(ノ・ω・)ノ (最新話) ポイ
彡サッ!
短いです。 ごめんなさい。
玄関先で繰り広げられたささやかな問答を経て、雁夜は十年前とは違い、陰鬱さを感じさせない間桐邸の応接間でソファに腰を据えていた。
「カリヤ。 飲み物は茶で構わないか?」
「あ、ああ……」
フェルディアは雁夜と差し向かいに座りながら朝の内に沸かしておいたお茶をコップに注ぎ、雁夜に手渡した。
雁夜は困惑しながら受け取り、中身を一息に飲み干して、未だ不明の現状の質疑応答を行うべく口火を切った
「……桜ちゃんの現状を詳しく聞かせて貰うぞ」
「本当にビャクヤから何も聞いてないのか」
呆れたような表情を浮かべ、はぁ、と溜息を吐いて気になることを聞いてくれ、とだけ答えた。
「桜ちゃんは何処だ」
雁夜は最初に間桐の養子に出された桜の所在を問うた。 間桐臓硯の執念に無関係の少女を巻き込ませない為に間桐邸に足を運んだのだ。 なによりも優先して聞かねばならないことだった。
今、相対しているのが雁夜が嫌悪する間桐臓硯より強大で、人を凌駕した存在なのは、魔術に対して多少の見聞がある雁夜は承知している。
それでも、怖じる気持ちは毛頭なかった。 たとえ殺されるとしても最後まで抗うと覚悟を固めていた。
それに、間桐臓硯もフェルディアも雁夜が挑んだところで欠片ほどの勝算もないという点ではなんの違いもないのだから。
「サクラなら学校に通っている」
詰問調になっている雁夜の焦りに気付いてないのかフェルディアは肩を竦めながら、なにを言ってるんだ、とでも言わんばかりの態度でそう答えた。
その答えに雁夜の中で怒りが湧き上がった。
そんな覚悟を六歳の少女が固めれるはずがない。 姉の凛より奥手で、いつも凛の後についていたか弱い桜なら尚更だ。
それに、聖杯戦争は他の六組を蹴落として、最後の一組だけが願いを叶える儀式だ。 英雄も人だ。口では高潔を語ろうが、願望成就の為なら心の中で妥協をするに決まっている。 勝ち残るなら桜より臓硯の方がうってつけだろう。 だから目の前の
そう判断した雁夜は桜を救う術は交渉しかない、と言い聞かせることで怒りを飲み下し、いたって冷静のように振る舞った。
「臓硯を出せ。 お前じゃ話にならない」
雁夜が臓硯を憎悪しているように臓硯も雁夜を嫌悪している。 自分が間桐邸を訪ねれば必ず姿を見せると思っていたが、臓硯が一向に現れないのだ。 自分を無視して調整に専念するほど桜の資質が優れているのかも知れない。 なら、調節は魔術師らしく念入りに行なっているはずだ。 目の前のサーヴァントに構っている暇なんてない。 なんとしても臓硯を交渉の場に引き摺り出さねばならない。
そのために雁夜が臓硯と交渉がしたい、とファルディアに話しかけるより先に―――フェルディアが口を開いた。
「間桐臓硯なら殺した」
「―――は?」
その言葉を聞いた雁夜の思考が止まった。
「ち、ちょっと待て! 今、殺したって言ったか!? あの吸血鬼を殺したのか!?」
時間にして十数秒経ち、それを聞いた雁夜は慌てふためいた。
それも当然だ。 フェルディアは雁夜の目的を根幹から覆したのだから。
そして、それ以前に臓硯は冷酷無比かつ強大な魔術師だ。 語るもおぞましき外法によって延命を重ね、何代にも亘って間桐家に君臨してきた不死の魔術師。 文字通り現代に生き残った正真正銘の妖怪だった。
それをまるで友達に昨日の夕飯なに食べた?とでも軽く尋ねるような調子で告げられたのだから、雁夜が慌てふためくのは当然のことだろう。
「奴の本体たる核を槍で貫いてやった」
ソファから身を乗り出しつつある雁夜に対して、フェルディアは槍を実体化させ、淡々と答えた。
それを聞いた雁夜は身を引き、ソファに座り込み、道理で臓硯が姿を見せず、蟲の鳴き声さえも聞こえないのか、と納得した。
「それじゃあ……桜ちゃんは、無事なんだよな…?」
