって決壊していた。

 当然、セイバー陣営がそれを良しとする筈もなく、再度結界は張られはしたものの、速さを優先した突貫工事であった為、些か粗が目立つ粗末な代物だ。

 

 

 そして本来の結界なら兎も角、そんな杜撰な結界を術者に悟られる事なく改変する程度、ケイネスにとって造作も無いことだ。

 ケイネスは結界をものの数分で突破し、バーサーカーを伴って森の深部へと踏み込んだ。

 

 

 だがケイネスが着実にアインツベルンの拠点の中枢である城に近付いているのはセイバーのマスターにも露見しているだろう。

 その証拠に視界を阻む草木で巧妙に隠されてはいるが、次第にその数を増している監視カメラの無機質な瞳がケイネスとバーサーカーを見つめ続けている。

 最初は見つけ次第、バーサーカーに破壊させていたが、今では設置された場所を把握する程度で済ましていた。

 

 

 

 あまりにも魔術師らしからぬ大胆な行為であったが、ケイネスは問題ないと考えた。

 これからケイネスが挑むのはフェルディアやアーチャーのような真っ当な英雄といった強者ではない。相手は偽りのマスターを拵え、安全圏から自身の手で敵を射殺する暗殺者だ。

 生い茂る木々で視界が悪い上に、傍らにバーサーカーを侍らせてる現状、恐らくは有利な場内に足を踏み入れるか、セイバーと接敵するまでは此方の動向を探っていると考えてケイネスは確固たる足取りで城を目指した。

 

 

 ふいに視界を阻んできた木々が消え、ケイネスの目の前に荘厳な石造りの城が現れた。そして、ケイネス達の入城を阻止する為にセイバーとアイリスフィールが門の前で立ちはだかっていた。

 

 

「人の敷地に無断で立ち入るなんて、時計塔の教授(ロード)の品位が疑われるわよ」

 

 

 対峙して開口一番、アイリスフィールが舌戦に持ち込むべく口火を切った。なるべく貴族であるケイネスが不快に思うように選出されたそれは、普段のケイネスならば乗じていただろう。だが今はそんなもの(己の誇り)よりも大切な者を守る為に赴いたのだ。

 

 

 敵の思想など、知ったことか。

 下らない舌戦に応じるつもりなど毛頭ない。

 ケイネスは惜しげもなくアインツベルン陣営のアキレス腱を口にした。

 

 

 

 

 

「全ての陣営を騙そうとする胆力は認めるが……侮ってくれるなよ、影武者が」

 

 

 影武者。その単語を耳にした瞬間、アイリスフィールの顔が硬直する。驚愕の声は上げなかったが、時として沈黙ほど雄弁なものはない。その表情が、全てを語っていた。

 そして、ケイネスはアインツベルンを畳み掛けるべく、彼等が最も恐れていたことを確信めいた口調で吐露した。

 

 

 

 

 

影武者(これ)も『魔術師殺し(メイガスマーダー)』──―エミヤ・キリツグの策略なのだろう?」

 

「──―バーサーカーを倒して! セイバーッ!!」

 

 

 弾けたようにアイリスフィールがヒステリーめいた叫びでセイバーにバーサーカーの抹殺を命じる。

 マスターの詐称に悪名高き『魔術師殺し』の存在を教会や他陣営にでも告発されたらアインツベルンは袋叩きにされる事態に発展し得る。それだけは避けねばならない。

 それはセイバーも同意なのだろう。彼女は打てば響く速さでバーサーカー諸共ケイネスを斬り伏せんと突撃し、不可視の剣を横薙ぎに振るった。

 

 

 だが、不意打ちめいた強襲は鉄と鉄がぶつかる音と共に失敗に終わる。バーサーカーの漆黒に染まり、赤い脈が走った長剣がセイバーの不可視の剣を防いだのだ。

 

 

 競り合うバーサーカーとセイバー。この小手調べで優位に立ったのは圧倒的なステータスを誇るバーサーカーだった。セイバーも負けじと魔力放出で自身にブーストをかけるが、圧倒的な膂力に押し負けている。