縋るような声色だった。
雁夜の不安の元凶である臓硯が死んだとはいえ、間桐の毒牙が桜に影響している可能性もあるのだ。
もし、僅かでも桜が嬲られていたら母親の葵や凛にどんな顔をして今後会えばいいのだろうか。
もし、葵と凛がそれを知ってしまったら悲しむだろう。
葵を悲しませない為に間桐邸に足を運んだ雁夜にとって、臓硯の死以上に重要なことだった。
それゆえ、事の顛末を唯一把握しているフェルディアに尋ねた。
「ああ。 傷一つない健康体だ」
「そうか……。 なら、よかった…!」
強張っていた全身の筋肉が解れる感覚と共に、雁夜はより深くソファに座り込んだ。固めた覚悟は無為になったが、自分では桜を救えない可能性のほうが高かった。
それなら、確実に救われた今を純粋に喜ぶべきだ。
「……残念な話だが」
「なんだ?」
安堵に包まれていた雁夜に、フェルディアは冷水を浴びせた。
「サクラは聖杯戦争に参加するつもりだ」
「なんで桜ちゃんが…!?」
フェルディアは手で顔を覆って、雁夜は魔術と無縁だった桜がなぜ聖杯戦争について知っているのか、ましてや参加するのか問いた。
「サクラは被害者だ。 教える必要があると判断して、俺が全てを話した」
「そんな……どうして…っ」
フェルディアの答えに雁夜は顔を悲痛で歪めた。 万能の願望機を巡って争う魔術儀式なんかに幼い一般人の桜が参加してしまえば、何も出来ず、無残に殺されてしまうだろう。
魔術師は一般人とは違う価値観を有している。 悲願のためなら少女の一人や二人、息をするかのように殺せるはずだ。
何としても、目の前のサーヴァントに辞退して貰うべきだ。 その為に口を開きかけ―――
「俺とてサクラを参加させるのは不本意だ」
「な、なら……!」
フェルディアの言葉に雁夜は光明を見た。が、続いた言葉に諦めざるを得なくなった。
「間接とはいえ、サクラに人殺しのレッテルを張るのは嫌だろう」
「それは、嫌だが……」
考えてみればその通りだ。故人とはいえども、サーヴァントは意思を持った人間だ。
それに、雁夜も桜を救ってくれた恩人になんの謝礼もなく終わらせるのは気がひける。
そして―――
それこそ桜の心に傷を付ける行為だ。 雁夜の考えたことは自分の嫌悪し、侮蔑してきた間桐臓硯のやろうとしたこととさして変わらないことだ。
そも、雁夜はこの場には贖罪をする為に来たのだ。
間桐臓硯が死んだ今、桜は救われ、葵は悲しむことはないだろう。
それでも雁夜は自分を許せない。 かつて自分が背を向けたせいで、我が身可愛さに逃げ出したせいで、桜を怖がらせた自分を罰するために戻ってきた。
すでに償いは必要なく、その術もない。
なら、せめて桜の望むがままにさせるべきだろう。
それでも桜を傷付けたくはない。 故に、脳裏に浮かんだ妙案を雁夜はフェルディアに告げた。
「俺に、お前のマスターの振りをさせろ。 それなら桜ちゃんから注意を逸らせるだろ?」
「―――正気か?」
フェルディアの言葉に雁夜は迷いなく頷いた。
「死んでも可笑しくないんだぞ」
「臓硯が生きてたら、絶対に死んでた」
フェルディアの脅しにも怖じることなく答えた。
「いいんだな?」
「ああ」
十年前に雁夜が逃げなければ、桜は母親の元で無事に暮らしていたはずだ。 雁夜が拒んだ過去が、巡り巡って桜に降りかかった。
奇跡とでも呼ぶべき事態のおかげで桜は無事だったが、雁夜が納得出来ないのだ。
納得できる術があるとすれば、せめて桜の代わりに戦場に立つことだろう。
「わかった。 お前の案を呑んでやる」
「ありがとう」
間桐雁夜は一人の少女を危険から庇うために。
フェルディアは一人の少女の意思を尊重して。
―――間桐邸にて、二人の男の覚悟が合致した。
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