 セイバーを捩じ伏せんと長剣を押し付けるバーサーカーと体勢を崩すまいと足掻くセイバー。

 その膠着状態を崩す為にケイネスはただ一言、バーサーカーとだけ呟いた。

 

 

 それだけで主人の意向を悟ったのだろう。バーサーカーは躊躇うことなくケイネスから魔力を吸い上げる。途端、更に力を増したバーサーカーとの接近戦を悪手と判断したセイバーは蹈鞴を踏みながら後退する。

 

 

 

 瞬間、セイバーの脳裏に振るわれた豪腕に首をへし折られた己の姿が浮かび上がる。

 彼女は未来予知にも等しい直感に即座に従った。バーサーカーの腕の軌道に合わせて剣の腹を置き、裏面に左手を添えた反撃のない完全な防御体勢を取った。

 

 

 

 

「ッ……くッ!?」

 

 

 バーサーカーの腕と不可視の刀身が激突した瞬間、あまりの威力にセイバーの身体は宙を舞っていた。

 目まぐるしい速度で切り替わる視界と移り変わる光景。痺れる両腕。未だに全身を巡る凄まじい衝撃。

 そんな状態でまともな着地などできるはずもなく、セイバーは木製の門を突き破り、転がるように城内の石床に叩き付けられた。

 

 

「なんて、威力……ッ」

 

 

 

 如何に狂化による補正があるとはいえ、自身の全霊でも太刀打ちできないことに倒れ伏しながらセイバーは歯噛みした。

 痺れが治ってきた両腕に力を入れて身体を持ち上げようとした瞬間、効きはしないとはいえ夥しい数の金属の礫が四方からセイバーに浴びせかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり侵入経路には罠が設置されていたか」

 

 

 セイバーが吹き飛んだ直後、城内から響き渡った轟音と炸裂音を耳にしたケイネスは何ら驚くこと無く、感想を口にした。

 

 

 

「──―舞弥さん、お願い!」

 

 

 ケイネスの知らぬ名を叫びながらアイリスフィールはコートの袖口から針金の束を抜き放つ。そして、それに続くように右方向の木陰から銃器を構えた女性が飛び出した。

 

 

Shape ist leben(形骸よ、生命を宿せ)!」

 

 

 二小節の詠唱。媒体は金属。アインツベルンの真骨頂たる貴金属の操作か、と悟ったケイネスが魔術を妨害せんと動いた瞬間、舞弥の構えたキャレコが火を吹いた。

 銃口から飛び出した銃弾の雨をバーサーカーは己が身を以ってケイネスを守りながら舞弥の鎮圧を成し、鷹を模したアイリスフィールの魔術はケイネスのガンドによって打ち砕かれた。

 

 

「殺しはせん。ただ、余計な横槍を入れられるのも面倒だ。暫し、眠ってもらうぞ」

 

 

 

 頼みのセイバーは敵わず、舞弥は意識を失い、魔術は通じない。失意に暮れるアイリスフィールにケイネスは興味を失ったのか、暗示を掛けようと手を伸ばす。

 

 

 

 

「──―──―其処を退け、魔術師ッッ!!」

 

 

 その瞬間、赫怒の相貌を浮かべたセイバーが城内から飛び出し、アイリスフィールからケイネスを隔てるように不可視の剣を振るうが、バーサーカーの長剣が割って入る。

 

 

 バーサーカーとケイネスを引き離す為に直感に従い、セイバーは渾身の一撃を黒騎士に叩き付けた。

 

 

「アイリスフィール、退がって下さい!!」

「え、ええ……」

 

 

 初めて聞いたセイバーの叱咤の声に狼狽えながらもアイリスフィールは立ち上がり、城壁へと駆け出した。

 

 

 

「バーサーカー。最悪、魔剣の開帳も許す。存分に暴威を振るうがいい!!」

「…………ar()…………ur()……ッ!!」

 

 

 対してケイネスは懐から一つの魔術礼装を取り出して、バーサーカーに全力での戦闘を命じる。そして、ケイネスはセイバーとアイリスフィールの傍らを通り、アインツベルン城に足を踏み入れる。

 今生の主人からのオーダーを承ったバーサーカーは全身から漆黒の魔力を吹き荒れさせながら群青のセイバーへと突撃した。

 

 

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